【年の差バディのお仕事は銃撃戦!?これぞ日本版キングスマンだ!】サラリーマン必読!「ニンジャスレイヤー」チームが描くスパイアクション「オフィスハック」待望の新連載! 第1回はコチラ→#1 働き方改革 時は令和元年! 舞台は東京丸の内の巨大企業T社! 人事部特殊部隊"四七ソ"の香田&奥野に今日も新たな指令がくだる。不正を働くオフィス内のクソ野郎どもをスタイリッシュかつアッパーに撃ち殺せ! テイルゲート! ダンプスターダイブ! 禁断のオフィスハック能力を正義のために行使せよ!
#19
拘束が解かれ、目隠しが取られた。
「では、失礼します。おかしな考えを起こさないように」「おつかれさまでした。人事部の慈悲があらんことを」雨宮と片桐の声が聞こえ、後ろでガシャンと鉄格子の閉まる音が鳴った。五六シスと武装事務方の靴音が遠ざかっていった。
「う……」
天井のタングステン電灯がバチバチと明滅した。
おれは目を擦る。まだ明かりに目が慣れない。
自分が社内留置所にぶちこまれるのは、当然ながら初めての経験だ。鉄輪たちはどこいいる? 不安、諦念、怒り、考えがまとまらず、視界もおぼつかない。足元がぐらぐら揺れて感じられる。
T社グループは自社ビル複合体の中に、社内留置所というか、社員収容所のようなものを複数持っている。普通はビルのワンフロアが使われるが、運が良いとT社グループで買収したビジネスホテルの場合もある。中にはいったい誰が収容されているんだかも解らない元高級ホテルさえ敷地内に存在する。噂によると、敷地外に出たら即座に逮捕されてしまうような役員を守るために、時効までそこで暮らさせているらしい。そんなのは流石に社内都市伝説だろうが。
今考えるべき問題は、おれたちがいつ留置所を出られるのか、そして処遇はどうなるのかということだ。今回はそもそも、室長が突然深セン出張に行ったところから何かがおかしかった。……いや、社内リレイアウトでオープンエリアに四七ソが配置されたあたりから、潮目が変わり始めていたのかもしれない。
だが、こんなことをおれが考えてもなんの解決にもならない。長老たちの政治と権力ゲームは複雑すぎて、何がなんだかわからない。少なくとも、五六シスと第二人事部が優位に立っているのは間違いない。雨宮や片桐も不本意そうではあったが、五六シスの性質的に、第二人事部の決定に逆らうことはできないんだろう。
とすると、誰がおれたちを助けてくれるんだ。全ての望みは潰えたのか?
幸い、四七ソにはまだ室長と安曇さんがいる。安曇さんは四七ソのエース級社員で、常に一人で日本中のT社グループ支社を飛び回り、調整任務をこなしている。ほとんどオフィスにも出てこない。地方の支社にはまだOMNISが完全には導入されていない。安曇さんは当然今回も出張中だった。それが幸いし、安曇さんは留置所送りを免れているはずだ。
……思えば今から六年前。もともとただの下っ端営業社員だったおれの目の前に突然現れ、クソ上司を調整したのが、安曇さんだった。その直後、おれは室長と鉄輪に出会い、テイルゲート能力を見出されて四七ソにスカウトされたんだ。
過酷なトレーニングに耐えたおれは、その後、安曇さんの足を引っ張りながら、OJTで調整案件をこなしていった。
あのハイヌーン・カフェテリア作戦の時も、もう絶体絶命かと思ったが、最後は安曇さんの銃弾と室長の根回しが解決してくれた。
そうだ。今回もきっと、あの二人が何とかしてくれる。そうだよな。
とにかく、おれはよくやったよ。やるべきことをやった。五六シスとの衝突も回避し、四七ソの誰も脱落させなかった。十分じゃないか。あとは上がやるべきことをやってくれるはずだ。今考えると、偶然ではあるが、奥野さんだけでも助かって良かった。奥野さんまでこんなクソ案件に巻き込まれる必要はない。
いや待て、おれだって無実なんだ。なんでこんなクソな事態が起こるんだよ。
……娘の夏休みまでには帰れるといいんだが。そうでなきゃ、おれは破滅だぞ。
おれが居るのは、一番奥の房だ。鉄輪や井上たちは別の階か。それとも全然違う建物か……?
