【愉快! 爽快! 痛快! これが日本版「キングスマン」だ。】シリーズ累計150万部「ニンジャスレイヤー」チームが描く衝撃の社内スパイアクション『オフィスハック』待望の第5話連載。舞台は東京・丸の内の巨大企業T社。人事部特殊部隊「四七ソ」の香田と奥野に今日も新たな社内調整指令がくだる。不正を働くオフィス内のクソ野郎どもをスタイリッシュかつアッパーに撃ち殺せ。テイルゲート! ショルダーサーフ! 禁断のオフィスハック技の数々を正義のために行使せよ!
#2
けだるい午後の丸ノ内。窓のブラインドから差し込むかすかな光の筋の中、おれたちのサラリーマンスーツは、囚人服みたいなボーダー柄に見えた。
「……エッ? あなた、誰ですか?」
おれを見て、監禁SEは完全に狼狽していた。
「安心しろ。おまえを助けるためにここに忍び込んだんだ」
「僕を、助けるためにですか……?」
「ああ。おれは四七ソだ」
おれは社員証カードを掲げた。そこには『第四IT事業部第七ソリューション課 香田大介』と書いてある。
「よ、四七ソ?」
「そうだよ。社内調整の一環だ」
この調子だと、社内調整の意味を解ってないな。おれはそう考えながら立ち上がり、椅子の方に歩み寄った。そしてロープを解き、立たせてやった。
「あ、ありがとうございます。社内に、助けてくれる人がいるなんて……」
「そういう仕事なのさ。で、名前は、明石君で合ってるよな?」
「ハイ、合ってます」
「明石君、準備運動しとこうぜ。逃げ出すのに、ちょっと走るかもだ」
「アッハイ」
明石は言われた通り、ぎこちなく体を伸ばし、屈伸やストレッチを始めた。流石は二十代の若手社員だ。二、三日拘束されたくらいじゃ、全然応えてない。それに言われた通りのことをやる、この初々しさだ。肌もピチピチだしな、羨ましいよ。
「ところで、社内調整って何です?」
明石がアキレス腱を伸ばしながら質問してきた。やはり入社時のレクリエーションを真面目に受けていなかったと見える。いや、実際そんなもんか。おれだって、当事者になるまでそんな制度の存在を知らなかったしな。
「要するに、社内の掃除だよ。首切り人事。汚れ仕事だ」
おれたち四七ソは巨大企業「T社グループ」の人事部が有する特務部隊。T社内で発生した諸問題の調整にあたる、いわばスーツを着た死神だ。
いつもはT社の一般社員みたいな顔をして巨大社屋ビルの中を歩いているし、昼間は社員用カフェテリアの行列に並んで飯を食っている。そして給料は安い。
「汚れ仕事……ですか」
「今だって、ぱっと見は普通のサラリーマンだろ」
「はい」
「でも、この上着の下には防弾ウェストコートを着込んでいるし、ブリーフケースの中には……」
『香田! 理由不明だけど、さっきの奴が戻ってきて、会議室に接近中!』
鉄輪のインカム通信が急に割り込んできた。
「はいよ、了解」
おれは机の上に防弾ブリーフケースを置き、ロックを解除して、素早く開いた。
鞄の中にはサイレンサーユニット着脱式のセミオートマチック拳銃が二挺。弾丸は9mmが19発。三点バーストとフルオートの射撃が可能。グロック18Cを素体にアレンジされており、銃身には取扱注意を示す黄色いテプラで『四七ソ備品』と書いてある。
「エッ、それ、拳銃じゃないですか」
明石君がちょっと引いた。やっと社会人の恐ろしさが解ってきたって顔だ。
「ちょっと静かに頼む」
おれはその一挺を右手に持ち、ロックを解除し、調整準備を整えた。
廊下側でピピッ、と静脈認証ロックの外れる音が鳴った。セキュリティドアが開き、先ほどのヒゲ野郎が現れた。照明はまだ点けないでおいて正解だった。
「おい明石ィ! お前の親からLINEきてるから、今旅行中だって返信……」
ヒゲ野郎が照明をつけた。天井のタングステン灯がパチパチと瞬いた。
「あッ!」
明石が声を上げた。
「あッ!?」
ヒゲ野郎も声を失い、目をパチパチとした。奴はまず拘束を解かれて立ち上がった明石の方を見てから、一拍遅れておれの方を見た。そしてさらに一拍遅れて、3Dプリント拳銃を引き抜いた。
おれはもう、腕をまっすぐに伸ばしていた。
BLAM!
