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菊池良と藤岡みなみのマッドブックパーティ

2025.04.17 公開 ポスト

藤岡みなみが「プレゼントしたい本」は366日の短歌と記憶が楽しめる『時の辞典』菊池良(作家)/藤岡みなみ(エッセイスト/タイムトラベラー)

元々、芥川賞候補作を読んでお話しする読書会をX(旧Twitter)で行っていた菊池良さんと藤岡みなみさん。語り合う作品のジャンルをさらに広げようと、幻冬舎plusにお引越しすることになりました。

毎月テーマを決めて、一冊ずつ本を持ち寄りお話しする、「マッドブックパーティ」。第十一回「プレゼントしたい本」の後編です。 

 

読書会の様子を、音で聞く方はこちらから。

*   *   *

藤岡みなみが「プレゼントしたい本」:岡野大嗣『時の辞典 365日の短歌』(ライツ社)

藤岡:私が選んだ本は、じゃじゃん! こちら! 岡野大嗣さんの『時の辞典 365日の短歌という本です。これは短歌の本ですね。365日……あれ、うるう年も入って……、ますね、366日か。1日1つ、日付に短歌が割り当てられている本で、366日、366首の短歌が入ってるんですね。
この本、実は、岡野大嗣さんのベスト作品集でもあるんですよ。

菊池:ああ、そうなんですね。

藤岡:だから、最初からこの日にこの短歌を作ろうみたいなふうにしてできてる本じゃなくて、もともとある、今まで詠んだ短歌を1年間の日付に当てはめているっていうことで、これ、なんで人にあげたいかと思ったかっていうと、やっぱり誕生日とかにあげるとすごくいいんじゃないかなと思って。

菊池:そうですよね。

藤岡:はい。その人の誕生日の日付のところにぴったりな短歌が書いてあったりして、今日はこの短歌だねとか一緒に見てみたり。ちなみに菊池さんは何月何日がお誕生日ですか?

菊池:僕は9月12日です。

藤岡:9月12日、じゃん!
「ほんとうに? 置いてけぼりに思うときそこは先頭かもしれないよ」
おお、なんかいいですね、これ。

菊池:僕も自分の誕生日をまず最初に見ちゃいました(笑)。

藤岡:そうですよね、まず見ちゃいますよね。なんかこれ、すっごい菊池さんっぽくないですか!?

菊池:そうなんですよね。これ右下に何の日とかあったら書かれてるんですけど、9月12日はマラソンの日みたいで。

藤岡:だからか、マラソンの日ね。それもちょっとかかってるんだ。

菊池:短歌自体がそれに紐付けられてもいるんですけど、でも確かに「置いてけぼりに思うときそこは先頭かもしれないよ」って、僕の過去を考えると……。

藤岡:なんか菊池さんっぽいなと思いますよね。

菊池:「世界一即戦力な男」っていう就活のウェブサイト作ったりとかしてましたからね。

藤岡:「おお!」ってなりましたよ。菊池さんの今までのお話を聞いていて、さらに今、どんどん新しいことをやっている感じとかも含め、ぴったりかもって思っちゃった。

菊池:そうですね。たまたまなのかもしれないですけど、自分にすごく刺さる短歌が書いてありました

藤岡:刺さりますよね。
この本すごい面白くて、マラソンの日のために書き下ろしたとかそういうわけじゃなくて、短歌を日に当てはめてるっていうのも逆に面白くて。例えば私は8月9日が誕生日なんですけど野球の日で、「ぼくの息だけが聞こえるぼろぼろのマジックテープをきつめにとめる」っていう短歌だったんです。それを読んで、息っていう言葉って、考えたことなかったけど、めちゃくちゃ夏っぽいなって思って。

