16人目の営業局・太田和美より。plusではコグマ部長として連載(営業日誌、書評)もあります(どちらも止まってますが…!)。
* * *
コロナ禍によって、スポーツの試合もすべてがなくなった。その中でも春の選抜高校野球がなくなったのは自分にとってはかなりショックだった。
『スローカーブを、もう一球』の表題作にもなっているのも春の甲子園にちなんだエピソード。80年秋、群馬県立高崎高校野球部は関東大会決勝戦まで駒を進めていた。ここまでくれば自動的に来春の選抜の出場権が得られる。高崎高校といえば進学校で甲子園ではまったくの無名、対戦相手はいずれも強豪校ばかり。想定外の甲子園出場を目前にして興奮する周囲をよそに、エースの川端俊介だけはどこか冷静になっていて、淡々と自分のピッチングをしているのだった。
その彼の得意球が、スローカーブ。まるで小学生が投げるような山なりのボールだ。相手が打つ気満々と見ると、そのスローカーブを投げる。緊迫した場面で、まるで時間が止まったかのようなスピードでボールは放物線を描いてミットに収まった。川端投手の飄々さが、最高に痛快なのである。当時、何事にも斜めに構えていた私は、ガツガツしてないそんな川端投手の姿勢にどこか憧れていたのだ。
著者は亡き山際淳司さん。この『スローカーブを、もう一球』にも収録されている「江夏の21球」でスポーツライターとしてブレイクし、その後、NHKのスポーツニュースのメインキャスターやビール(スーパードライね)のCMにも出るほどだった。彼の書くスポーツノンフィクションは、まったく全国では知られていない1コマをきれいに切り取ったものが多かった。
ちなみに私は彼に影響されて、しばらくはどんな試合でもスコアブックを付けながら見ていた。大学の練習試合をバックネット裏でスコアブックを付けながら見ていて、プロのスカウトに間違われて焦ったこともあった。学校を出て出版社に入ったときには面接で『スローカーブを、もう一球』について熱く語った。それで今に至る。このパラグラフはまったくの余談である。
たぶん、今年は夏の高校野球もなくなるのだろう。野球を始めたてのころはテレビで見る高校球児をとても大きなお兄ちゃんだと思った。それが、いつの間にか彼らの歳を超え、いまではすっかり親の気持ちになっている。
もちろん甲子園がすべてとは思わない。ただ、なんでもいいから目標に目がけて頑張っている姿に感動するのである。
コロナ禍で思わぬロスに遭った私は、もう40年も前の高校球児のエピソードを読まずにいられないのだ。
さて、中高年以上の野球好きにはこちらもおススメ。『プロ野球怪物伝 大谷翔平、田中将大から王・長嶋ら昭和の名選手まで』。惜しくも今年2月に亡くなってしまったが、選手を、野球を見る目は最後まで確かだった。読んでいると、ノムさんの声が聞こえてくるようだ。
プロ野球が始まるまで、この本で予習しておいてください。
#こんな時だからこそ読みたい本 幻冬舎社員リレー
幻冬舎社員がリレー形式で「こんな時だからこそ読みたい本」をおすすめします。
- バックナンバー
-
- 宇宙人と交信するための9のキーワード。ハ...
- 恐怖をなくす魔法の正体(専務取締役・石原...
- 会えない寂しさを埋める対談本(第三編集局...
- どんな靴より遠くに行ける魔法のなかへ(第...
- 50年前のレシピ本での発見、おやつは自作...
- 最悪の状況でも、最後に残るのは愛だった(...
- 現実から少しだけ離れて心を守る(校正部門...
- 酒を「飲む人生」と「飲まない人生」、どち...
- 懸命に働く人を思いながら(「小説幻冬」編...
- 真似できないファンキーさに胸が熱くなる!...
- 日常は一瞬で変わるから(営業局・黒田倫史...
- 家にいるからこそ家族と密に(第3編集局・...
- 甲子園ロスを少しでも埋めるために(営業局...
- 文字に疲れてしまったら眺める旅へ(経理局...
- コロナ対策でも頑張る女性たちへ感謝と賞賛...
- 旅人の思考を追体験して窮屈さを忘れる(校...
- 長い作品を自分のペースで時間をかけて(出...
- 名勝負を読んで熱くなりたい(第1編集局・...
- 自転車で旅する日を楽しみに(第2編集局・...
- BLと萌えを栄養に不安な日々を乗り越えた...
- もっと見る