サイレンサーつきの調整拳銃が、ヒゲ野郎よりも早く火を吹いた。
「ひぐッ」
ヒゲ野郎は頭を撃ち抜かれて即死。崩れるようにその場に倒れた。
「調整完了。室内に隠しておく」
おれは鉄輪にインカムで伝えた。
「エッ、エッ?」
明石が狼狽した。目の前で調整が起こるのは初めてのようだ。気持ちはわかるが、今は時間がない。
「明石君、手伝ってくれないか。せーの、よし」
おれは明石を促し、片足ずつヒゲ野郎の足を持って、その体が会議室内に全部収まるように廊下側から引きずり込んだ。
「これ、どうなったんです?」
「社内調整したんだよ」
おれは答えた。これが四七ソの仕事だ。
「殺したってことですよね」
「それじゃカドが立つだろ」
T社は日本最大級のメガコーポだ。もとは電機系だったが、90年代のITバブルを契機に合併に合併、買収に買収を重ねてマンモス化し、今ではなんの企業なのかすら自分たちにも解らない。ただ大きくなるためだけに存在しているのかもしれない。
T社は改正会社法の対象企業であり、敷地内での社内調整、要するに拳銃を使った略式解雇は全て合法となっている。日本企業でありながら、T社内は半分別の国。社会の法より会社の法が上にある。そういう時代をおれたちは生きている。
だからといって、何でも好き勝手やっていいわけじゃない。モノには限度がある。時々、それをわからなくなってオイタをする奴らが出てくる。四七ソはそういう問題部署の前に現れ、トラブルの芽を事前に摘み取るわけだ。
……ただ、こんな説明をいちいち聞かせてやる暇はない。
何しろ予定外の調整で、時間もなくなった。
「なあ明石君、少し質問させてくれ。おれは八三トレマの例の問題プログラムを探している。何のことか解るよな?」
「商標自動作成のためのAIプログラムですか?」
「そうだ」
「それなら、このノートです」
明石が言い、流れるようなキータイプでノートPCのパスワードを解除し始めた。完全にアウトっぽいロゴ画像や商標リストが次々画面に出現し始めた。いいぞ、話が早い。PCをいじっていると落ち着きを取り戻すタイプだな。
「プログラムは今も動いているのか?」
「はい。10分に1個のペースで、ほとんど中身の無い商標データを自動作成しています」
「この世の終わりだな」
予想通りだ。T社第八IT事業部第三トレードマーク事業推進課、通称八三トレマは、T社グループの商標登録を行う部門。以前は第一法務部および第二法務部と連携して実務を担当していたが、その合間を縫って、独自商標権の先行登録をやっていた。
だがいつの間にか、海外商標の類似商標を日本で先回り登録して、上陸してきた本来の権利者にこれを売りつけるという、外部にバレたら炎上間違い無しのあこぎな商売を始めていた。
しかも奴らは、それをさらに自動化し効率化するためのAIプログラムを作っていたのだ。これにより、昨年の八三トレマの年間商標登録数は10倍にハネ上がり、さらにその内容が精査されることもなく、T社の評価システムに則ってボーナスが支給された。
何もかもが間違っている。
「明石君がこれをプログラムしたわけか? ……奴らに強いられて?」
「そうですよ。こんなことをするために会社に入ったわけじゃないのに」
「この規模のプログラムを、たった一人で書いたのか?」
「はい、僕一人で。フレームワーク自体は提供されたので」
「すごいな。さすがはSEだ」
「いや、僕、PGなんですけど」
何かそういう拘りがあるようだ。
「そうか、まあいい。今大事なのは、明石君がそのうち全部の責任をおっ被せられて、人知れず処分されちまうってことだ。そんなの、ふざけんなって感じだろ?」
「はい」
「わかったら、体操を続けておいてくれ。死にたくなけりゃな」
「はい」
明石は自分の置かれた立場を思い出し、ストレッチを再開した。
その間に、おれは懐からUSBメモリを取り出し、ノートPCに挿した。そして超小型インカムに触れ、鉄輪に呼びかけた。
「鉄輪、ハッキングのほうを開始してくれ」
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