菊池:うんうんうん。

藤岡:あとから日付に当てはめてることで、この短歌にも新しい景色が加わっているような感じがして。

菊池:ああ、はい。

藤岡:それが面白い。これがもし冬に当てはめられてたら、冷たい空気を感じながら読む短歌だと思うんですよ。

菊池:そうですね。白い息のイメージだったりしますね。

藤岡:はい。でも8月9日っていうめっちゃ具体的な1日が割り当てられてることで、ちょっと湿った息だったり、熱い空気だったりを肌に感じながらこの短歌を読めるっていう、新しい短歌の味わい方にもなってるなって。

菊池:そうですね。日付に当てはめることで季節感が出てて、すごい味わい深くなってますよね。

藤岡:そうですよね。で、今日が4月7日なので、4月7日を見てみると、これだ。
「もう四月 三月までのことなにも覚えていないふたりで歩く」
これはちゃんと4月って入ってる短歌でしたね。だから4月に入れるか! って本を作る時になったのかもしれない。やっぱり4月7日って4月が始まりたてだから、この感情すごいわかる。

菊池:確かに、そうですね。

藤岡:これ4月30日ではないな、4月7日っぽいな。実際私もなんでもう4月なんだろうっていう気持ちで毎日過ごしてます。

菊池:思いますね。

藤岡:ね、思いますよね。だからすごいぴったり。

時の標本ではなく、時の透かし​

藤岡:この本すごく素敵なのが、1ヶ月ごとに紙の色が違うんですよね。だから、12色の紙で編まれている。それも人にあげたいポイント。

菊池:そうですね。すごいカラフルで綺麗ですよね。

藤岡:はい。そしてこれ、「人にプレゼントしたい本」あるあるかもしれないんですけど、これも表紙に素敵な箔押しのキラキラがついてて。

菊池:本当だ。表紙に鍵が書かれてるんですけど、鍵の輪郭の部分がすごい綺麗ですね。

藤岡:ね、ホログラムっぽい、ラメっぽい感じの箔押しで、キラキラしてるんですよ。
あと、私がとても気になったのが、最後に「作者のことば」っていうあとがきみたいな短い文章があるんですけど、そこに「この本は、時の標本ではありません/誰かの日付ではない、/あなたが生きた『時の透かし』」って書いてあるんですね、一番最後に。「時の標本ではありません」っていうところにすごいドキッとして、

菊池:うんうん。

藤岡:確かに私、最初は「時の標本」っぽく、この1日ってこういう1日ですみたいな感じで受け取ってたんだけど、でも読むうちに、自分の体験の中からその日を想像するから、自分の短歌って感じがするんですよね。

菊池:うんうん。

藤岡:さっきの菊池さんの誕生日もそうですけど、誰が読むとか、誰にあげるとか、誰と読むとかで、短歌にもう1つ情報が加わるじゃないけど、人格が生まれたり、空気が生まれたりするっていう、かなり面白い仕組みだなと思って。

菊池:そうですね。人によって読み方が変わるでしょうし。自分の過去のことを思い出したりとかするんだなって思いました

藤岡:ね。本当、そうですよね。

短歌をとっかかりに、自分の記憶にもアクセスできる

藤岡:適当に開いたページを読むのとかも、すごい良いんです。その日に飛んでいけるというか。具体的な日付っていうのがミソで、この本にはページ数が書いてないんですね。

菊池:あ、ほんとだ。

藤岡:ノンブルの代わりに日付が書いてある。そこも素敵なところで。
「8月を想像しよう」とか「12月を想像しよう」って思っても、なかなかぼんやりとしかできないんだけど、「何月何日に飛んでいこう」と思って、ほんとに飛んでいける。その日の記憶に自分だけで飛んでいくって無理なんですけど、この短歌というとっかかりがあって、その日付があってだと、私が本当に生きてた何月何日の匂いがしてくるような気がして。それが面白いなと思いました。

菊池:あと、『時の辞典』っていうタイトルがすごくいいですよね。

藤岡:タイトルいいですね。本当に。

菊池:このタイトルだけ見た時、最初短歌の本だってわからなくて。時間にまつわることが辞典的に載ってる本なのかなとも思いましたし。

藤岡:確かに。だから普段短歌読まない方にも贈ってみたい本です。あんまり短歌だと思って読まなくても面白いというか。

菊池:そうですね、

藤岡自分が持ってるいろんな時間にアクセスできる本だと思います。

菊池:藤岡さんが最初にこの本が気になったのは、やっぱりタイムトラベラーだからですか?

