【愉快! 爽快! 痛快! これが日本版「キングスマン」だ。】シリーズ累計150万部「ニンジャスレイヤー」チームが描く衝撃の社内スパイアクション『オフィスハック』待望の第5話連載。舞台は東京・丸の内の巨大企業T社。人事部特殊部隊「四七ソ」の香田と奥野に今日も新たな社内調整指令がくだる。不正を働くオフィス内のクソ野郎どもをスタイリッシュかつアッパーに撃ち殺せ。テイルゲート! ショルダーサーフ! 禁断のオフィスハック技の数々を正義のために行使せよ!
#4
返答は、猛獣の唸り声のような銃撃だった。
BLAM!
おれと奥野さんは、反射的に防弾ブリーフケースを高く構えてこれを防いだ。重い衝撃が腕まで伝わってきた。間違いなくショットガンだ。食らっていたら、一発でアウトだ。
「見ろ! そこに犬がいるぞ! 人事部の犬を殺せーーーッ!」
BLAM! BLAM! BLAM!
陣内部長が3Dプリントショットガンを連続コッキング射撃しながら荒々しく叫んだ。12ゲージ、レミントンM870をベースにした黒いショットガン。当然ながら、オフィスで使用するには過剰なほどの殺傷能力だ。
「「「ウオオオオーーーーッ!」」」
ショットガンの銃声に勇気付けられたか、ならず者社員たちが銃を構えて叫んだ。
そして銃撃戦が始まった。前方からさらなる銃弾が浴びせられた。
BLAM! BLAM! BLAM! BLAM! BLAM!
おれと奥野さんは防弾ブリーフケースでこれを防ぎながら、前進した。宣告を続けながら、調整用拳銃で適宜応戦する。
「「直ちに武器を捨て、業務活動を停止せよ! 抵抗する者は、全員この場で容赦なく調整する!」」
BLAM! BLAM! BLAMBLAMBLAM!
おれが二発、肩を寄せ合う奥野さんがバーストで三発。
「あぐッ!」「うげえ!」「ひウ!」
八三トレマのならず者社員が次々に調整され、バタバタと倒れた。だが陣内課長は護衛がきつすぎて、まだ射程距離に入らない。
「殺せ! 相手はたった二人だ! 殺して揉み消せーーッ!!」「人事部の犬を殺せーーーッ!」「ウオオオーーーーッ!」
誰もおれたちの宣告なんて聞いちゃいない。まあそりゃそうだよな。人事部からのメールなんて誰も読まずに捨てるだろ。頭に【警告】をつけてやってもこれだ。
「ヒイイイイアアアアーーーーーーーーーーッ!!」
後方では、明石が狂ったように叫びながら非常階段へと走っていた。
「あ、明石テメエ! テメエが人事部にタレこみやがったのか!?」「ふざけんじゃねえぞこの野郎!」
タバコ休憩に入っていたならず者社員二人が、3Dプリント拳銃を構え、明石の脱出経路を塞いだ。ほぼ同時に、インカムから鉄輪の声が聞こえた。
『明石のサポート!』
「はい!」
奥野さんが振り向きざま、見事な三点バースト射撃。
BLAMBLAMBLAM!
「あウッ!」「ひア!」
『ナイスショット!』
鉄輪のテンションが上がってきた。明石も、もう大丈夫だろう。
奥野さんはおれと背中合わせの状態だ。おれは防弾ブリーフケースを展開し、二倍の面積で自分と奥野さんの背後を守る。
「このまま一気にいきます!」
「わかりました!」
BLAM! BLAM! BLAMBLAMBLAM!
そのまま右、左へと背中合わせで振り向き、射撃。奥野さんの体重を感じる。時折前後を入れ替わり、順番に拳銃のマガジンを交換する。まさに阿吽の呼吸ってやつだ。あと少し前進すれば、陣内課長を射程範囲に捉えられる。
「ふざけるんじゃない! ふざけるんじゃないぞ、人事部の犬どもめがァーーーッ!」
硝煙立ち込めるオフィスフロアの一番奥、陣内課長が机の上に飛び乗って威勢良く叫んだ。おれはショットガンの射撃回数を頭の中でカウントしていた。既に弾は尽きているはずだ。一気に勝負をつけるため、おれは防御を解いて飛び出そうとした。
だが奥野さんが叫んだ。
「まだです!」
おれは咄嗟に防弾ブリーフケースを構えた。
BLAM! BLAM! BLAM!
陣内課長のショットガン射撃がおれを襲った。奥野さんの警告がなかったら危なかった。
だがいつの間に陣内課長は装填を行った? その答えは直ぐに解った。
「次のを! 次のを早くしたまえ!」
陣内課長が後方に呼びかけた。
「課長! これでナイスショットお願いします!」
キャディー秘書が机の上に飛び乗り、別のショットガンを陣内課長に手渡した。なんてこった。ゴルフバッグの中にショットガンを何梃も隠していたのだ。
「くそッ!」
再び、おれたちは防戦一方となった。
「ハハハハハハハ! どうだ犬どもめ! 綺麗事しか言えない人事部なんざ、お呼びじゃないんだよ! うちはこのやり方で昔からずっとやってきたんだ! 今さら文句をつけられる筋合いは無いんだ!」
BLAM! BLAM! BLAM!
