とげとげ、もふもふ、まんまる、くしひげ、くびなが……。昆虫の概念がひっくり返る、279種のおかしな甲虫を厳選したビジュアルブック『とんでもない甲虫』(丸山宗利・福井敬貴著)が好評発売中!
今回は本書よりコラム「モドキ、ダマシ、ニセ……変な名前の甲虫」をご紹介します。これを知ると、変な名前から、学者たちの苦労が透けてみえてきます。
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モドキ、ダマシ、ニセ……変な名前の甲虫
本書やこの連載をお読みいただいた方は、変な言葉が名前につく甲虫がたびたび出てきて、なんとなく不思議に感じたかもしれない。
そういう名前がある理由は単純だ。甲虫はとにかく種数が多くて、外見による単純な表現方法には限界がある。
だから学者たちは、似ている虫を思い出して、それにモドキやダマシやニセをつけて命名せざるを得ないのである。
「虫に対して失礼だ」などという感傷的な意見もたまに聞くが、名前とはあくまでその虫を認識するための記号であって、虫たちが抗議してこないかぎり、あまり特徴のない虫に対しては仕方のない命名法といえる。
たとえばここに図示したミナミニセマグソコガネダマシには、どんな意味が込められているのだろうか。初めて聞いた人には、どんな虫なのかまったくわからず、ただ呪文のように思えるだろう。
まず、「ニセマグソコガネ亜科」というコガネムシ科の一群があり、なんとなくそれに似ているので、「ダマシ」をつけた。さらに、この種は南西諸島にいるので「ミナミ」をつけたという次第である。
しかしじつはゴミムシダマシ科に属していて、それを知るとちょっとややこしい。
そのほか、変な名前といえば、本書にも登場するメクラチビゴミムシのなかまがあげられる。
近年、動物の分類群によっては、差別的な意味をふくむ名前を変えようという動きもあるが、あくまで目のない虫に対してつけられた名前である。
そもそも、差別や悪意は言葉に宿るものではなく、人の心に宿るものである。この虫の名前を「めなし」やその類語に変えたところで、何の意味もないように感じる。
いずれにしても変な名前や複雑な名前は、学者の苦慮(くりょ)のたまものなのだ。
本書『とんでもない甲虫』ではそういう名前の面白さも味わっていただきたい。
とんでもない甲虫
『ツノゼミ ありえない虫』『きらめく甲虫』につづく、丸山宗利氏の昆虫ビジュアルブック第3弾!
硬くてかっこいい姿が人気の「甲虫」の中でも、姿かたちや生態がへんてこな虫を厳選。
標本作製の名手・福井敬貴氏を共著者に迎え、掲載数は過去2作を大幅に上回る279種!
おどろきの甲虫の世界を、美しい写真で楽しめます。
この連載では『とんでもない甲虫』の最新情報をお届けします。
●パンクロッカーみたいだけど気は優しい――とげとげの甲虫
●ダンゴムシのように丸まるコガネムシ――マンマルコガネ
●その毛はなんのため?――もふもふの甲虫
●キラキラと輝く、熱帯雨林のブローチ――ブローチハムシ
●4つの眼で水中も空中も同時に警戒――ミズスマシ
●アリバチのそっくりさんが多すぎる! ――アリバチ擬態の甲虫 など