「地アタマ」も「やる気スイッチ」も幻想!そんなものはありません。
であれば、どうやって、能力を伸ばしたらいい?
いよいよ、その根源的な問題を、具体的に説明していただきましょう。
坪田信貴先生の『才能の正体』文庫化にあたり、本文公開いたします。
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やる気のもとである「動機付け」を分析してみた──まず「何をどう認知しているか」
この「動機付け」について、もう少し考えてみましょう。
少し専門的な説明になりますが、動機付けは、「認知」「情動」「欲求」の3つの行動から成り立ちます。
まずは「認知」から説明していきましょう。さきほども「認知」という言葉を出しましたが、才能について考えるときにもとても重要なキーワードなので、ぜひ理解しておいてください。
たとえば、読書経験が浅い人が、プルーストの『失われた時を求めて』や、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』などの大長編を目の前にしたら、「こんな分厚い本、無理! 絶対に読み切れない」と思って、読む前から諦めてしまうでしょう。
しかし、一見すると“高すぎるハードル”も、「認知」次第で、越えることができます。さっそく具体的に考えてみましょう。
目の前に500ページの本があります。これを20日間で読み終えたい。さて、どうしたらいいでしょうか?
答えはとてもシンプル。一日25ページずつ読めば、20日間で読み終えられます。25ページなら、できそうではないですか? さっそく今日、25ページ読んでみようと思うはずです。
人間というのは「これなら自分にできそう」で、しかも「これはきっと人生の役に立つに違いない」と思えたら、行動に移すものなのです。
これが「認知」です。
ところで、この認知には、かなりの個人差があります。面白いエピソードをご紹介しましょう。
バンクーバー・オリンピックとソチ・オリンピックに出場し、現在はプロフィギュアスケーター、解説者、振付師として活躍する鈴木明子さんとお話ししたときのことです。鈴木さんは、2018年の平昌冬季オリンピックのテレビ中継でフィギュアスケートの解説をされていたのですが、その解説に感激した僕は「とても素敵な解説でした」とお伝えしました。すると鈴木さんは「初めてオリンピックを見て、楽しかったです」とおっしゃる。ずっと選手として活躍し、オリンピックに出場したこともある方なのに不思議なことを言うのだなあと思って聞いてみると、「オリンピックって、参加するものじゃなくて、見て楽しむものなんだなって思いました」と。
びっくりしました。これは、オリンピックに参加したことがある人だから言える言葉でした。幼いときからフィギュアスケートをやっていた鈴木さんにとって、オリンピックは「見るもの」ではなく「出場するもの」と“認知”されていたということなのです。
このように、認知次第で、今、目の前に広がっている世界の見え方も、価値観も、がらりと変わります。それによって、その先の歩き方や組み立て方が変わってくるのですから、スタート地点で「自分が(子どもが/部下が)、何をどう認知しているか」を冷静に正確に観察することが大切なのです。
そして、「(子どもや部下が)面白いと思える視座」を与えられれば、動機付けなんていくらでもコントロール可能なのです。
「高すぎるハードル」を乗り越える秘訣
動機付けに必要なこととして、まずは、対象を正確に「認知」する。そして、自分にそれができるのか、それともできないのか、を判断する。──ということを、前項で述べました。
動機付けの理論として、「情動」や「欲求」という観点についても説明しましょう。
「情動」というのは、バーンと感情が燃え上がってテンション上がるわ~、となる状態です。
テンションが上がらないと、何事も続かないものです。イヤイヤ続けているようなものが長く続いた試しはないでしょう。結局やめてしまいますよね。親に無理やりやらされる算数のドリルや、行きたくないと思いながら通っている習い事などが長続きしないのは、このせいです。
この「テンション上がるわ~の状態」=「情動」というのは、別の言葉で言い替えると「感情」です。過去の経験の積み重ねで生まれる「感情」であったり、現在進行形のものに対する「感情」です。
そして、もうひとつの動機付けの理論が「欲求」です。
「欲求」は、「本当に自分がそれをやりたいと思うかどうか」です。
たとえば、新しいことはテンションが上がりやすいものです。それが楽しければ、ますますテンションは上がりますよね。しかし、一時的にテンションが上がってやったことが、後になって「なんでこんなことしたんだろう?」となる経験、皆さんもありませんか。「計画していなかったのにやってしまった」というのがそれです。「衝動買い」がいい例ですし、そういう要素で起こってしまう犯罪も多くあると思います。
こういう一時的なものは、動機付けにはなりません。自分がそれを本当に続けたいという気持ちがあるのかどうか、すなわち、ある程度安定した心理的エネルギーとしての「欲求」があってはじめて、「動機付け」になるのです。
ここで、『ビリギャル』のさやかちゃんのケースを、「認知」「情動」「欲求」の3つに分析してみましょう。
さやかちゃんはまず僕のところへやってきて、出された課題をこなしていきました。その過程で、自分はどれができて、どれができないのか「認知」していきました。
勉強というのは、自分ができるようになっていくと、どんどん面白くなっていきます。それに伴って成績が上がっていく。すると「情動」が刺激され、さらにテンションが上がっていきます。
さらにさやかちゃんには「慶應に合格したい」「お父さんや先生を見返したい」という強烈な「欲求」があるので、動機付けが持続していった。するとそこがさやかちゃんの“尖り”となって、やがて「才能」と呼ぶべきものになっていったというわけです。
才能の正体
コロナ禍は、学習シーンにも大きく影響し、休校になったり、授業がオンラインになったりした。学校の授業だけでなく、塾も、部活も、コロナ前の体制に戻るには時間がかかりそうだ。いや、そもそも、戻らないのかもしれない。
でも、だからといって、能力を伸ばせなくなったわけではない!
「才能の本質」について知れば、体制に関係なく、能力を伸ばすことはできる。
学年ビリのギャルが1年で偏差値が40も上がり、慶応大学に合格できたのは、坪田先生との出会いのおかげだが、その『ビリギャル』の坪田先生が、「才能とは何か」について余すことなく書いたのが、ベストセラー『才能の正体』。
その『才能の正体』が文庫化されました! 文庫化記念で、本文を公開します。
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