陣内課長の重いショットガン射撃が浴びせられる。
おれたちも黙っちゃいない。宣告の途中でも、臨機応変に反撃する。
「今までたまたま問題が露見しなかっただけだろう!? それは前例にはならない!」
BLAM! BLAM! BLAM!
「君たちはバカか!? やっちゃいけないなんていうルールも法律も、どこにも書いていないんだよ!」
「モラルというものがあるでしょう! モラルというものが! 恥を知りなさい!」
奥野さんもいつになく熱く応戦した。三点バーストの狙いは正確無比だ。
BLAMBLAMBLAM!
だが銃弾は、陣内課長の取り巻きの部下に命中して阻まれた。
「モラル!? モラルなんてものは、どこにも規定されてない! この世界は弱肉強食なんだ! 使える手を全部使わなかったら、他に先を越されるだけなんだよ!!」
陣内課長は自信満々に笑い、ショットガンをコッキングした。経験不足の若い社員なら、思わず課長の言い分に納得してしまうかもしれない。
だが、おれと奥野さんは第一人事部の無慈悲なるエージェント。追い詰められたならず者社員たちの弁明など、聞く気はない。
「その行き着くところが社員監禁か!?」
「当たり前だ! うち以外でも絶対にやっているはずだ! 働き方改革が全て悪い! こんなぬるい残業じゃ、これまでの仕事クオリティを維持できないんだよ!」
「何がクオリティだバカヤロー!」
おれはカチンときて、思わず不適切発言をした。銃弾とボロボロのA4用紙がオフィスフロアを飛び交い、アドレナリンが湧き出していた。
「ふざけるな人事部! こっちはカツカツの人員で回しているんだ! ……そうだ、君も応戦したまえ!」
「解りました! 死ね! 人事部のクソ犬がァーーーーッ!」
キャディー秘書も別のショットガンを構えてコッキングし、鬼の形相で応戦してきた。
BLAMBLAMBLAMBLAM!
なんて火力だ。ショットガン二挺が相手では、さすがに防弾ブリーフケースが持たない。敵の火力を分散させるため、おれと奥野さんは二手に分かれ、防弾パーティションの背後に隠れた。だが左右に展開したならず者社員たちが、おれたちを包囲しようとしてくる。
『明石の脱出を確認! 二人とも、あとは無理せずに!』
「ここまできたら無理しないと帰れないだろ!」
奥野さんをちらりと見て、目で合図をする。奥野さんはパーティションを背負いながらマガジンを交換している。おそらく最後のひとつだ。
おれは防弾ブリーフケースを捨て、危険を承知で飛び出した。そして乱戦の中、ゴルフクラブを構えたサングラスならず者社員の背後をとった。
「おい、一人が消えたぞ!」「何処だ!? 何処行きやがった!?」「机の下も探せ!」
ならず者社員たちが狼狽する。だが、どれだけ探したっておれを見つけられるはずはない。
おれの持つオフィスハック能力は「テイルゲート」。注意力散漫なやつの背後について歩くことで完全に気配を消し、どんなセキュリティエリアにも忍びこめる。会議室に潜入できたのも、このテイルゲートのおかげだ。持続時間は、せいぜい八秒か九秒。他のメンバーに比べりゃ、まあ地味な能力さ。だが、乱戦の中ではかなり役に立つ。
「もういい! 残った方を取り囲め! ハチの巣にしてやる!」
陣内課長が命じ、フロア中の銃口が奥野さんに向けられる。おれはテイルゲートから姿を現し、次々にならず者社員を調整した。
BLAM! BLAM! BLAM! BLAM! BLAM!
「えッ、後ろ?」「あグッ!」「ひッ!」
BLAM!
最後の一発は、ショットガン秘書を撃ち抜いた。
「アーッ!」
ショットガン秘書はもんどり打って倒れ、赤いヨガボールに弾んで、パーティションを無茶苦茶になぎ倒した。
「クソーッ! 死神どもめ! 狂ってやがる!」
陣内課長は形勢不利を見るや、防弾パーティションの影に隠れた。
「サカグチ君! 何しとるんだ! 早く助けに来ないか!」
陣内課長は携帯でコンサルの名を叫んだ。
おい待てよ、サカグチがこの事件に関わってるのか?
「なに? 無理だと? ふざけるな! 高プロのくせに!」
BLAM!
