
元々、芥川賞候補作を読んでお話しする読書会をX(旧Twitter)で行っていた菊池良さんと藤岡みなみさん。語り合う作品のジャンルをさらに広げようと、幻冬舎plusにお引越しすることになりました。
毎月テーマを決めて、一冊ずつ本を持ち寄りお話しする、「マッドブックパーティ」。第十一回のテーマは「プレゼントしたい本」です。本をプレゼントするのって、悩んでしまいますよね。お二人はどんなことを考えて選んだのでしょうか。
読書会の様子を、音で聞く方はこちらから。
* * *
菊池良が「プレゼントしたい本」:ヒグチユウコ『ほんやのねこ』(白泉社)
菊池:第11回のマッドブックパーティ。テーマは藤岡さんが考えてくださった「プレゼントしたい本」ですね。
藤岡:はい。
菊池:これ、すごく悩みました。
藤岡:悩みますよね。
菊池:どんな本がいいかなとか、誰にどんな本がいいかなって、結構考えますよね。
藤岡:確かに、相手によって全然違う選択肢になりそうですよね。
菊池:そうですよね。その中で色々候補は浮かんだんですけど、僕が選んだのが、ヒグチユウコさんの『ほんやのねこ』っていう本です。
藤岡:はい。とってもかわいい。もう手に取った瞬間、誰もが「可愛い~」っていうような素敵な本ですね。これは。
菊池:そうですよね。表紙のイラストも猫が本読んでるイラストなんですけど、この猫が本屋をやってて、そこに来る客に対して「こういう本どうですか?」って紹介するっていう内容の本になってます。
藤岡:はい。絵本ですかね。大きさ的にはそんなに大きくないけど、内容的には絵がたくさん入ってて。
菊池:絵本と児童小説の中間みたいな。
藤岡:そうですね。
菊池:はい。ヒグチさんが絵と文もやってるんですけど、全ページフルカラーでイラストがついてて、それに対して文章で物語が展開していくっていう本ですね。
藤岡:はい。すごい素敵で、1ページ1ページが宝物のよう。とっても細かいイラストで、書き込みもすごい。
菊池:すごい贅沢な本で、全ページフルカラーっていうのがなかなかないですし。
藤岡:すごいな。うっとりするような本ですね、これは。
菊池:そうですね、美術的な見方をしても、すごく贅沢な本だと思います。それが100ページぐらい続くっていう。
藤岡:すごいですよね、フルカラー。すごい時間かかるんじゃないかな、絵をこんなにたくさんフルカラーで。
菊池:うん、すごい手間がかかった本だと思います。
藤岡:そうですよね。
個性的なキャラクター、どれかは絶対に刺さる!
藤岡:なんで「プレゼントしたい本」だと思ったんでしょうか。
菊池:そうですね。僕がプレゼントの相手として想定したのが、本はあまり読んでないけど、そういうのに興味がありそうな人。
藤岡:いいですね。
菊池:そういう人に対する読書の入り口としていいんじゃないかなって思って、この本を選びましたね。
藤岡:確かにこの本をもらったら、「物体としての本」っていうものをめちゃくちゃ好きになりそう。
菊池:そうですね。本についての本でもありますし。
藤岡:確かにこの主人公の本屋さんをやってる猫も、いろんな人に対して本を選んであげるみたいなお話ですもんね。
菊池:そうなんですよね。
あと、この本の中で、いろんなキャラクターが出てくるんですけど、そのキャラクターも個性がそれぞれ全然違ってて。
藤岡:そうですよね、常識にとらわれないキャラクターばっかり。「この世界でそれが成立してるんだ!」っていう、なんでもありな感じで。
菊池:はい。
藤岡:猫だけど、体が、これ何? タコ? みたいなのが出てきたり。
あと、一番びっくりしたのが、犬が出てくるんですけど、その犬が、いわゆる人間の世界と同じ喋らない犬も出てくるのに、人間みたいな二本足で立っておしゃれしてる犬も、どっちも出てくる。
普通だったらそんなことしないっていうことも軽々と乗り越えているところに、すごく自由な世界を感じましたね。
菊池:そうですね。いろんな個性豊かなキャラクターが出てくるので、どれか気に入るキャラクターがいるんじゃないかなとも思います。
藤岡:確かに!
