
冴えた営業トーク、魅力的な新商品の企画書、ピンチの際のうまい言い訳……「優秀だな」「頭がいいな」と羨望の眼差しを向けてしまうあの人は、どうしてキラリと光る「ひらめき」を連発することができるのか。「ひらめき」のメカニズムと誰でも実践可能なメソッドを解説する『いつもひらめいている人の頭の中』(幻冬舎新書)より、一部抜粋してお届けします。
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呼吸で意識と無意識をコントロールする
私たちが普段からというか、絶え間なくしている行動に「呼吸」があります。
呼吸は脳髄の呼吸中枢からの指令で、自律神経の交感神経と副交感神経が交互に働くことで、吸ったり吐いたりという動作が起きることです。
このあたりの仕組みは、大雑把な言い方をすれば心臓の心拍とか腸の蠕動(ぜんどう)運動などと、同じようなメカニズムです。ただ呼吸と他の自律運動との大きな違いは、私たちは意識して心臓の動きや内臓の動きを止めることはできませんが、呼吸の場合、意識でもある程度コントロールが可能なことにあります。
呼吸は意識でも無意識でもコントロールすることができる。見方を変えると、呼吸を通じて意識と無意識はつながっている。つまり呼吸を操作することで、私たちは無意識をコントロールできるとも言えます。
実はこれは誰もが実行していることです。何かに焦っているときや、気が急いているときには深呼吸をして、気分を落ち着かせようとしますよね。
これは深呼吸をすることで、副交感神経が優位になり、実際に気分が落ち着いたり、リラックスできたりすることを知っているからです。
ヨガや瞑想で呼吸法をうるさく言われるのも、呼吸が無意識領域に影響を与えていることが経験上も理論上もわかっているからです。
もちろんヨガも瞑想も無意識をコントロールする手法の一つです。どちらも心身を整えるのを目的としていますので、ひらめきや創造性にも良い効果を生むでしょう。
しかしながら「ヨガや瞑想をする時間や余裕がない」と言う方も少なくありません。
でも心配ご無用です。難しいことはおいておき、呼吸に意識を向けるだけでも十分に効果があります。無意識にしている呼吸に意識を向けること自体が、「無意識に意識を向けていること」につながっているからです。
仕事の合間や休憩中には数分間だけ目を閉じて深呼吸をしてみる。これだけで気分がリフレッシュし、ひらめきも生まれやすくなります。
スポーツが「ひらめき」に良い理由
スポーツが身体に良いというのは、多くの人が知っていることですが、実は脳にも良く、ひらめきや創造性のためにも効果があることをご存じでしょうか。スポーツをすることは、脳が活性化し、創造性やひらめきを高める効果があります。
スポーツで鍛えられる能力として「空間認知能力」を挙げることができます。この能力は、空間内で物の位置や動きを把握する力のことですが、時間や距離の感覚にも関わっています。
アインシュタインは「時空」という概念を導入して、時間と空間が一体であることを提唱しましたが、そういう難しい理論はともかく、私たちは日常生活でこの感覚を自然に使っています。
例えば、スケジュールを立てるときには、「いつ、どこで」を考えます。「今夜8時に駅の改札口で会いましょう」という約束などがそうです。また「明日のお昼までにこの仕事を終わらせる」という際に、その時間の流れをイメージしながら仕事を進める力も、空間認知能力の一つです。
この力が高い人は、段取り良く物事を進めるのが得意ですし、本を読んでその内容を頭の中でイメージしたり、物語の展開を考えたりする能力も高いです。この空間認知能力が発達すると、思考が広がりやすくなり、新しいアイデアが生まれやすくなります。
どんなスポーツであっても、空間認知能力を鍛えるのに役立ちます。鬼ごっこやキャッチボールのような遊びでも、相手やボールとの距離を感じながら遊ぶことで、自然とその力が高まります。
