昆虫の魅力は、そのユニークな姿にあります。カブトムシの角、クワガタの牙etc. 中でもカッコいいのはその武器。実は、角と牙は、からだの全く異なる部位が発達したものです。それぞれの昆虫にそれぞれの武器。昆虫の概念がひっくり返る、279種のおかしな甲虫を厳選したビジュアルブック『とんでもない甲虫』(丸山宗利・福井敬貴著)のコラム「武器の意味」から、個体の持ち味を生かしたサバイバル戦略を学びましょう。
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武器の意味
甲虫のなかにはおとなしい平和主義者もいるが、多くの種は同種内で戦う。餌や住み処(か)、異性を奪いあうためだ。
その際の武器としてよく知られているものにカブトムシの角がある。これはオスどうしがメスをめぐって争うため、さらには出会いの場であり餌でもある樹液を確保するために進化したと考えられている。
クワガタムシのキバも同じような目的で進化した。
ここで注目してほしいのは、「角」と「キバ」のちがいだ。どちらもオスが戦うために進化したものだけれど、角は「頭部と胸部の突起」、キバは「大顎(おおあご)」で、体の部位としてはまったく異なる。
このように、甲虫は分類群によって体の異なる部分で武器を発達させてきた。
ここではそれぞれ体の異なる部分を武器とする、オスの甲虫を並べてみた。
カギアゴヒラタムシは南アメリカの森林で樹皮の下に生息する虫で、非常にひらべったい姿をしている。
オスは異常に湾曲(わんきょく)した大顎をもち、樹皮の下の縄張りをまもるためにこれを使うものと考えられている。
ツノツツマグソコガネはフィリピンで発見された種で、カブトムシほど立派ではないが、頭に角をもつ。この虫も樹皮の下でオスが縄張りをもつものと思われる。
ツノヒラタチビタマムシの武器は一見大顎のように思えるがじつは違う。オスの触角の第1節が発達し、角のようになっているのだ。
ケンランニセセミゾハネカクシは、腹部に突起がある。この突起をぶつけあい、オスどうしで戦う。
前脚で組みあって戦うオスも少なくない。カマアシカタゾウムシは、オスの前脚が独特なかたちをしていて、この武器を使ってメスをめぐって戦う可能性が考えられている。
どれもとてもかっこいい。本書『とんでもない甲虫』にはほかにも武器をもつ甲虫が登場するが、甲虫の姿かたちの魅力は、このような武器によるところも大きい。
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とんでもない甲虫
『ツノゼミ ありえない虫』『きらめく甲虫』につづく、丸山宗利氏の昆虫ビジュアルブック第3弾!
硬くてかっこいい姿が人気の「甲虫」の中でも、姿かたちや生態がへんてこな虫を厳選。
標本作製の名手・福井敬貴氏を共著者に迎え、掲載数は過去2作を大幅に上回る279種!
おどろきの甲虫の世界を、美しい写真で楽しめます。
この連載では『とんでもない甲虫』の最新情報をお届けします。
●パンクロッカーみたいだけど気は優しい――とげとげの甲虫
●ダンゴムシのように丸まるコガネムシ――マンマルコガネ
●その毛はなんのため?――もふもふの甲虫
●キラキラと輝く、熱帯雨林のブローチ――ブローチハムシ
●4つの眼で水中も空中も同時に警戒――ミズスマシ
●アリバチのそっくりさんが多すぎる! ――アリバチ擬態の甲虫 など