1970年、僕が5歳の年に、我が家は一家でシンガポールに渡る。
父が、シンガポールの南洋大学(現在の南洋理工大学)に留学したためである。
東大で中国語を学んだ父は、毛沢東に傾倒し、中国を専門とする研究者となったが、その当時は、日本と中国の間に国交がなく、中国本土へと留学することは叶わなかった。
中国語を学んだり、中国をウォッチするためには、日本と国交のある華僑文化圏に渡るほかに手段がなかった。
勤務先であるアジア経済研究所の研修制度を利用して、父が留学先として選んだのは、シンガポールと香港だった。それぞれへの各1年間の留学が許可された。
1ドルが360円の時代である。加えて、海外に持ち出せる金額にも制限があった。70年当時、留学渡航の海外持ち出し限度額が1日10ドルだったというので、一年分として、3,650ドルという計算になる。翌71年に、限度額は1日15ドルに引き上げられる。一年分が5,475ドルとなったわけだが、いずれにしても、一年を海外で暮らすための資金としては、あまりに少ないという印象を、現代の人間なら抱くのではないだろうか。
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日々を丁寧に慈しみながら暮らすこと。食事がおいしくいただけること、友人と楽しく語らうこと、その貴重さ、ありがたさを見つめ直すために。