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だらしなオタヲタ見聞録

2025.04.12 公開 ポスト

畏れにも似た、抗えぬ斉藤由貴の魔力!藤田香織

斉藤由貴という抗えぬ存在

斉藤由貴について語るのは、ちょっと難しいな、と思う部分がある。

私は彼女の学年的にはひとつ下(いやもう学年って、と自分でも突っ込みたくなるけど、年齢でいうと私は早生まれなのでいろいろ説明が面倒臭いのだ。という説明が既に長くなってるけども!)で、斉藤由貴がミスマガジンのグランプリになったときから、特に熱心なファンとはいえないけど興味がないわけではない、くらいな感じでずっと見てきた。

いや「ずっと見てきた」、というか、正確に表現すると「ずっと見てきてしまっている」というニュアンスのような。
積極的に「わーい、斉藤由貴だ! 大好き! 見たい見たい!」といった完全ファンモードな気持ちではなく、歌番組やドラマやバラエティなどで見かけると「あ、斉藤由貴だ。……ふぅ」と、……の部分で凝視しちゃう、目を逸らせなくなってしまう、が連続している感覚。わりと珍しい存在だ。

昔は特に歌番組が顕著で、デビュー曲の『卒業』からして楽曲力が凄まじく、当時既に文科系こじらせ気味女子だった私的には、卒業式で泣かないと冷たい人といわれそうな感じ、が、まさにはぁー、それだ! とぶっ刺さり、そうだ、もっと悲しい瞬間に涙はとっておきたい、おくべき、おこう! と謎の三段活用を経て心に刻まれもした。

しかも斉藤由貴のあの声、あの眼がまた凄まじく、続く『白い炎』は、歌っている姿を見るたびに、たとえ自分勝手な女の子であってもこんな子に「あなたが好きです」なんて言われたら、抗えるはずがなかろうよ! と思わずにいられなかった。

好きよ好きです愛していますな『初戀』も、愛が燃えてる『情熱』も、見るたびに「逃げられない」気がした。逃げられない、抗えない、しょうがない。

そして極めつけは『MAY』。あの歌い出しの♪MAY♪だけで「負けました」、と思わされるあの魔力。いやそんな、斉藤由貴以外のどんなアイドルが相手でも勝てる要素なんてそうそうないのは分かってる。でも、そうしたアイドル力云々という部分とはまた全然違う意味で、勝てる気がしない。世の中には常識とか理性ではどうにもならない感情と衝動がほんとにあると斉藤由貴を見ていると思うのだ。

というわけで、長年恐れ&畏れをもって深入りしないようにしてきたのだけれど、今年はデビュー40周年ということで、歌番組で記念ツアーが行われていると知り、これは一歩踏み込んでみるチャンスではないか! とプレイガイドをチェックして、追加公演のチケットを無事獲得。36年ぶりという全国ホールツアー「斉藤由貴 40th Anniversary Tour“水辺の扉”~Single Best Collection~」の最終公演に行ってきました。
誰かを迂闊に誘い難いので今回もソロ参加だ。

畏れにも似た、抗えぬ斉藤由貴の魔力!

会場は、昭和女子大学人見記念講堂。初めて足を運ぶ会場で、最寄りの三軒茶屋駅に着くと、あ、みなさん斉藤由貴ですね? な雰囲気を放った中高年諸兄の後を疑うことなくついて行き無事到着。圧倒的におひとり様客が多いものの、意外の女性客もいて男女比は体感7対3くらい。

事前にチェックしていた物販で、絶対欲しかったデビュー当時と現在のアクスタを購入し、(こんなに女子トイレが空いているライブに来たのはもしや初めてではなかろうか……)と思いつつ用を済ませ、開演10分前に着席。当日ギリ行きがかりでコンビニにて発券したチケットの席は2階の後ろから2列目で。席が全てではないとわかってるけど、ちょっと残念。でも座席の傾斜角度があってステージは見やすい。その分、階段一段一段の高さがあって、手摺りもないので膝の悪いアラ還としては少々辛かった。

すごい、こわい、うごけない、でもかわいい、やばい

周囲の観客もほぼほぼ50~60代。ステージ上にギター・ベース・ドラム、コーラス、ピアノ&キーボードふたりという構成で、ほどなくブルーグレーの肩出しドレスで斉藤由貴が登場。『初戀』『白い炎』『情熱』といきなり3曲好きです愛重い系で双眼鏡越しに目が合った(と思わされた)だけでため息が漏れてしまう。すごい、こわい、うごけない。

いや可愛い!はい可愛い!でも迂闊に近付けない感じ、は昔からあった!

