とげとげ、もふもふ、まんまる、くしひげ、くびなが……。昆虫の概念がひっくり返る、279種のおかしな甲虫を厳選したビジュアルブック『とんでもない甲虫』(丸山宗利・福井敬貴著)が好評発売中!
姿かたちがおかしな甲虫だけではなく、生態が「とんでもない」甲虫だっているのです。
今回は本書よりコラム「哺乳類に寄生する甲虫」をご紹介します。
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哺乳類に寄生する甲虫
洞窟やアリの巣など、変わった環境に生息する甲虫はそれぞれに変わった姿をしている。 しかし、究極の変わった環境といえば、哺乳類の体の表面であろう。
哺乳類の体に生息する昆虫の代表選手は、甲虫とはまったく縁遠いシラミとノミだ。
けれど甲虫のなかにも哺乳類の体の表面で生きられるように進化したものがいるのである。ここでは代表的な2種を紹介する。
ビーバーヤドリムシは、その名のとおりビーバーの体の表面に生息し、皮膚やアカを食べている。属名Platypsyllus castorisは「平たいノミ」の意味。
よく見ると体のあちこちがノミそっくりである。とくに頭部の後ろに並んだとげはノミと完全に一致するかたちだ。ノミと同様に、毛の間を走るときに、頭部の摩擦を減らす役割があると考えられる。
ただし、ノミは左右に平たいのに対し、この甲虫は上下にひらべったくなっている。
ビーバーヤドリムシはタマキノコムシ科のなかまで、もともとこのなかまは土の中にすむ。おそらくビーバーの巣の付近の土にいたものがその巣に入り込んで、進化したのだろう。
ネズミヤドリハネカクシのなかまは中央~南アメリカに生息し、ネズミの体にすんでいる。ときにネズミの毛に噛(か)みつく姿が見られることから、昔からネズミの血を吸うものと考えられてきた。
しかし、近年の研究では、血は吸っておらず、ネズミに寄生するほかの生物だけを食べることがわかっている。いわばネズミにとってはありがたい共生者なのだ。
実際、ネズミの毛のなかをすばやく走り回るそうだが、ネズミはとくに嫌がらないという。
ハネカクシ科は本書『とんでもない甲虫』に何度か登場するが、生態的にも形態的にも異なる種が多く、甲虫の多様性を代表する一群である。
どちらも、その特殊な生息環境に恥じない、とんでもない姿をしている。
とんでもない甲虫
『ツノゼミ ありえない虫』『きらめく甲虫』につづく、丸山宗利氏の昆虫ビジュアルブック第3弾!
硬くてかっこいい姿が人気の「甲虫」の中でも、姿かたちや生態がへんてこな虫を厳選。
標本作製の名手・福井敬貴氏を共著者に迎え、掲載数は過去2作を大幅に上回る279種!
おどろきの甲虫の世界を、美しい写真で楽しめます。
この連載では『とんでもない甲虫』の最新情報をお届けします。
●パンクロッカーみたいだけど気は優しい――とげとげの甲虫
●ダンゴムシのように丸まるコガネムシ――マンマルコガネ
●その毛はなんのため?――もふもふの甲虫
●キラキラと輝く、熱帯雨林のブローチ――ブローチハムシ
●4つの眼で水中も空中も同時に警戒――ミズスマシ
●アリバチのそっくりさんが多すぎる! ――アリバチ擬態の甲虫 など