【年の差バディのお仕事は銃撃戦!?これぞ日本版キングスマンだ!】サラリーマン必読!「ニンジャスレイヤー」チームが描くスパイアクション「オフィスハック」待望の新連載! 第1回はコチラ→#1 働き方改革 時は令和元年! 舞台は東京丸の内の巨大企業T社! 人事部特殊部隊"四七ソ"の香田&奥野に今日も新たな指令がくだる。不正を働くオフィス内のクソ野郎どもをスタイリッシュかつアッパーに撃ち殺せ! テイルゲート! ダンプスターダイブ! 禁断のオフィスハック能力を正義のために行使せよ!
#16
「おい、見ろよこれを! この無茶苦茶なガントチャートよオ!」
主任が机の引き出しから取り出して掲げたのは、3Dプリント製ショットガンでもファマスでもなく、オーケストラMIDI譜面のように見事な重奏ガントチャートだった。
「……」
おれは未だ警戒を解かず、無言のまま主任に歩み寄り、震える手で、そのガントチャートを受け取った。
そのチャートは後付けされたと思しきシアン、マゼンタ、イエローの目が痛くなるような色合いのバーで大半が構成され、芸術的なまでに無茶苦茶にスケジュールが重なり合い、もはや悪夢としかいいようがなかった。おれの営業時代の思い出が一瞬フラッシュバックし、目眩がした。スマートウォッチは未だにブルブルと震え、こいつらを全員直ちに調整しろと告げていた。
おれは銃口を下げ、ガントチャート束を返した。
主任はそれで机をバンバンと叩きながら、叫んだ。その声が薄暗い地下室に響いた。
「見たんだろ? どうだよ! 何か言ってみろよ、人事部の死神が! こんな工程組まされて、残業なしでどうやって達成しろってんだよバカヤロー! ここにいる同じ部署の全員、おれと同じ気持ちだよバカヤロー!」
主任の後ろにいる社員数十名は、消極的抵抗を示すかのように、黙々とキーボードを叩き続けていた。その怒りと理不尽を、主任が代弁しているようだった。
「おまけに課長は出張旅行に行ってやがる! どうしろってんだ!? 答えてみろよ、人事部の犬がよオ! これでも俺たちを社内留置所に叩き込むってのか!?」
主任はほとんど涙目になっていた。
調整用拳銃を握るおれの手が、怒りで少し震えていた。銃口は足下を向いていた。
地下会議室の奥では、壁に埋め込まれた巨大な換気ファンが十数基、錆びついた音を立てて回転し、微かなタングステン灯の光を切り裂いていた。
『どうなっている。調整は終了したのか?』
洩矢の声が聞こえた。
おれは首を横に振り、後方で待機する奥野さんの方を向いた。そして骨伝導インカムに対して言った。
「この部署は調整しません。完全にOMNISの誤審です」
『……何だと? 何を言っている?』
「現在のOMNISには重大な欠陥がいくつもあります。控えめに言って、クソAIです。役立つ側面もありますが……それ以前に、運用がひどいです。どれだけAIが優秀でも、運用がだめならクソ以下です。他社向けソリューション版OMNISの強行リリースには、絶対に反対です。……この音声、録音して残してますよね?」
『信じられん、君は私の顔に泥を塗ろうというのか? 職務を放棄し、さらには……』
洩矢長老の声は、怒りとも驚きともつかなかった。あるいはその両方か。おれはもう完全に熱くなっていて、不適切用語についても気にしなかった。だが、社会人としてやるべきことはやるつもりでいた。
「おれは別に仕事をサボタージュするわけじゃないです。OMNISのために調整成功数ファクトがもっと必要なんでしょう? 成果が必要なんでしょう? やりますよ。今日中にあと3つやります。今週のノルマになっている他の3部署の案件を、今日の定時までに全部片付けてやります」
『君は、正気か……? 信じられん。誰に向かってものを言っているか、解っているのか? この行動を後悔することになるぞ』
「地下なので通信ノイズがひどく、よく聞こえません」
おれはOMNIS連動型のスマートウォッチを外し、かかとで踏み砕いた。
「すみません、スマートウォッチも壊れたようです」
通信を完全切断すると、主任の方へと向き直り、頭を下げた。
「……七四オウンの皆さん、どうやら社内システムに誤審がありました。ご迷惑をおかけいたしました」
おれは調整用拳銃からテキパキと銃弾を抜き、それをブリーフケースに仕舞い直した。
奥野さんもそれに倣った。奥野さんはさすが大人だ、落ち着いていたよ。
「えッ、何だよ急に……。俺たち、社内留置場に行かなくてもいいってのか……?」
主任が驚き、おれにそう問いかけてきた。
「そうです。この残業形態は確かに問題ですが……それは、われわれ四七ソが即時調整すべき類いのものではないと判断しました」
「え、つまり……?」
「だって、銃器で武装していないでしょう? 麻薬の精製もしていないでしょう?」
「お、おう。してねえよ。当たり前だろ。いくら何でも、そんなクソみたいなコンプライアンス違反までやらねえよ。俺たちはただ、納期に間に合わせたかっただけなんだよ。恥ずかしいクオリティの仕事をしたくなかっただけなんだよ……」
「なら、おれたちの出る幕ではないです。失礼しました」
「失礼しました」奥野さんも頭を下げた。
「そ、そうか……」
主任らは固唾を飲んでおれたちの動向を見守っていた。いつおれたちの気が変わり、振り返って調整用拳銃の引き金を引くんじゃないかと、身構えていたんだろう。
だがおれたちは黙々と歩き、セキュリティドアを開けて、地下街の廊下に出た。
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