……徐々に目が慣れて来た。おれは目を擦り、見渡そうとした。果たしてどんな部屋だ。ビジネスホテルだったらいいな。
縦に長い四畳ほどの部屋。窓は無い。右手には二段ベッド。左手にはノートPCが置かれた小さな読書机と本棚。そして突き当たりには真っ赤なヨガボールが置いてあった。その奥にはドアがあり、たぶんトイレとシャワーがある。
これはビジネスホテルじゃない。社屋の一室だな。それもかなり古い。
あまりの過酷な環境に眩暈がしてきた。遠い廊下でまたガシャンと鉄格子の閉まる音が鳴った。かなり厳重な警備のようだ。
「それにしても、めちゃくちゃ狭いな……子供の勉強部屋かよ……」
おれはぼやき、狭い畳に腰をおちつけた。それからふと、本棚に並んだ実用書の類を見た。
「使えるWord&Excel2000」「Gooで検索してみよう」「POSTPET活用術」「ホームページを作って情報発信! HTMLタグ・リファレンス」「IE6の新時代」さらには分厚いホチキス綴じワラ半紙の「T社グループ電子メールマナー㊙︎全集:おぼえてネ」……社内留置所の剥き出しのリアルがおれに襲いかかり、指が震えた。分厚いノートPCのOSはWindowsXPだ。小さな机の引き出しには退職願の用紙束が入っている。これはヤバいぞ。完全に非人道行為だ。こんな社内留置所がまだ残っていたなんて。
「おいマジかよ。令和にもなって、こんな……」
その時、どこからか声が聞こえた。聞き覚えのある低い声だった。
「よくきたな」
「エッ」
おれは驚き、顔を上げた。
二人部屋に先客がいたのだ。だが、今の声は、もしかして。
おれは汗をぬぐい、二段ベッドの梯子を半分ほど上った。
二段ベッドの上の段では、埃っぽいスーツを着た逞しい男が、顔に帽子を乗せて目元を隠し、足を組んで寝転んでいた。それは四七ソのエース、安曇さんだった。
「あ、安曇さん、どうして、ここにいるんですか……!?」
「第二人事部に捕まった。鳥取出張から帰ってきたところをな……」
「そ、そんな……!」
まさか、頼みの綱の安曇さんまで、既に留置所に入れられていたとは。それで最近出社していなかったのか。もう万事休すだ。
「そんな……」
おれは全身の力が抜け、ガックリとうなだれた。そして梯子を下り、頭を抱えながら、赤いヨガボールの上に座った。
おれは赤いヨガボールに対して、危険なシンパシーを抱き始めていた。おれもついに、お前と一緒か。会社のノリで導入されて、持て囃されて、役に立たなくなったら邪魔者扱いされて捨てられるのか。
「どうした香田。えらくテンションが低いな。四七ソは全滅か?」
暗黒の社内留置所の中で、安曇さんの声だけはいつものように飄々としていた。
「はい、全滅です……」
「そうか。死んだのか?」
「いいえ、負傷者は出していません。生きています……。でもおれを含めて6人全員、留置所送りですよ」
「なら上出来だ。全員生きてるんだろう?」
その声は、少し笑っているようにも聞こえた。
「生きてはいますが……。でも、こんなの……」
おれはWindowsXPのホログラフシールが貼られた分厚いノートPCを指で叩いた。そこには分厚い埃が降り積もっていた。他の仲間たちも、これと同じ環境に放り込まれているのだろう。
「こんなの、死んだも同然ですよ……」
「オフィスハック能力者が七人も集まって、こんな所で大人しく死んでいられるかよ」
「えッ?」
おれは顔を上げた。そして立ち上がり、また梯子を上った。
「何か……策があるんですか!?」
安曇さんはニヤリと笑って、言った。
「馬鹿野郎、策はこれから考えるんだよ」
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