そうです、ボルダリングをするために、肩の治療をする宮田さんでSY。いつの日か、いや、一日も早くボルダリングを始めるために。
* * *
前回から、筋トレあらためボルダリングで運気をあげる方針に変更した。さっぱり気が乗らなかった筋トレに比べ、本人はやる気満々なのであるが、不本意ながら左腕があがらない。
四十肩というか五十肩というか六十肩の症状で、まずこれをなんとかしなければボルダリングにたどりつけない。
そこで鍼灸院に通い始めたわけだけれども、通い始めたからと言ってすぐに治るわけではないのである。
先生によれば、四十肩、五十肩は正確には肩関節周囲炎といって、ふつうは肩を動かすときに、骨と骨がぶつからないよう筋肉や靭帯でカバーしているのが、筋肉が痛んでいるためにそれが緩衝材の役割を果たさなくなって痛むのだとか。
で、その筋肉を治すために鍼と電気とその両方を組み合わせ、鍼に電気を直接流す治療を行なっている。
「大丈夫、最悪の時期は過ぎてます。これからだんだん治っていきます」
と先生は言ってくれるのだが、肩があがらなくなってから半年は過ぎており、治療を始めて一カ月半が経っても、一向に変化が見られない。
「とくに良くなっている感じがしないんですけど」
と不安を訴えると、
「とにかく痛いことをしないようにしてください。痛いと思った瞬間にまた筋肉が傷ついてますから、痛い動きはなるべく避けつつ、周辺の痛くない筋肉が固まらないよう動かしてください」 って、なんだかとても難しいミッションを与えられている気がする。 痛い動きを避けよと言われても、ギプスで固めているわけではないから、それは不意にくるのである。たとえば風呂掃除のときにスポンジで奥の壁を擦ろうとした瞬間とか、車をバックさせるため助手席の後ろに手を回した瞬間とか、細心の注意をしていても、痛っ、となることがある。
どちらもやらないわけにいかないから、結構気をつけて動かす角度を調整しているつもりなのだが、それでも痛みは不意をついてくる。
そのたびにせっかく良くなりかけていた筋肉がまた元に戻ってしまうとしたら、永遠に治らない気がする。
しかも周辺の他の筋肉は動かせという。どういう動きが痛いのか把握したうえで、それ以外の動きを活発に行なう必要があるわけだけど、どんな動きでも少しは痛い。
そう訴えると、先生は五十肩専用のリハビリ方法を伝授してくれた。
腕を体側につけ、肘を折って前に曲げ、つまり小さく前にならえの状態で、肘から先を右に1センチ程度、また左に1センチ程度小さくくりかえし動かすというもの。
たった1センチ? と思ったが、それ以上大きく動かすと鍛えたい筋肉と違う筋肉が動いてしまって効果が弱くなるとのことで、やってみたらこれがあまりに動きが小さいため、効果が出そうな気がしない。
小さく筋トレをしていることになるが、筋肉に負荷がかかっている気がせず、思わず、
「全然効いている気がしません」と言ってしまった。
「いいえ、ちゃんと効いています」
先生はあくまでそう主張する。
「これを1日左右20回ずつ朝夕3セットずつやってください」
筋トレ20回を3セットという嫌な響きに挫けそうになるが、それは単なる思い込みで、これに限っては何の負荷もないから、挫けようにも挫けられない。20回じゃんけんするほうが腕の負担が大きいぐらいだ。
この筋トレとも呼べないチビ筋トレを20回×3セット×左右×朝夕で、合計240回やれというわけだけれども、あまりに簡単すぎて意味のあることをやってる実感がもてないのだった。
それでもボルダリングのためにはやる以外ないので、思いついたらやろうと思うが、あまりにインパクトがなくて、そのうち忘れそうである。
そして、先生がそれに加えて恐ろしいことを言いだした。
「今回から置き鍼もやってみましょう」
結構です。
と即答しそうになった。こっちは鍼さえ初めてなのに、それを体内に放置されるなんて恐ろしすぎる。鍼が入ったまま行動して先端が変なところに刺さったり、鍼が潜って抜けなくなったり、ばい菌が入ったりしないのか。銃弾や矢じりが入ったまま三十年生きてる人みたいな、あんなふうになるのではないか。
「大丈夫です。小さな鍼ですので」
そう言って先生が見せてくれたのは画鋲みたいな円板付きの鍼で、しかも鍼自体は1ミリぐらいしかない。
いや、たしかにこれなら体内に潜伏しそうにないけど、こんなんで効果あります?「皮膚に刺さるだけですが、これでも効果があるんです」というわけで今私の肩には画鋲が刺さっている。
どうしてこんなことになったのか。運気がみるみるあがっていく姿をお届けするはずが、画鋲が刺さったおっさんをお届けしているとは。いったいいつになったらボルダリングにたどりつけるのだろうか。
困った。
このままでは危ない。筋トレもできないし、肩も動かせないからといって、今はゆっくり休養して英気を養おうなどと考えていたら老化一直線だ。どんどんぬるい動きが身について、それがデフォルトになってしまう。手をこまねいていないで何かしなければ。
大事なのはスピード感をもって生きることだ。こんなときこそ溌剌とした動きを忘れず、スピード感を保ち続ける必要がある。
老人の最大の特徴として、ゆっくり動くということがある。スピード感がない。
若者にもだらだらしてちっとも動かないときがあるが、あれはひとたび動けば用事が早く済むので、まだ動かなくても大丈夫と思って余裕こいてるからである。
逆に老人はゆっくり動く。おかげで用事はなかなか終わらず、いつも次にやることが後に控えて順番待ちの状態である。
私のスピード感はどのぐらい残っているだろうか。
(後半へつづく)
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衰えません、死ぬまでは。
旅好きで世界中、日本中をてくてく歩いてきた還暦前の中年(もと陸上部!)が、老いを感じ、なんだか悶々。まじめに老化と向き合おうと一念発起。……したものの、自分でやろうと決めた筋トレも、始めてみれば愚痴ばかり。
怠け者作家が、老化にささやかな反抗を続ける日々を綴るエッセイ。
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