菊池:基本は猫なんですけど、宇宙人みたいなやつがいたりとか、さっき藤岡さんが言ってた足がタコみたいになってる猫、ギュスターヴくんっていう名前なんですけど、そういうキャラクターが出てきたりとか、どれか刺さるんじゃないかなって思いますね。
藤岡:そうですね。生きてる猫もいるし、ぬいぐるみの猫だけど、なんか動いてる子もいるし、ちっちゃいヒトデみたいなのとかいますよね。
菊池:そうですね。
藤岡:これ大好き。ちっちゃい子たちが喧嘩してるっていうシーンがあって、クラゲみたいな、ヒトデみたいな、なんかちっちゃい子が2人で、頭突きをくらわすみたいな挿絵がめちゃめちゃ可愛いんです。27ページのこの頭突きしてる絵がとても好きで。
菊池:かわいいですよね。
藤岡:めちゃくちゃかわいい。
菊池:その子たちに本を渡して、「仲良くしましょう」みたいな展開なんですけど、なんかそういうのもいいですよね。
藤岡:はい。
菊池:目が3つある謎の生き物とかも出てきますし、
藤岡:本当に。あと、本屋さんのテーブルと椅子が夜になると横になって寝てるっていう、「あ、そうだったのか!」っていう。
菊池:いいですよね。普段昼は4本足、2本足で立ってるけど、夜になったら寝ちゃうっていう。
藤岡:可愛い。このだら~んとした足の感じがとっても可愛い。
菊池:はい、どれか気に入るだろうなっていうのが「プレゼントしたい本」に選んだ理由の1つですね。これを通して本っていいなって思えるんじゃないかなって思いますし。
藤岡:確かに。
菊池:ヒグチユウコさんの作品って、他の作品とキャラクターが結構共通してたりしてて。このタコみたいなギュスターヴくんも『ギュスターヴくん』っていう絵本が出てるんですよ。
藤岡:そうなんですね。
菊池:そう。最近も「ギュスターヴくん」シリーズで2冊目の絵本が出てるんですけど、そうやってヒグチさんの他の作品だと……とかって見ていても、世界が広がっていくなって思います。
藤岡:そうですね。この本を好きになったら、どんどん他の本にも手が伸びていく。
菊池:うん、そうですね。
じっくりと楽しみたい、作りこまれた一冊
菊池:あと、個人的に自分で選んで思ったんですけど、やっぱり僕って架空の本が好きだなって。
藤岡:そうですよね。前も『あるかしら書店』を紹介されてましたもんね。
菊池:この『ほんやのねこ』の中にも、この本が色々出てくるんですけど、そういうのを見てると、想像力が広がって面白いよなって思いますね。
藤岡:作中に本の絵が書いてありますが、その架空の本の説明とかがちっちゃい文字で書いてあって、こういうのを読むのが子どもの頃からすごい好きだったんですよね。
私、「かいけつゾロリ」シリーズを子どもの頃によく読んでいたんですけど、絵の周りにすっごいちっちゃい字で、その絵の説明が書いてあったりするのを、じーっと見るのが好きで。
この本も一番最後に見開きで、本屋さんの間取り図のおっきな絵が載ってて、これもずっと見ていられる、可愛い。「体重計/毎日のらないわ」とか書いてある。
菊池:面白いですよね。すごい作り込まれてますよね。
藤岡:そう、作り込まれてる。可愛い。
菊池:1枚1枚絵をじっくりと見ても面白いでしょうし。
藤岡:これは確かにもらったら嬉しい。
私も大人へのプレゼントに絵本とか児童書とかを送るのが結構好きなんですよね。子どもの時とはちょっと違った気持ちで味わえたりとかするので。だからこれ、すごくいいと思います、プレゼントに。
菊池:そうですね。この本自体が『ほんやのねこ』なんですけど、お客さんに対して本をプレゼントするみたいな話なので、そういった面でもこの本を誰かにプレゼントすることで完結するような気もして。
藤岡:そうですね、二重構造になってますね。
菊池:自分が登場人物になれるのかなって思って。
藤岡:本当ですね。
あと、カバーの箔押しがすごく綺麗で。タイトルの文字も金色の箔押しなんですけど、よく見ると、絵のちっちゃい部分にもちょこちょこって金色がついてて。こりゃすごい。
菊池:イラストに書かれてる本の背表紙のところとかも金色になってますね。
藤岡:これはちょっと家に飾りたい本でもあるかもしれないです。
菊池:そうですね、表紙を見える形で飾りたくなる本だなって思います。
藤岡:ね。そうですよね。かわいい。
菊池:そういった面でもプレゼントにぴったりかなって思って選びました。
というわけで、僕が「プレゼントしたい本」は、ヒグチユウコさんの『ほんやのねこ』でした。
藤岡:ぜひぜひ、皆さんもプレゼントにおすすめです。しかもフルカラーなのに安いし。
菊池:そうですね(笑)。
藤岡:1500円。すごいなあ。
* * *
次回は藤岡さんがプレゼントしたい本をご紹介します。お楽しみに。
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