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私は演劇に沼っている

2025.02.26 公開 ポスト

銀杏BOYZ「漂流教室」を聴きながら、友達について考える私オム(脚本・演出家)

私は友達が多い方ではない。保育園を経て、小学生ぐらいから自分で遊ぶ相手を選び始め、中学高校と進むにつれて、遊ぶ相手は減っていった。自分の好きなものや楽しいことが分かり始めると、一緒に興奮を共有できる人とばかり過ごすようになっていったからだろう。今では片手で数えられる程度である。

よく「お前友達いないもんな」といじられる。その通りで、大阪出身だから東京で私が友達といるのを見たことがないというわけではなく、大阪に帰ってもいない。「いるわ!」とツッコミのように返すが、まあ、いない。

ちなみに、東京に友達はひとりもいない。いま私が関わっている東京で出会った人たちで、特別な関係の人たちはたくさんいるが、その人たちは決して友達ではない。それぞれに想いや関わり方は違うが、ひと言でまとめると、大切な人たち……といったところだろうか。友達という呼び方では事足りない想いの人たちである。

 

 

そんな私の数少ない友達のひとりのことを書こうと思う。

そいつは20代前半で結婚をして、今では子供が4人いる。あれ、5人だったかな。しょっちゅう子供が産まれたと連絡がくるので途中から人数がわからなくなって、毎回会うたびに聞いている。6の可能性もある。

子だくさんなそいつとは、15歳で出会ったのだが、15歳のそいつの周りには常にたくさんの人がいた。いわゆる人気者で、休み時間の戯れにそいつがいるかいないかで、楽しさに大きく影響が出ていたなと今になって思う。

私が唯一出席した友達の結婚式はそいつの結婚式で、友人代表の挨拶をさせてもらったことが私の誇りである。

そいつとは良いことも良くないことも、若いからできる恥ずかしいことも若いからできない悔しいことも全てを共に経験した。いま脚本で友や青春を書くときには、そいつと感じた気持ちを思い返したりしている。

 

そんなそいつと、数年前に酒を飲んでいるときに驚いたことがあった。

私とそいつは音楽バンドの銀杏BOYZが大好きで、当時カラオケに行けば交互に銀杏BOYZの曲を延々と歌うのがお決まりであった。

銀杏BOYZの楽曲で「漂流教室」という曲がある。歌い出しの歌詞が、

『告別式では泣かなかったんだ――

あいつは虹の始まりと終わりをきっとひとりで探しにいったのさ――』

となっている。青春を歌った曲で、とても美しくて温かい曲である。一度聴いていただきたい。イントロから優しくて、哀愁が漂い続けていて、聴き終わると大切な友達に会いたくなる曲だ。

驚いたことというのは、この漂流教室の歌詞の「あいつ」はそいつだと思って聞いていると言った私にそいつは、「いや逆や」と言ったことである。

私の妄想では、告別式で泣かなかったのは私で、虹の始まりと終わりを探しに行ったのはそいつであった。しかし、そいつの妄想では、私が死んでいて、そいつは泣いていないというのだ。

そう言われて改めて曲を聴くと、曲が進むにつれて描かれる死んだ側の特徴というか行動が、私の方が合っていてイメージし易いのだ。そして、20年近く曖昧に解釈していた表現がとても鮮明に歌詞の意味が理解できたのだった。

私は驚きのあまり、ヘラヘラするしかできなかった。

私の青春時代を写したように感じていた曲の捉える角度、立ち位置が真逆だったのだ。自分からそいつへのメッセージとして考えていた曲が、自分へのメッセージだと知った。

(「漂流教室」には夕陽が合う)

その日の夜。家に帰ってひとり漂流教室を聴いて飲み直した深夜の気持ちを、またなにかの脚本で使えたらいいなと思っている。

友達は多くなくていい。漂流教室を歌ってくれる存在がひとりだけいればいい。

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私は演劇に沼っている

脚本家、演出家として活動中の私オム(わたしおむ)。昨年末に行われた「演劇ドラフトグランプリ2023」では、脚本・演出を担当した「こいの壕」が優勝し、いま注目を集めている演劇人の一人である。

21歳で大阪から上京し、ふとしたきっかけで足を踏み入れた演劇の世界にどっぷりハマってしまった私オムが、執筆と舞台稽古漬けの日々を綴る新連載スタート!

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私オム 脚本・演出家

1989年生まれ。大阪府出身。代表作は女優の水野美紀氏との共同演出作品「されど、」や映画製作予定の「忘華~ぼけ~」や朗読劇「探偵ガリレオ」などがある。身近に感じる日常にドラマを生み出し、笑いを挟み込みながら会話劇で展開する作風は各テレビ局関係者からの評価も高い。また、10代の頃から国内や海外を放浪していた経験を持ち、様々な角度から人物を描き、人間の悩みや苦悩葛藤を経ての成長に至る描写を得意とする。近年では原作のある作品の脚本演出のオファーが相次いでいる中、自身のオリジナル作品の上演を定期的に行い、多くの関係者が観劇に訪れている。

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