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#こんな時だからこそ読みたい本 幻冬舎社員リレー

2020.05.11 公開 ポスト

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甲子園ロスを少しでも埋めるために(営業局・太田和美)幻冬舎編集部

16人目の営業局・太田和美より。plusではコグマ部長として連載(営業日誌書評)もあります(どちらも止まってますが…!)。

*   *   *

コロナ禍によって、スポーツの試合もすべてがなくなった。その中でも春の選抜高校野球がなくなったのは自分にとってはかなりショックだった。

 

『スローカーブを、もう一球』の表題作にもなっているのも春の甲子園にちなんだエピソード。80年秋、群馬県立高崎高校野球部は関東大会決勝戦まで駒を進めていた。ここまでくれば自動的に来春の選抜の出場権が得られる。高崎高校といえば進学校で甲子園ではまったくの無名、対戦相手はいずれも強豪校ばかり。想定外の甲子園出場を目前にして興奮する周囲をよそに、エースの川端俊介だけはどこか冷静になっていて、淡々と自分のピッチングをしているのだった。

その彼の得意球が、スローカーブ。まるで小学生が投げるような山なりのボールだ。相手が打つ気満々と見ると、そのスローカーブを投げる。緊迫した場面で、まるで時間が止まったかのようなスピードでボールは放物線を描いてミットに収まった。川端投手の飄々さが、最高に痛快なのである。当時、何事にも斜めに構えていた私は、ガツガツしてないそんな川端投手の姿勢にどこか憧れていたのだ。

著者は亡き山際淳司さん。この『スローカーブを、もう一球』にも収録されている「江夏の21球」でスポーツライターとしてブレイクし、その後、NHKのスポーツニュースのメインキャスターやビール(スーパードライね)のCMにも出るほどだった。彼の書くスポーツノンフィクションは、まったく全国では知られていない1コマをきれいに切り取ったものが多かった。

ちなみに私は彼に影響されて、しばらくはどんな試合でもスコアブックを付けながら見ていた。大学の練習試合をバックネット裏でスコアブックを付けながら見ていて、プロのスカウトに間違われて焦ったこともあった。学校を出て出版社に入ったときには面接で『スローカーブを、もう一球』について熱く語った。それで今に至る。このパラグラフはまったくの余談である。

たぶん、今年は夏の高校野球もなくなるのだろう。野球を始めたてのころはテレビで見る高校球児をとても大きなお兄ちゃんだと思った。それが、いつの間にか彼らの歳を超え、いまではすっかり親の気持ちになっている。

もちろん甲子園がすべてとは思わない。ただ、なんでもいいから目標に目がけて頑張っている姿に感動するのである。

コロナ禍で思わぬロスに遭った私は、もう40年も前の高校球児のエピソードを読まずにいられないのだ。

さて、中高年以上の野球好きにはこちらもおススメ。『プロ野球怪物伝 大谷翔平、田中将大から王・長嶋ら昭和の名選手まで』。惜しくも今年2月に亡くなってしまったが、選手を、野球を見る目は最後まで確かだった。読んでいると、ノムさんの声が聞こえてくるようだ。

プロ野球が始まるまで、この本で予習しておいてください

山際淳司『スローカーブを、もう一球』

たったの一球が、一瞬が、人生を変えてしまうことはあるのだろうか。一度だけ打ったホームラン、九回裏の封じ込め。「ゲーム」―なんと面白い言葉だろう。人生がゲームのようなものなのか、ゲームが人生の縮図なのか。駆け引きと疲労の中、ドラマは突然始まり、時間は濃密に急回転する。勝つ者がいれば、負ける者がいる。競技だけに邁進し、限界を超えようとするアスリートたちを活写した、不朽のスポーツ・ノンフィクション。

野村克也『プロ野球怪物伝』

攻略法のなかった松井、 史上最高の右バッター落合、 本格派と技巧派、変幻自在のダルビッシュ…… 私が嫉妬する、38人の"常識はずれ"な男たち 王貞治、長嶋茂雄ら昭和の名選手から、大谷翔平、ダルビッシュ有、佐々木朗希ら 新世代のスターまで、名将ノムさんが38人の"怪物"たちを徹底分析!

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