
「大阪大学医学部を定年退官して隠居の道に入った仲野教授が、毎日、ワクワク興奮しています。秘密は家庭菜園。いったい家庭菜園の何がそんなに? 家庭菜園をやっている人、始めたい人、家庭菜園どうでもいい人、定年後の生き方を考えている人に贈る、おもろくて役に立つエッセイ」……。
「幻冬舎plus」で好評連載中の『知的菜産の技術』。本連載の著者である仲野徹さんは、隠居してみて初めて気づいたことがあるといいます。読書の重要性から、時間の使い方まで、現役世代へのアドバイスをいただきました。
* * *
小説と相性のいい「オーディブル」
──先生はオーディブルもよく聴いているとうかがいました。
──軽井沢のブックフェスティバルに一昨年、呼んでいただいたとき、意外とたくさんの人がオーディブルを聴いていることを知ったんです。
オーディブルの存在はもともと知っていましたが、自分で読むのと比べるとスピードが遅いなと思って使っていなかったんです。
オーディブルのよさに気づいたのは、小説を聴くようになってからです。私はよく「どうすればそんなにたくさん本が読めるんですか?」と聞かれるのですが、ノンフィクションが多いからだと思います。いいノンフィクションは理屈が通っているので、さらっと読めるんです。
でも、小説はそういうわけにはいきません。唐突な発言をする人がいたり、わけのわからないことが起こったりするので、ある程度、ゆっくり読まないといけない。そんなとき、オーディブルがぴったりなんです。
ですから、オーディブルで聴いているのは、おもに小説ということになります。
──どんなときに聴いているのですか?
毎朝、6時に家を出て、ラジオ体操の会場まで30分くらいかけて歩くのですが、その往復に聴いています。あと、菜園にいるときも聴いているので、けっこうな時間、聴いていますね。
──オーディブルではどんな小説を聴いていますか?
私は湊かなえさんの小説が、怖くて苦手だったんです。でも、『未来』という作品で能年玲奈(のん)さんが朗読しているというので聴いてみたら、最後まで聴くことができましたね。
あと、超おすすめなのは、大島真寿美さんの『ピエタ』です。小泉今日子さんが朗読していて、読むよりもはるかにいいんじゃないかという気がしたくらいです。
町田康さんの『口訳 古事記』も最高でしたね。これこそ読むよりも絶対面白いと思います。ナレーションの方の間がむちゃくちゃいいんです。大阪弁の捨てゼリフみたいなのも、すごくうまくて。自分で読んでいたら、ここまで笑えないんじゃないかなと思います。
あと、『古事記』ってやたらと長い名前の神さまが多くて、しかも漢字ばかりなので、それでイヤになるんですよ。でも、聴くのであればストレスになりません。その意味でも、オーディブルはおすすめですね。
オーディブルのおかげで、小説を非常に楽しめるようになりました。最近は、みんなに勧めることにしています。
本を読むことは人生でいちばん大事なこと
──先生の人生において、読書はどんなポジションを占めているのでしょうか。
まじめな話をすると、やっぱり人間は本を読まなあかんのちゃうかな、という気がします。
私が心から尊敬している、ライフネット生命保険創業者の出口治明さんは、「人間というのは、人と本と旅からしか学ぶことができない」とおっしゃっています。
そして出口さんは、その中でも本がいちばん大事だとおっしゃっています。人と会うのは相手の都合がありますし、旅はお金も時間もかかります。その点、本だったら安いですし、いつどこでも読むことができます。
ところが、大学で教えていると愕然とすることがあるんです。大阪大学の医学部となると、小学校4年生くらいから塾へ通っている子が珍しくありません。私が教えていたのは大学3年生でしたが、小学校4年生から大学3年生まで、教科書と問題集以外の本を読んだことがない学生がけっこういるんです。
それって根本的に間違っていると思うんです。ある年齢のときに、大事な本を読んでおかないとダメだと思う。だから、授業ではいつも時間を割いて、本の紹介をしていました。今の子はみんな賢いですから、読ませるとみんな面白いって言うんですよ。
──最後に、現役世代に向けてアドバイスをいただけますか。
みなさんの中には、ジムに通って体を鍛えている人もいるでしょう。それと同じように、知力やメンタルを鍛えるために本を読んだほうがいいと思います。忙しいかもしれませんが、意図的に時間をつくって読むしかないと思いますね。
かつては、隠居したらむちゃくちゃ本が読めると思っていました。時間的な余裕がいっぱいありますから。ところが、意外と読めないんですよ。現役時代の倍くらい読めると思っていたのに、せいぜい1~2割増しなんです。
定年したらやりたいと思っていたことのひとつに、「森鴎外全集を読む」というのがあったのですが、いまだに買いもしていません(笑)。おそらく、このまま読まないうちに終わるんじゃないかなと思っています。
だからこそ、無理をしてでも時間をつくって、本を読むことを習慣にする必要があると思います。「いつかこの本を読みたい」と思っていても、その日は永遠に来ないというのが私の考えです。
読書に限らずいろんなことに言えますが、時間があったらやろうと思うのは間違いです。やりたいことがあるなら、「いつかやろう」ではなく、今すぐ始めたほうがいいと思いますね。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】仲野徹と語る「『知的菜産の技術』から学ぶ人生を彩る趣味」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』はこちら
連載『知的菜産の技術』はこちら
武器になる教養30min.by 幻冬舎新書

AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
幻冬舎新書新刊の著者をゲストにお招きし、内容をダイジェストでご紹介するとともに、とっておきの執筆秘話や、著者の勉強法・読書法などについてお話しいただきます。
この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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