野球やサッカーなどのゲームでは、時間の流れ、人と人の動きの連携、ボールの位置など時間と空間をどれだけ味方にするかで、ゲームの勝敗が決まります。これは仕事をこなす上でも欠かせません。
また多くのスポーツでは、相手との駆け引きや仲間との協力を通じて、共感力も育まれます。テニスやバレーボール、バスケットボールで相手の動きを予測したり、ラグビーで急にボールの方向が変わる場面に対応したりすることで、脳が活性化し、柔軟な思考や新しいひらめきを得ることができるようになります。
さらに、スポーツは心にも良い影響を与えます。身体を動かすことでストレスが軽減され、気分がリフレッシュされます。
このリフレッシュされた状態が、新しいアイデアを生むための大切な土台になるでしょう。身体と心が健康になると、もちろん脳も元気になり、ひらめきも生まれやすくなります。
スポーツは、身体を鍛えるだけでなく、脳を活性化し、創造性やひらめきを引き出す素晴らしい方法です。ぜひ、日々の生活にスポーツを取り入れて、身体も心も、そして脳も一緒に健康にしていきましょう。
考えが行き詰まったら、リズミカルに散歩
「スポーツは苦手だし時間もないし」という人もいると思いますが、散歩も立派なスポーツです。ゴールとルートを定めれば「競歩」というオリンピック競技になります。
それだけではなく、散歩は「ひらめき」に直結することが多いです。
前にも述べたように新しいアイデアを得るためには、一度問題から離れ、脳をリラックスさせることが大切で、この状態を経ることで、ひらめきや創造的なアイデアが生まれやすくなります。
ぼんやりと座って何もしない時間を過ごすのも、もちろん良いリラックス方法です。でも、そんなときもつい仕事や目の前の問題について考え続けてしまうことがありますよね。その点、散歩は歩くこと自体に意識が向いたり、目に映る景色がどんどん変わることで、自然と脳に刺激が与えられます。
そして歩くというリズミカルな動きも、脳に良い刺激になります。
歩くリズムが脳を活性化させ、ドーパミンの分泌を促します。ドーパミンは、やる気や心地よさを感じさせる物質で、この作用が脳内の興奮と抑制を繰り返し、神経細胞がリズミカルに活動することで、ひらめきが生まれやすくなります。
リズムには、脳を元気にしてくれる特別な力があります。アフリカの伝統的な文化では、人々が物を叩いてリズムをつくり、それに合わせて身体を動かしてきました。
これがダンスの起源とも言われ、そのリズムに身を任せることで、創造的な表現が生まれてきたのです。リズムは、私たちを新しい発想へと導いてくれるのですね。
特別なダンスを覚える必要はありません。ただリズミカルに歩くだけでも、脳が刺激されて、新しい考えが浮かびやすくなります。
考えが行き詰まってしまったときには、外に出て歩いてみてください。風を感じ、変わりゆく景色を眺め、歩くリズムの心地よさを感じているうちに、脳がリフレッシュされて、新しいひらめきが訪れるかもしれません。
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この続きは幻冬舎新書『いつもひらめいている人の頭の中』でお楽しみください。
いつもひらめいている人の頭の中

必死に考えると、ひらめかない。
「ひらめく力」は、誰もが平等に持っている基本的な能力だ。
しかし残念ながら、その力に自ら限界を設け、自身の創造性のなさやアイデア不足を嘆く人は多い。
そのリミッターは、ちょっとした意識の転換で簡単に外せて、その結果、誰でも存分にひらめきながら創造力を発揮できるようになる。
鍵となるのは、あなたの感情と美意識だ。
本書ではひらめきのメカニズムを4つのプロセスに分解し、今すぐ実践できるメソッドを、最新の脳科学研究や具体的事例とともに詳述。
思考の枠を打ち破る、革新的なひらめき大全『いつもひらめいている人の頭の中』(幻冬舎新書)より一部抜粋。