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美しい暮らし

2020.01.20 公開 ポスト

イカレポンチの回顧録#2

シンガポールの小鬼矢吹透

1970年、僕が5歳の年に、我が家は一家でシンガポールに渡る。

父が、シンガポールの南洋大学(現在の南洋理工大学)に留学したためである。

東大で中国語を学んだ父は、毛沢東に傾倒し、中国を専門とする研究者となったが、その当時は、日本と中国の間に国交がなく、中国本土へと留学することは叶わなかった。

中国語を学んだり、中国をウォッチするためには、日本と国交のある華僑文化圏に渡るほかに手段がなかった。

勤務先であるアジア経済研究所の研修制度を利用して、父が留学先として選んだのは、シンガポールと香港だった。それぞれへの各1年間の留学が許可された。

1ドルが360円の時代である。加えて、海外に持ち出せる金額にも制限があった。70年当時、留学渡航の海外持ち出し限度額が1日10ドルだったというので、一年分として、3,650ドルという計算になる。翌71年に、限度額は1日15ドルに引き上げられる。一年分が5,475ドルとなったわけだが、いずれにしても、一年を海外で暮らすための資金としては、あまりに少ないという印象を、現代の人間なら抱くのではないだろうか。

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矢吹透『美しい暮らし』

味覚の記憶は、いつも大切な人たちと結びつく——。 冬の午後に訪ねてきた後輩のために作る冬のほうれんそうの一品。苦味に春を感じる、ふきのとうのピッツア。少年の心細い気持ちを救った香港のキュウリのサンドイッチ。海の家のようなレストランで出会った白いサングリア。仕事と恋の思い出が詰まったベーカリーの閉店……。 人生の喜びも哀しみもたっぷり味わせてくれる、繊細で胸にしみいる文章とレシピ。

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美しい暮らし

 日々を丁寧に慈しみながら暮らすこと。食事がおいしくいただけること、友人と楽しく語らうこと、その貴重さ、ありがたさを見つめ直すために。

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矢吹透

東京生まれ。 慶應義塾大学在学中に第47回小説現代新人賞(講談社主催)を受賞。 大学を卒業後、テレビ局に勤務するが、早期退職制度に応募し、退社。 第二の人生を模索する日々。

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