「感情の動物」と呼ばれる私たち。喜びや楽しみがあるからこそ、人生は豊かになります。ところが怒りや不安などのネガティブな感情、あるいは自分でも気づかない服従、同調、損失回避といった感情のせいで、どんなに知的な人でもバカな判断をすることがあります。そんな「感情バカ」のメカニズムを解き明かし、バカにならないためのコツを教えてくれるのが、精神科医の和田秀樹さんが贈る『感情バカ』です。その中から、とくに私たちが陥りやすい感情をご紹介しましょう。
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怒りを抑える練習をしよう
前頭葉はどのように鍛えればいいのでしょうか。
これにはいろいろなモデルが想定されています。脳科学者たちは、前頭葉の血流をどうやったら増やせるかという実験を、いくつかしています。
たとえば東北大学の川島隆太教授は、「単純計算や音読がいい」と述べています。私自身、百ます計算(スピードを競う単純な計算)をすると、意欲が高まって子どもたちが勉強するようになる姿を、実際にこの目で見てきました。ですので、簡単な前頭葉の鍛え方としては、効果的な方法だと思います。
ただ、私自身が前頭葉を鍛える方法として最も効果的だと思っているのは、「前頭葉を使う」という方法です。その一つが「感情のコントロール」です。
前頭葉は、感情のコントロールをするところなので、逆から考えて、あえて感情的になって、それをコントロールするというトレーニングをするわけです。
たとえば、自分に議論をふっかけてくるような人、それもできるだけ挑発的な人と話をするなど、腹が立つようなシチュエーションにあえて自分を置いてみます。そして、いかに怒りでなく理屈で対抗するか、その腹立ちをいかにして行動化させないようにするか、いろいろ試みることで、前頭葉に刺激を与えるのです。
ある意味最も直接的な方法ですが、正直、かなりストレスフルなやり方です。
「想定外」のことが前頭葉を刺激する
そこで、もっと意欲的に取り組める方法として、クリエイティブなことをしたり、想定外のことをしたりするのがおすすめです。
「前頭葉を使う」と言うと、「難しいことをやればいい」と考える人がいるかもしれません。しかし、たとえばかなり複雑な経理をやったり、あるいは難しい本を読んだりしても前頭葉は鍛えられません。
難しい本を読んでいるときは、側頭葉にある言語野を使っていると言われています。また、複雑な計算や経理をやっているときは、頭頂葉を使っているだろうと言われています。最近、計算の際には「前頭前野」の血流が増えることが明らかになりましたが、前頭葉を切り取るような手術をしても、言語能力や計算能力は落ちないことが明らかにされています。
では前頭葉はどういうときに使われるのでしょうか。それはたとえば、接客をしているときに予想外の客が来たとか、経理をしていたときに予想外に不正経理が見つかったとかといった場合です。想定外のことが起こると、人間は前頭葉を使ってそれに対処しようとするのです。
そこから考えると、多少損を出してもあまり懐が痛まない程度のお金で、投資をしてみるという方法も悪くはないかもしれません。想定外のことや計算できないことが起こるからです。恋愛なども想定外のことが起こることが少なくないと思います。
しかし、なかには「お金が絡んだりするのはイヤだし、恋愛にもちょっと縁がない」という人もいるかもしれません。そういう場合は、たとえば普段と違う服を着てみるとか、普段と違うレシピで食事をつくってみるといった方法も前頭葉を鍛えるいい方法だと思います。
また、「難しい本を読んでいるときには側頭葉を使っている」と言いましたが、自分と違う意見に出会うと、前頭葉を使うことになります。たとえば思想的に左派の人は保守論調の雑誌を、保守の人は左派系の雑誌を読んでみる。そのようにして、自分と明らかに意見の異なる人の本をあえて読み、「反論を考えながら読む」という方法も、前頭葉を鍛えるのにかなり有効だと思います
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この続きは幻冬舎新書『感情バカ』でお楽しみください。
感情バカ
「感情の動物」と呼ばれる私たち。喜びや楽しみがあるからこそ、人生は豊かになります。ところが怒りや不安といったネガティブな感情や、自分でも気づかない服従、同調、損失回避といった感情のせいで、どんなに知的な人でも「バカな判断」をすることがあります。そんな「感情バカ」のメカニズムを解き明かし、バカにならないコツを教えてくれるのが、精神科医・和田秀樹さんの『感情バカ』です。その中でも、私たちがとくに陥りやすい感情をご紹介しましょう。