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とんでもない甲虫

2020.02.23 公開 ポスト

【人生がつらくなったら生物に学ぶ】自分ならではの武器でサバイバルせよ【再掲】福井敬貴/丸山宗利(九州大学総合研究博物館 准教授)

昆虫の魅力は、そのユニークな姿にあります。カブトムシの角、クワガタの牙etc. 中でもカッコいいのはその武器。実は、角と牙は、からだの全く異なる部位が発達したものです。それぞれの昆虫にそれぞれの武器。昆虫の概念がひっくり返る、279種のおかしな甲虫を厳選したビジュアルブック『とんでもない甲虫』(丸山宗利・福井敬貴著)のコラム「武器の意味」から、個体の持ち味を生かしたサバイバル戦略を学びましょう。

*   *   *

武器の意味

甲虫のなかにはおとなしい平和主義者もいるが、多くの種は同種内で戦う。餌や住み処(か)、異性を奪いあうためだ。

その際の武器としてよく知られているものにカブトムシの角がある。これはオスどうしがメスをめぐって争うため、さらには出会いの場であり餌でもある樹液を確保するために進化したと考えられている。

クワガタムシのキバも同じような目的で進化した。


ここで注目してほしいのは、「角」と「キバ」のちがいだ。どちらもオスが戦うために進化したものだけれど、角は「頭部と胸部の突起」、キバは「大顎(おおあご)」で、体の部位としてはまったく異なる。

このように、甲虫は分類群によって体の異なる部分で武器を発達させてきた。

ここではそれぞれ体の異なる部分を武器とする、オスの甲虫を並べてみた。

カギアゴヒラタムシ(ヒラタムシ科、採集地フランス領ギアナ)

カギアゴヒラタムシは南アメリカの森林で樹皮の下に生息する虫で、非常にひらべったい姿をしている。

オスは異常に湾曲(わんきょく)した大顎をもち、樹皮の下の縄張りをまもるためにこれを使うものと考えられている。

ツノツツマグソコガネ(コガネムシ科、採集地フィリピン・ルソン島)

ツノツツマグソコガネはフィリピンで発見された種で、カブトムシほど立派ではないが、頭に角をもつ。この虫も樹皮の下でオスが縄張りをもつものと思われる。

ツノヒラタチビタマムシ(タマムシ科、採集地フィリピン・ルソン島)

ツノヒラタチビタマムシの武器は一見大顎のように思えるがじつは違う。オスの触角の第1節が発達し、角のようになっているのだ

ケンランニセセミゾハネカクシ(ハネカクシ科、採集地インドネシア・スマトラ島)

ケンランニセセミゾハネカクシは、腹部に突起がある。この突起をぶつけあい、オスどうしで戦う。

カマアシカタゾウムシ(ゾウムシ科、採集地フィリピン・ルソン島)

前脚で組みあって戦うオスも少なくない。カマアシカタゾウムシは、オスの前脚が独特なかたちをしていて、この武器を使ってメスをめぐって戦う可能性が考えられている。

どれもとてもかっこいい。本書『とんでもない甲虫』にはほかにも武器をもつ甲虫が登場するが、甲虫の姿かたちの魅力は、このような武器によるところも大きい。

関連書籍

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とんでもない甲虫

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この連載では『とんでもない甲虫』の最新情報をお届けします。

●パンクロッカーみたいだけど気は優しい――とげとげの甲虫
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福井敬貴

1994年福島県出身。2016年、多摩美術大学彫刻学科卒業。2019年、同大学院彫刻専攻卒業。学生時代はおもに甲虫をモチーフとした鋳金作品を制作。幼少期より虫をはじめとする生き物全般に強い興味をもって育ち、採集や標本の蒐集活動をおこなう。昆虫標本の展足技術が高く評価され、コレクターや研究者からの依頼が殺到。今では年間数千頭の標本を展足している。好きな甲虫はオトシブミ。

丸山宗利 九州大学総合研究博物館 准教授

1974年生まれ、東京都出身。北海道大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。国立科学博物館、フィールド自然史博物館(シカゴ)研究員を経て2008年より九州大学総合研究博物館助教、17年より准教授。アリやシロアリと共生する昆虫を専門とし、アジアにおけるその第一人者。昆虫の面白さや美しさを多くの人に伝えようと、メディアやSNSで情報発信している。最新刊『アリの巣をめぐる冒険』のほか『昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』『とんでもない甲虫』『ツノゼミ ありえない虫』『きらめく甲虫』『カラー版 昆虫こわい』『昆虫はすごい』など著書多数。『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』『角川の集める図鑑 GET! 昆虫』など多くの図鑑の監修を務める。

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