「才能がある」と言われている人たちは、“その人に合った”動機付けがまずあって、そこから“正しいやり方”を選んで、“コツコツと努力”を積み重ねている。――ということを前回説明しました。
それでも、言いたくなるでしょう。「それでも”地アタマ”が最初から違うんでしょ?」と。
さあ、才能研究家・坪田信貴さんはそれになんと答えるでしょうか。
『才能の正体』文庫版より、どうぞ――。
* * *
人はどういうときに、「あの人は地アタマがいい。才能がある」と言うのか
僕は全国各地から依頼をいただき、様々な場所で講演をしています。調べてみたら、ここ3年間で約15万人の方にお話をしていました。学生さんや親御さん向けの「教育」をテーマにした講演から、ビジネスパーソン向けの「人材育成」や「チームビルディング」についての講演まで、ターゲットはいろいろですが、共通しているテーマは「個人の能力をいかに伸ばすか」ということです。
お客さんの多くは、僕のことを『ビリギャル』で知っていますから、皆さんに向かって、僕は必ず、こう問いかけます。
「僕はたびたび、『ビリギャル』のさやかちゃんは、もともと地アタマが良くて、才能があったんでしょう、という言い方をされます。この中で自分の息子さん、娘さん、あるいは自分自身が『地アタマがいい』『才能がある』と思う人は、手を挙げてください」
会場に1000人いたとして、どれくらいの人が手を挙げると思いますか?
だいたい3人くらいです。たったの0・3%。面白いことに、どこの会場でもこの割合はほぼ一緒です。
そこで、さらに質問をします。
「では、“地アタマ”とか“才能”って、何なのでしょうか? 皆さんは何をもって、『さやかちゃんは地アタマがいい、才能があった』と思ったのでしょうか? 逆に何をもって、皆さんは自分の息子さん、娘さん、あるいは自分自身は地アタマが良くない、才能がない、と思っていらっしゃるのですか?」
こう聞くと、だいたいの人は「う~ん」と言うばかりで、答えが出ません。
そこで僕はこう言います。
「これは、皆さんが“結果”だけを見ているからなんです」と。
「さやかちゃんは、学年ビリからスタートして、慶應義塾大学と明治大学と関西学院大学に受かりましたが、実は皆さんは、『慶應と明治と関学に合格した』という“結果”しか見ていません。これは他のことでも当てはまります。名門の中高一貫校に合格した、早稲田大学に受かった、東京大学に受かった、医学部に受かった、ハーバード大学へ留学した、弁護士になった、本を書いてミリオンセラーを出した、すごい発明をして世界を変えた、起業して株式公開をして大金持ちになった、ノーベル賞を受賞した……などなど、いずれも“結果だけ”を見て、この人は『地アタマがいい』『才能がある』と言っているのです」
こう説明すると、皆さん、ハッとするようです。
大学に落ちれば「もともと才能がない」。受かれば「地アタマが良かった」
『ビリギャル』にも書いていますが、さやかちゃんが初めて僕のところへ来たとき、家族も友人もほぼすべての人が、「慶應合格なんてまず無理」「身の程知らず」「勉強ができるようになるはずがない」と思っていました。さやかちゃんのお父さんは「お前が受かるわけがない。塾にお金を払うのは、ドブに金を捨てるみたいなもの。一銭も出さないから、やめなさい」と言ったそうです。ですから、塾のお金は、お母さんが苦労して払ってくださいました(その後、さやかちゃんの成績がメキメキ上がったのを目の当たりにしたお父さんは、応援してくれるようになりました)。
さらに学校の友達からは「さやかはもともとバカだったけど、とうとう頭がおかしくなった!」と言われたそうです。それまで遊んでばかりいて、成績も悪くて“バカ”だったのに、「私は慶應へ行く」と、急に勉強を始めたことから、ついたあだ名が「ガリ勉バカ」。
学校の先生からは「お前が慶應に受かったら、俺は全裸で逆立ちして、ここを1周してやるわ」と言われたそうです。ちなみに映画『ビリギャル』では、先生は約束を守ったことになっていますが、実際には、卒業式のときに合格通知を見せに行ったら、無視されたそうです(ひどいですよね!)。
でも、もし、ですよ? さやかちゃんが猛勉強して、成績も上がって、偏差値もすごく上がった。でも受験に失敗してすべての大学に落ちていたら……。それでも彼女は「地アタマは良かった」「才能はあった」と言われたでしょうか?
金髪のギャルで、聖徳太子を「せいとくたこ」と読んでいたさやかちゃんです。もし受験に失敗していたら、周りから「それ見たことか」「言わんこっちゃない」「ああいう大学は、才能がある人が行くところなんだよ」みたいに言われていたでしょう。
それがどんな人であっても、結果が出たら「元0 がいい」「地アタマがいい」と言われ、結果が出なければ「もともと才能がない」、と言われるのです。受験までに驚くほど偏差値が上がっていたとしても、です。
人は結果しか見てくれない、結果からしか判断しない、ということなのです。
才能の正体
コロナ禍は、学習シーンにも大きく影響し、休校になったり、授業がオンラインになったりした。学校の授業だけでなく、塾も、部活も、コロナ前の体制に戻るには時間がかかりそうだ。いや、そもそも、戻らないのかもしれない。
でも、だからといって、能力を伸ばせなくなったわけではない!
「才能の本質」について知れば、体制に関係なく、能力を伸ばすことはできる。
学年ビリのギャルが1年で偏差値が40も上がり、慶応大学に合格できたのは、坪田先生との出会いのおかげだが、その『ビリギャル』の坪田先生が、「才能とは何か」について余すことなく書いたのが、ベストセラー『才能の正体』。
その『才能の正体』が文庫化されました! 文庫化記念で、本文を公開します。
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