戦後最悪ともいわれる、新型コロナウイルス感染拡大による景気後退。不透明な社会情勢が続くなか、実はコロナ以前から日本は「貧しく、住みにくい国」になっていました。その衝撃の現実をデータで示した『貧乏国ニッポン ますます転落する国でどう生きるか』(加谷珪一氏著、幻冬舎新書)が発売後、5刷目の重版となり、反響を呼んでいます。
現在ネットでも反響を呼んでいる、日本人の「給料安すぎ問題」も、まさに日本の貧しさの一側面です。この30年間で日本がどう世界から取り残され、コロナで私達の生活はどう変わり、どう対処すればよいのか。内容を少しご紹介いたします。
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89年に世界1位だった国際競争力は30位に
スイスのIMDという組織が毎年発表している世界競争力ランキングという指標があります。これは経済状況、政府の効率性、ビジネスの効率性、インフラ整備など多方面から各国の競争力について比較したもので、各国の競争力を端的に示す指標としてよく使われています。
この調査は1989年から継続して行われていますが、日本は調査がスタートした当初はランキング1位でした。ところが、1990年代後半から順位を落とし始め、2003年には27位まで低下。一時、再度、上昇するかに見えましたが、その後はさらに悪化し、最新の2019年では何と30位にまで低下しています。
2019年に1位となったのはシンガポール、2位は香港、3位は米国、4位はスイスとなっており、日本は中国(14位)やドイツ(17位)に大きく引き離されているだけでなく、タイ(25位)や韓国(28位)よりもランクが下です。こうしたランキングに対しては、常に「恣意的ではないか」「基準によって評価は変わるので意味がない」といった批判の声が寄せられます。確かにランキングというのは、基準によって結果が変わるので、その順位を絶対視するのは危険ですが、重要なのは、順位の絶対値ではなく、過去、どのように推移してきたのかという部分です。こうしたランキングは基本的に毎年、同じ基準で評価するわけですから、日本のランキングが年々下がり、1位から30位まで低下してしまったということは、同じ条件で比べた時の水準が確実に低下していることを意味しています。さらに注目すべきなのは、主要国の中で、一方的に順位が下がっているのは日本だけであるという点です。米国は調査が始まって以来、ずっとトップクラスを維持していますし、ドイツも多少の変動はありますが、たいていの年で5位から15位以内をキープしています。
当然ですが、中国は経済成長が著しいですから、年々順位を上げています。日本だけが一方的に負け続けているという状況ですか
ら、やはりここには大きな問題が存在していると考えるべきでしょう。
日本が暮らしやすい国であるというイメージも過去のものとなりつつあります。日本人は日本のことを世界でもっとも安全で環境がよく、暮らしやすい国であるという認識を持っていますが、近年は必ずしもそうとは言い切れなくなっています。グローバルに事業を展開する金融大手HSBCホールディングスが発表した「各国の駐在員が住みたい国ランキング」では、日本は調査対象33カ国中32位というショッキングな結果となりました。ちなみに、ランキングの1位はスイス、2位はシンガポール、3位はカナダ、4位はスペイン、5位はニュージーランド、6位はオーストラリアで、逆に日本より評価が低かった最下位の国はブラジルでした。
外国人は日本に駐在したくない
上位に並んでいる国を見ると、2つの特徴が浮かび上がってきます。スイス、シンガポールがその典型ですが、極めて賃金が高く、完璧なビジネス環境が整備されていることが順位に大きく貢献しています。個別項目の評価結果を見ると、スイスは、圧倒的に賃金のポイントが高くなっています。一方で、幸福感や満足感といった項目のポイントは低めでした。シンガポールも似たような結果で、賃金では圧倒的な高得点ですが、ワークライフバランスのポイントは高くありません。
一方、カナダ、スペイン、ニュージーランドといった国は、ガツガツ仕事をしない国というのが一般的イメージですが、実際、このランキングでも、ワークライフバランスの点数が高く、これが総合順位を押し上げた格好です。もっとも、カナダ、スペイン、ニュージーランドなど、ワークライフバランスが高い国は、それだけで点数を稼いでいるわけではありません。これらの国の賃金は、最上位でこそありませんが、決して低くはありません。いくら残業時間が少なくても、生活が苦しい状況では、満足度は上がらないという現実を考えると、賃金が高いことは極めて重要なポイントであることがお分かりいただけると思います。
これに加えてランキングが高い国は、教育環境が充実しているという共通項があります。
どんな国の人にとっても子どもは大切であり、いくら高賃金で、ワークライフバランスがよくても、教育環境が悪ければ総合評価は上がりません。こうした状況を踏まえて、日本の個別評価を見てみると、厳しい現実が浮かび上がってきます。日本のランキングが著しく低いのは、何かが大きく足を引っ張っているのではなく、すべての項目において評価が低いことが原因です。具体的に言うと、賃金については最下位、ワークライフバランスについても最下位、子どもの教育環境についても最下位です。
「賃金」「労働時間」「子育て」全てが低水準
この結果を見る限り、国が違っても、ビジネスパーソンが求めるものにそれほど大きな違いはないことが分かります。今の日本社会でもっとも重要な課題となっているのは、賃金、労働時間、子育ての3つであることは誰もが認める事実だと思います。日本はすべての項目で評価が低く、全体のランキングも下がっています。これは評価基準の恣意性が云々という話ではなく、日本の国際的なポジションが低下し、暮らしにくい国になっている現実を如実に示した結果といってよいでしょう。
さらに言えば、この結果は日本の将来を暗示している面もあります。実は、日本よりランクが上位の国の中に、ベトナム(10位)、フィリピン(24位)、インドネシア(31位)といった国々が入っているのです。これらは、日本が外国人労働者の受け入れにあたって、人材供給源として想定しているところです。安倍政権は2018年、深刻な人手不足に対応するため、外国人労働者の本格的な受け入れを行うと表明し、日本は事実上の移民政策に舵を切りました。日本企業が求めているのは安価に雇える外国人労働者であり、具体的にはベトナム、フィリピン、インドネシアといった国からの来日が想定されています。日本は、人材供給源として想定している国よりも魅力のない場所となっており、このままでは、外国人労働者すら来てくれなくなるかもしれません。下手をすると、日本は外国人労働者を受け入れるのではなく、外国に出稼ぎに行くことすら求められる可能性も出てきているのです。
貧乏国ニッポン
戦後最悪ともいわれる、新型コロナウイルス感染拡大による景気後退。不透明な社会情勢が続くなか、実はコロナ以前から日本は「貧しく、住みにくい国」になっていました。その衝撃の現実をデータで示した『貧乏国ニッポン ますます転落する国でどう生きるか』(加谷珪一氏著、幻冬舎新書)が発売後、4刷目の重版となり、反響を呼んでいます。
この30年間で日本がどう世界から取り残され、コロナで私達の生活はどう変わり、どう対処すればよいのか。内容を少しご紹介いたします。