人前で話すのが苦手、緊張してあがってしまう、社交の場を避けがち……。10人に1人が抱えているという「社交不安障害」。心当たりのある方も多いのではないでしょうか? 精神科医、岡田尊司さんの『社交不安障害』は、このやっかいなシンドロームの克服法を優しく教えてくれる本。自分を縛る不安の正体を知り、有効なトレーニングを積めば、改善は十分可能です! そんな本書の一部をご紹介します。
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こんなお悩みありませんか?
人とかかわる場面において、不安や緊張が強いために、社会生活に支障が出る状態のことを社交不安障害と言う。「社会不安障害」という訳語が長く用いられていたので、そちらの方が、なじみがあるという人もいるだろう。
それ以前は、「社会恐怖」や「対人恐怖」といった用語も使われた。やや年配の方だと、「対人恐怖症」という言葉を聞かれたことが多いかもしれない。
ほとんど同じ状態を指すのだが、対人恐怖という用語は、人間そのものを恐れるというニュアンスになるが、実際には人前で話すのが苦手なだけで、それ以外の友人付き合いは普通に楽しめるという人も多いわけで、用語として対人恐怖という言い方は廃れ、適用範囲が広い社会(社交)不安という言い方に変わってきたという経緯がある。
そうしたこともあり、社交不安障害の有病率は高く、アメリカの調査でも七~十二%とされている。パニック障害や全般性不安障害といった他の不安障害は女性が多いのだが、社交不安障害は、男女差があまりないのが特徴である。
血液型の分布が欧米と東洋とでは異なるように、人種によって不安を感じやすい遺伝子タイプの分布は異なる。東洋人では、不安を感じやすい遺伝子タイプのもち主が欧米よりも大幅に多く、報告されている数字よりも社交不安障害の頻度は高いと思われる。
当然、文化や社会の影響も受け、日本のように、自己主張よりも遠慮や謙遜を重視するような文化圏の民族では、社交不安の強さは、障害というより美徳だった面もある。
ところが、近代化によって生活習慣や社会のあり方が欧米化するとともに、自己主張ということが重視され、価値観自体の急激なシフトが起きることになった。
これまでなら、自己主張が苦手でもむしろ好意的に受け止められていたのが、欠点とみなされるようになり、ついには障害として扱われるようになったのである。
あの有名人も「社交不安障害」?
障害かどうかは、生活に著しい支障が出ているかどうかによって判定される。つまり、生活の仕方が変わると、支障が強まったり弱まったりすることになる。それまでさほど問題なく生活していたのに、結婚や就職によって、急に支障が出てくるという場合もある。
社交不安障害の場合、悪化しやすい要因としては、人前でしゃべる機会が増え、そのことに強い負担やプレッシャーを感じるようになったということが多い。
社交不安障害の症状としてもっとも多いのは、人前でしゃべらなければならないときに緊張して落ち着きがなくなったり、極度に不安になったりするというものだ。「あがり症」と呼ばれたりする。苦手意識をもち、そうした場面を避けようとすることも多い。
特別な場のスピーチだけが苦手という場合から、日常的に友人や家族と話をするのも緊張するというレベルまで幅広い。失敗するのではとか、変に思われるのではといった恐れから、発言したり自分から話しかけたりすることも消極的になりやすい。
次に多いのは、人前で食事をするのが苦手というものだ。緊張のあまり気分が悪くなったり、またそうなるのではないかと不安で、会食を避けようとする。これが高じると、家族と外食することも緊張や不安のため苦痛になり、しなくなってしまう。
俳優の田村正和さんも、人前で食事をするのが苦手で、滅多に会食をしないので有名だが、意外に社交不安障害をおもちなのかもしれない。俳優やスポーツ選手といった、おおぜいの視線にさらされることに慣れているはずの人でも、社交不安障害に悩んでいらっしゃる方は少なくないようだ。俳優の高嶋政伸さんも、撮影の前にすごく緊張し、吐きそうになるという。
『失われた時を求めて』で名高いフランスの作家プルーストも、人前で食事をしないことで知られていた。プルーストの場合は音にも敏感で、コルク張りの部屋に一人こもって暮らしていた。社交を避ける以外にも感覚過敏や同じ行動パターンへのこだわりなどもあり、自閉スペクトラム症がベースにあったと推測される。
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社交不安障害
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