人類の悲劇を巡る「ダークツーリズム」が世界的に人気です。その日本の第一人者といえる井出明氏の『ダークツーリズム~悲しみの記憶を巡る旅~』では、代表的な日本の悲しみの土地と旅のテクニックを紹介。今回は、観光地におけるガイドの役割について抜粋してお届けします。
ガイドの役割はとても大きい
遺構と廃墟は何が異なるのであろうか。
廃墟は、ハードウェアとして打ち捨てられた物体そのものである。
一方、遺構は、客観的な見た目は廃墟と同じようであっても、そこにコンテクストを読み込み、人間の文明活動の所産として存在している状況にあるものを指す。この物体にコンテクストを読み込む作業は、異邦人や部外者には難しく、旅先で意味のある石像があったとしても見落として帰ってくる経験は読者諸氏にもあるであろう。
その意味で、ガイドと地域を歩くということは意味のある営為である。
ただし、ガイドの側も単に目の前の状態を説明するだけでなく、比較文明史的に対象物の意義や背景を説明できなければ、単なる「旗持ち」(団体旅行で、旗を持って先頭に立って歩く人)になってしまいかねないので、ガイドの見識はダークツーリズムという経験において重要な意味を持つ。
ダークツーリズムポイントでしばしば出会うガイドは、いかに大変な悲劇があったのかということを全力で語ることがよくあるが、状況を客観化できない語りは、旅人に「大変だったんですね」としか言わせられず、内面的な啓発を与えることが難しい。これは、ダークツーリズム以外の観光形態にも言え、「ここが素晴らしい」という押しつけがあると、旅人の内なる革新につなげることがやはりできない。
眼前の状況を他の地域との比較の中で述べ、最終的な解釈は旅人に委ねるとともに、旅人にゆっくりと考える時間を与えながらガイドをしてくれる専門家というのは日本ではあまりいない。これは、日本でガイドが専門家の仕事として認知されていないことに起因するわけであるが、国策として観光を振興するのであれば、こうした人材育成も重要になってくる。
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今晩!当日のお席もあります!
<井出明氏トークイベントのお知らせ>
9月29日19時~20時30分
「ダークツーリズムで観る世界と地域」
大阪・梅田 蔦屋書店4thラウンジ
詳細はHPをご覧ください。