
齢五十も過ぎて、人生初の「推し」ができ、老化する一方の身で西へ東へ遠征する。心は軽いが身体は重い。ままならぬことばかりの50代オタ活考察記!
「好き」と「推し」は違うんです!
膝が痛い。
そうだろうな、と思いつつ医者に行ったところ、案の定、変形性膝関節症と診断され、そうするんだろうなと思っていたとおりヒアルロン酸を患部に注入されること計7回。改善してきたので、もういいかと4週間放置したら、痛みがぶり返してきてしまった。
歯が痛い。
歯医者が嫌すぎてギリギリまで治療に行かない人生を歩んできた結果、親知らず含めて欠損が「8」。車の事故でグラついたまま放置していた前歯と痛む虫歯を含め、いい加減全部治そう! と重い腰を上げてクリニックへ行ってみたら約120万円(前歯インプラント込み)と見積もられ、萎えて治療躊躇中なので、ずっと微妙に歯が痛い。
3年前に突発性難聴になって以来、耳の調子も悪い。視力もまた落ちた(裸眼0.03なのに)気がするし、ときどき腰も痛む。頭と肩は毎日重いし、整形外科で骨粗しょう症気味だともいわれた。血糖値と血圧は上昇気流に乗りまくりだけど、日々のモチベーションは上がらない。50代後半として、かなり劣っている、人間として衰えてる実感がある。スッキリ目が覚めて体のどこにも不具合がない、なんて朝は記憶にない。いつだってうっすら不調でぼんやりしている。
そんな毎日であるにもかかわらず、最近、友人たち(数少ない)は、「いやもう、ほんと良かったよね!」と口を揃える。「電車に乗るようになったし」「新幹線にも乗ってるし!」「飛行機も!」。先日は、「2時間以上立ってるなんて信じられない!」と驚かれ、「こんな人込みを歩く人じゃなかったよね」とまで言われた。「クララの話かな?」と返したくなったけど、自重して「ですよねぇ」と笑っておいた。
長年、めったに出歩かず、家でゴロゴロ本を読んでいるだけの日々を過ごしてきた。スマホのウォーキングアプリが千歩を超えることはめったになく、平均は3~4百歩。数か月電車に乗らないことも珍しくなかった。
それが今では、軽率に出かけて行くし、疲れたと愚痴を吐きつつも2万歩近く歩くこともある。
「推し」ができたからだ。
いや、わかってる。わかってます。50歳過ぎて「推し」って! と自分でも思う。いやいや、それ「ファン」となにが違うの? ですよね。でも違うんですよ。違ったんですよ。
もちろん、これまでにも好きな有名芸能人はいた。テレビや雑誌で見かけて気になり、ネットやSNSで情報を追い、同好の士が見つかってタイミングが合うという偶然が重なればライブに行ったり観劇することもあった。けれどその頃の「好き」と、今、「推し」に対する熱量は明らかに違うのだ。
その違いを、アラ還の推し活現状報告とともに、これから考えていく所存でございます。
膝も歯も腰も痛いけど、来月は2回大阪に行って、観劇3回、ライブ3回の予定が入っている。スケジュールを見ながら、なんて精力的なんだ! と自分でも信じられない。でも、覇気というものと無縁な日々に、先の楽しみがある幸せはとても大きい。
より充実したオタ活生活に!<今月のオタ助け本>
『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』(三宅香帆/ディスカヴァー・トゥエンティワン)1320円
尊い推しの魅力を語りたい。この感動を、この衝撃を、この面白さを伝えたい。だけど巧い言葉が見つからなくてもどかしい! という、オタクあるあるなジレンマを解決に導く文章指南。やばい! すごい! 泣ける! をよりパワーワードにするためにはどうすればいいのか。勉強になります。
初出「小説幻冬」2025年3月号
だらしなオタヲタ見聞録

20年以上、毎日300~500歩程度しか歩いていなかった超絶インドアだらしな生活だったのに、突然フッ軽オタ道を走り出したこの数年。もう「いつかそのうち」なんて言ってられん! 見たいものは見ておきたい! 寄る年波を乗り越えて、進め! ヨタヨタオタヲタ見聞録。