「本日は斉藤由貴 40th Anniversary Tour“水辺の扉”~Single Best Collection~にお越しいただき、ありがとうございます」という挨拶も、長いタイトルが呪文のように聞こえてくる。

今回のツアーはシングル曲をオリジナルアレンジで歌うことがコンセプトということで、一般客である私でも、知らない曲がほぼほぼなく(2曲だけあった。シングルコレクションといいながらアルバムの曲ですが~という説明も)、6曲目で早くも『MAY』。

直前のMCで『MAY』が主題歌になっていた映画『恋する女たち』のエピソードトークになり、「その時共演した高井麻巳子ちゃん……今は秋元麻巳子さんが今日は来てくれていて……」という話に、「おぉ~!」「まみまみ……」とどよめいていた客席も♪MAY~でまさに水を打ったようになる。

斉藤由貴は、とにかく歌っていても話していても、その声を聞き洩らしてはならぬ……! という気にさせられて、その姿を凝視してしまいがち。でもって、また感情表現が上手い、といというか憑依系なうえに気持ちが入るので、この日は何度か涙で声が詰まることがあった。あの大きな目から涙が溢れて、それでも懸命に歌い続ける姿は、双眼鏡で見ていても胸に迫るものがあり、何度も(これはやっぱり近付きすぎてはいけない。2階後列でむしろ良かった。危なかった……!)と思う。しかも茶目っ気まであって、『MAY』の歌い終わりには、「早いもので次の曲が~」と言い出し、「あ、いい忘れてましたがこのコンサートは2部構成です。このあと、15分の休憩が入ります。業務連絡ですけど!」的なMCで会場を笑わせたりもするのだ。こわい。もうどこまでもこわい!

コーラスは加藤いづみで、途中、デビュー当時からのアレンジャーでもあったピアノの武部聡志とふたりのコーナーもあり、本編ラストは『卒業』。
アンコールのそりゃ歌うよねーな『夢の中へ』は客席も立ち上がって、「拝聴」モードから一転、アイドルライブなノリで楽しく盛り上がったところで、みんなに着席を促し「次が最後の曲になります」。この後のMCがとても良かった。

「本当に大事なことは結局のところいつもつきなみです」「なので最後にもう一度皆様にお礼を申し上げさせてください。ずっと一緒にいてくださって、そして今日、2時間30分くらい一緒にいてくださって、曲を聴いてくださって、応援してくださって、ありがとうございます」みたいなことを(ニュアンス)、訥々と話していて、「これからみなさんもメンバーのみんなも私もそれぞれの場所に帰っていって、今度いつ会えるかなーって感じですけど、それぞれの人生を過ごせていったらいいとおもう。さよならだけどさよならじゃない、きっとまた。その気持ちを込めてこの歌を届けます」(かなりニュアンス)と締めていた。これ斉藤由貴の声で脳内再生して欲しい。魂持っていかれるから!

そして最後の曲は『さよなら』。
ツアーファイナルということで、武部聡志に花束を貰って斉藤由貴は顔をくしゃくしゃにして泣いていた。もうダメだ。次にライブがあったらまたきっと行ってしまう!

でも今度は、この魔力について語り合える誰かと一緒に参加したい。これ以上、はひとりで受け止めらぬ……!

駅も混んでそうだったのでひとりで飲んで帰りました。このアクスタについて「100%1個も売れないと思ってたのに売れた意味が分からない。正直言ってどうかしてると思う。SNSとか見たら小さい小さい若い私と小さい小さい年取った私がオムライスの前とかに佇んでいて奇妙な気持ちになりました」(意訳)って言ってたので炙りレバーの後ろに佇んでもらいました。

 

関連書籍

杉江松恋/藤田香織『東海道でしょう!』

かたや体重0.1t、こなた日常歩数400歩。出不精で不健康な書評家2人が、なぜか東海道五十三次を歩くことに。吉原宿では猛烈な暴風雨に全身ずぶ濡れ、舞坂宿の真夏の国道では暑さに意識朦朧、凍える鈴鹿峠で雪に見舞われ、濃霧の箱根峠であわや遭難!? 日本橋~三条大橋までの492kmを1年半かけ全17回で踏破した、汗と笑いと涙の道中記。

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だらしなオタヲタ見聞録

20年以上、毎日300~500歩程度しか歩いていなかった超絶インドアだらしな生活だったのに、突然フッ軽オタ道を走り出したこの数年。もう「いつかそのうち」なんて言ってられん! 見たいものは見ておきたい! 寄る年波を乗り越えて、進め! ヨタヨタオタヲタ見聞録。

以前の連載『結局だらしな日記』はこちら

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藤田香織

1968年三重県生まれ。書評家。著書に『だらしな日記 食事と読書と体脂肪の因果関係を考察する』『やっぱりだらしな日記+だらしなマンション購入記』『ホンのお楽しみ』。近著は書評家の杉江松恋氏と1年半かけて東海道を踏破した汗と涙の記録(!?)『東海道でしょう』。

Twitter: @daranekos
Instagram: @dalanekos

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