
人生相談のカリスマである加藤諦三さんの新刊『人はどこで人生を間違えるのか』が好評発売中です。本書から一部を再編集してご紹介します。
* * *
認めがたい感情を外に向けることが「投影」
自分の中で認めがたい感情が、ある外的な対象に属すると見なすことを「投影」という。ケチである自分を認められない時、ケチでない人に対しても「ケチ、ケチ」と激しく非難する。臆病である自分を認められない人が、他人を「臆病者!」と激しく非難する。自分が冷たい人間であることを認められない人が、他人を「冷たい、冷たい」と激しく非難する。そのような人は、自分の理想として愛情豊かな人間であることを求める。
しかし心の底では、自分自身が冷たいと知っている。しかしそれを意識の上で認めることができず、「あいつは冷たい」「あの人は利己主義者」と激しく他人を非難するのである。
ある人が不動産業者に騙された。隣接する土地まで自分の敷地と思わされて買わされた。
しかし、騙されたことを認めることはできない。なぜなら騙されたことを認めるということは、自分の損害を認めることだからである。そこで不動産業者の言う通り、隣接する土地も自分の土地だと主張した。そうなると本当の所有者と衝突する。
そこで彼女はその本当の所有者に、自分の中にある敵意や悪意を外化する。
「あの人は悪意の人だ、搾取する人だ」と言い出した。
その人自身が常に人から物を搾取する人なのだが、それを相手に外化して、相手を搾取タイプの人と非難する。騙されて損をした自分を受け入れられない。この自己憎悪がトラブルの真の原因である。
自分の心の葛藤から目を背けない
満たされない顔でいつまでもしつこく相手の些細な欠点を責め続ける人がいる。どうでも良いようなことなのであるが、「あなたには人間としての誠意がない」という大袈裟な言い方をする。
自分の心の葛藤を解決するために相手を非難する人は、非現実的な理想像と比較して相手を責め苛む。それは責めている本人が現実の自分と理想的自我像との乖離に苦しんでいるからなのである。その責めている本人の深刻な自己蔑視なのである。神経症的な栄光追求の挫折から相手を非難しているに過ぎない。
いつまでもいつまでも、しつこく相手を責め苛むのは、相手に問題があるのではなく自分の心の葛藤が問題だからである。しつこい非難は、非難している人が本当の原因から目を逸らしているに過ぎない。
心の底には劣等感がある。心の底では、実際の自分は、自分がそうであると主張している素晴らしい自己像とは違うと知っている。
うぬぼれている人間は、心の底の無意識のレベルで自分が劣っていることを知っている。そしてそれを憎んでいる。そしてその無意識のレベルにある劣等意識を他人に投影する。劣っている人間に対して厳しい批判をし、軽蔑し、憎む。これみよがしに嘲笑する。
うぬぼれている人間が劣った人間をこれみよがしに嘲笑するのは、うぬぼれている人間の心の葛藤を表しているのである。彼は自分が劣っているということを、どうしても認めることができない。しかし心の底の底では、自分が劣っていると感じている。
劣等感のある人は、人を助けたがる。自分の恋人は理想の女性であって欲しいと願う。
外化しながら生きている人は、どうしても現実の厳しさに耐えられない。現実の否認をしながら、現状から目を背けて生きていこうとする。本当のことを突きつけられたら、受け入れがたくて卒倒するだろう。
あなたの無防備さが、騙す人を引き寄せる
人を騙そうとしている人は、まず誰よりも先に無防備な人を狙う。一所懸命働いている人、頑張っている人、仕事熱心な人、真面目な人、純粋で有能な人、そうした人々で、かつ無防備な人を狙う。
そういう人たちは、頑張った成果をそっくりと持って行かれてしまう。無防備な人はたいてい自分が無防備だとは気がついていない。そこがまた騙そうとしている人には、美味しい餌なのである。
自己蔑視から無防備になっている人は、自分の心の葛藤に気を奪われて、周囲の人が見えない。ずるい人が近寄ってきてもわからない。
搾取タイプの人が騙しに来ても、わからない。自分の心の葛藤に気をとられているから、自分の周囲で何が起きているかには関心がいかない。
自分の周囲が質の悪い人だけになっても気がつかない。質の悪い人に囲まれて頑張って働いても、搾取されるだけなのに、それがわからないで一所懸命に働いている。
「ずるさは弱さに敏感である」とは名言である。そして自己蔑視も同じことである。
「ずるさは自己蔑視に敏感である」。これは私が作った言葉だが、同じように名言だと思っている。
自己蔑視している人は、周囲にずるい人を引き寄せてしまう。
ずるい人に囲まれたら、どんなに努力しても幸せにはなれない。
人はどこで人生を間違えるのかの記事をもっと読む
人はどこで人生を間違えるのか

手に入らない成功、不本意な評価、漠然とした生きづらさ――「自分は生き方をどう間違えたのか?」と悩む人は多いだろう。その原因は、実は、不安や怒りにまかせて他人を責めてしまう「外化」という心理メカニズムにある。それによって、あなたは自分をごまかし、人間関係を歪め、自分で不幸を引き寄せているのだ。「外化」の罠から抜け出せれば、ほんとうの自分を取り戻し、もっと楽に生きるための道筋が見えてくる。人生相談のカリスマが贈る、満足のいく人生を送るための心理学。