藤岡:そうなんですよ。完全にタイトルに惹かれて、「あ、これはタイムトラベル本に間違いない」と思って手に取って。
でも確かに、1日とか一瞬を閉じ込めるのに、短歌って一番いいメディアというか、容れ物ですもんね

菊池:そうですね。しかも読む人によって解釈が変わってくるので、人によってタイムトラベルする先が違うというか。

藤岡:うんうん、だから、「時の標本」じゃなくて、「時の透かし」。透かして自分の何かが見えてくるっていう、素晴らしい表現ですね。

菊池:人と読むとすごい面白い本だと思うんで、すごいプレゼントにぴったりだと思います

藤岡:そうですよね。「これお誕生日プレゼントだよ」って渡して、一緒にその日付はどこだろうってその場で読んでみて、じゃあ今日の日付はなんだろうとか、大事な人の誕生日はなんだろうとか。いろんな日付をパラパラめくって。
頭から読む本とはまた違いますよね。まあ頭から読んでもいいんだけど、多分みんなが最初に自分の誕生日を見るっていう(笑)。

菊池:そうですね。その短歌がわからなくても面白いでしょうし。これってどういうことなんだろうって話し合って楽しそうですよね。

藤岡:そうですね。というわけで、私が選んだのは『時の辞典』という本でした。

菊池:はい、ありがとうございました。

藤岡:ありがとうございます。

次回のテーマを決めましょう

菊池:次のテーマどうしましょうか。

藤岡:どうしましょうか。なんとなくこの間ぱっと思いついたのが、「寝る前に読みたい本」っていうの。

菊池:ああ! いいですね。

藤岡:いろんな意味で。

菊池:いろんなパターンがありそうですね。

藤岡:そう、難しすぎて眠れるとかもあるかもしれないし。

菊池:じっくり読みたいとか。

藤岡:ね、そんなことを思ってみたんですけど、どうです?

菊池:ぜひそれにしましょう。

藤岡:じゃあそれでやってみましょう。次回は「寝る前に読みたい本」

菊池:はい。よろしくお願いします。

藤岡:お願いします!

*   *   *

来月のテーマは「寝る前に読みたい本」になりました。二人がどんな本を選ぶのか、お楽しみに。

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菊池良と藤岡みなみのマッドブックパーティ

菊池良さんと藤岡みなみさんが、毎月1回、テーマに沿ったおすすめ本を持ち寄る読書会、マッドブックパーティ。二人が自由に本についてお話している様子を、音と文章、両方で楽しめる連載です。

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菊池良 作家

1987年生まれ。「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」シリーズ(神田桂一氏との共著)は累計17万部を突破する大ヒットを記録。そのほかの著書に『世界一即戦力な男』『芥川賞ぜんぶ読む』『タイム・スリップ芥川賞』『ニャタレー夫人の恋人』などがある。

藤岡みなみ エッセイスト/タイムトラベラー

1988年、兵庫県(淡路島)出身。上智大学総合人間科学部社会学科卒業。幼少期からインターネットでポエムを発表し、学生時代にZINEの制作を始める。時間SFと縄文時代が好きで、読書や遺跡巡りって現実にある時間旅行では? と思い、2019年にタイムトラベル専門書店utoutoを開始。文筆やラジオパーソナリティなどの活動のほか、ドキュメンタリー映画『タリナイ』(2018)、『keememej』(2021)のプロデューサーを務める。

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