どうやらサカグチの助けは得られなかったらしい。陣内課長は電話を床に叩きつけ、それを銃で撃って破壊すると、オフィス内の全員に再度呼びかけた。
「全員、死ぬ気でかかれーーーーッ! 今ここで人事部の犬を仕留めなかったら、どうなってるか解ってるんだろうなァーーーーッ!」
「「「ウオオオオオーーーーーッ!」」」
陣内課長の命令を受け、ならず者社員たちが気勢を上げた。こいつらは何故その情熱をビジネスに向けられなかったんだ。
「一気にいきます!」
「わかりました!」
おれと奥野さんは再び合流して横並びになり、肩を寄せ合って銃撃をしのいだ。熱を帯びた銃弾の雨が、顔と顔の間をかすめた。
おれたちは下っ端には目もくれず、射撃を陣内課長に集中させた。
BLAM! BLAM! BLAMBLAMBLAMBLAM!
「アアアアアアーーーーッ! 人事部め、チクショオオオーーーーッ!」
集中射撃を浴び、陣内課長はデスクの上で不恰好なタップダンスを踊った。そしてもんどり打って倒れ、赤いヨガボールにバウンドして観葉植物群をなぎ倒し、鉢植えに頭をホールインワンして事切れた。足をピクピクと痙攣させ、真っ赤なシミがカーペットに広がっていった。
「これで終わりだ! 全員、抵抗をやめなさい!」
「今投降すれば、第一人事部から相応の慈悲が与えられる!」
おれたちはこの機を逃さず、背中合わせでグルリと回りながら、全方位に銃を突きつけて叫んだ。
「ヒイイイイ!」「か、課長がやられた!?」「もうダメだ!」「調整だけは嫌だ!」
課長の調整を見た八三トレマの社員たちは戦意喪失し、直ちにその場でハンズアップ。両膝をつき、3Dプリント武器を次々に放り捨てた。
フロアは鎮まり返り、硝煙の中を舞い散っていたA4用紙の紙吹雪が、ゆっくりと机や床に降り積もった。
……調整終了だ。今回もかなりギリギリだった。
『二人とも、おつかれさま。明石君は無事に非常階段から脱出。人事部事務方に保護されたところ』
「よかった。お疲れ様でした」
おれは胸を撫で下ろし、奥野さんの労をねぎらった。
「お疲れ様でした」
奥野さんも汗をぬぐいながらそう返した。お互い特にセンチメントな言葉はかけない。労をねぎらうだけだ。増援が到着して引き継ぎが終わるまで、おれたちは冷酷なオフィスの死神として振るまわなきゃいけない。
「どうです、一服」
おれが言いかけた時、奥野さんの懐でスマホが振動した。
私用スマホだ。珍しいな。
「すみません」
奥野さんは一言断りを入れてから、着信画面を見た。奥野さんの表情が一瞬曇った。
「……申し訳ありません。ちょっと、席を外させていただいてもよろしいでしょうか」
私用スマホに着信ということは、もしかして、別れた奥さんからだろうか。
「大丈夫ですよ、どうぞ」
「ありがとうございます」
奥野さんは一礼すると、小走りに非常階段の方へと向かった。
おれは寂しい口元に二本指を当て、煙草の代わりに硝煙を胸いっぱいに吸い込んだ。そして赤いヨガボールの上に腰を下ろし、人事部事務方の到着を待つことにした。いつの間にか流れ弾を食らっていたのか、防弾ウェストコートに守られた脇腹のあたりが、少しだけズキズキした。
◆ ◆ ◆
奥野は誰もいない非常階段の喫煙スペースに一人立ち、私用スマホを見た。
振動を続けるスマホの着信画面には『内調』と表示されている。内調とは無論、内閣調査室の略語だ。香田はその事実を未だ知らないが、奥野は日本政府の内閣調査室からT社グループに送り込まれた覆面捜査官である。
奥野は額の汗を拭い、ワイシャツの襟元を緩めると、着信を取った。
「どうも、奥野です」
『勤務時間中にすまないね』
「いえ、ちょうど昼の休憩時間に入りましたので」
奥野は軽く息切れしていた。
『ハードな仕事だろう』
「年寄りにはこたえます」
『君が年寄りなら、私は化石か何かになってしまうぞ』
「すみません」
『いやいや、相変わらず仕事熱心なことだ。まさか君が、潜入捜査任務の延長を自ら申し出るとは思わなかった。この上なく危険な職場だというのに』
「どうにも、不器用なもので。まだまだ、やり残したことがありまして」
『そうか。ときにT社の働き方改革はどうかね。導入からそろそろ一ヶ月だが』
「遵守する姿勢を見せています。問題は無い……いえ……問題はありますが、改善しようという試みが見られます」
『解った。近々、T社内で大きな動きがあるだろう。その時までには、戻ってきたまえ』
奥野は少し、返事を保留した。連休明けの丸の内の風景を見ながら返した。
「……あと、どれだけですか」
『どれだけ、とは?』
「四七ソとしてT社内に残れる時間です」
『そうだな』
一拍置いて、電話の向こうの声が奥野に告げた。
『この五月中には、辞表を提出してもらうことになるだろう』
◆to be continued......感想は #dhtls でつぶやこう◆
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