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老いて、自由になる。

2020.09.08 公開 ポスト

お釈迦様が最期に残した教え「遺教経」から学ぶ。平井正修

2020年、新型コロナの流行で、突然「死」を身近に感じるようになったという人が多いのではないでしょうか。
長生きそのものに不安を抱いていたのが、今では「死ぬことも、生きることも不安」という時代です。
不安の成果、必要以上に他人を責める人も増えたように感じます。
不安の多い現代。心を穏やかにしてくれるのが、お釈迦様の教え。禅の教えです。

禅僧・平井正修著の新刊『老いて、自由になる。 智慧と安らぎを生む「禅」のある生活』に学んでみましょう。

*   *   *

はじめに

私は、東京・谷中にある「全生庵」という臨済宗の寺の七世住職を務めています。簡単に言えば、禅宗の「お坊さん」です。

大学を卒業してすぐに、静岡県三島市の龍澤寺専門道場に入山し、約一〇年間の修行生活を経て下山。その後、全生庵に入り、今に至ります。

読者のみなさんからすると、禅僧という私の仕事は特殊なものに感じられるかもしれません。しかし、同じ一人の人間として、この世に生きております。どれほど修行を積んでも、悟りの境地などまだまだ遠く、みなさんと同じように日々悩み、ときにうろたえながら生きています。

あらためて私が言うまでもありませんが、二〇二〇年(令和二年)は人類にとって大変な年となりました。新型コロナウイルスによる世界的パンデミックと、身近に迫る死の恐怖。しかも、それは突然やってきました。

その数か月前までは、私の耳に届く人々の不安は、もっぱら「生きること」についてでした。おそらく多くの人が「八〇歳くらいまで元気に活動できたらいいなあ」みたいに考えていたところへ、人生一〇〇年時代とやらが到来したからです。

そんなに長い人生を、仕事がなくなった後にどうやって生きていけばいいのか。お金もない、頼れる人間関係もない、なにより自分自身がどこまでしっかりしていられるか心許

ないというのに……。「老い」に対する漠然とした不安が、常に周囲を漂っていました。

そうした「長生きゆえの苦悩」に翻弄されていたところへ持ってきて、この新型コロナの流行。「いつ罹患するかもわからない」「仕事がなくなるかもしれない」、さらには、「いつ死ぬかもわからない」という状況が生まれたのです。実際、悲しいことに、新型コロナウイルスによる肺炎の患者さんの中には、信じられないほど急激に症状が悪化し亡くなられてしまうケースもあるようです。

私たちは一気に、「長生きも不安、死も不安」という混乱の時代に放り込まれてしまったのです。そして、その出口はまだまだ見通せません。

(写真:iStock.com/ed chechine)

自然災害が多発傾向にあったとはいえ、長い間、日本人は平和に暮らしてきました。しかし、当たり前だと思っていた日常が、いかに貴重なものであったのかを、今回の惨禍で思い知ることになりました。

でも、私たちは、どのような状況からもなにかを学べるはずです。

いきなり身近になった様々な不安とどう対峙すればいいのか。

「老いる」という不安の中で、充実した生をまっとうするには、なにが必要なのか。

本書では、「生きること」と「死ぬこと」について、“お釈迦様が最期に伝えた”と言われる『遺教経(ゆいきょうぎょう)』という教えを学びながら、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。

*   *   *

「老いて、自由になる。」目次

第一章 生きること、死ぬこと

遠ざかっていただけの「本来」――私たちの命は永遠ではない
私たちの「無力」――「諦める」ことで前に進む
「いずれ死ぬ」と知っていれば、きちんと生きていける――「人生一〇〇年時代」になにを信じればいいのか
死の正体――それは、平等に、突然訪れるもの
あの世があると思うのも、一つの手――すべての人に死が訪れるからこそ
老いるとはなにか――身体は衰えるも、心は豊かになる
ただ、そこに、そのときの、命がある――花や、動物から学べること
生きようと思わなくても生きている――だからこそ、日々を丁寧に
ネガティブは悪くない――人は、不安は感じやすいのに、安心はキャッチしにくい
「日日是好日」の意味を言えますか? ――来てもいない明日のことより、「今日」を大切に

第二章 人生は「転」

あなたの不安を消す「転」の発想――すべてのものは変化し続けて、元には戻らない
すべてが変化していく世の中で、執着する価値のあるものなど存在しない――大丈夫。捨てることも、変わることも、それが自然
「あれ?」は夢から覚めた証拠――カラッポになることを恐れない
「今日も生きている」を実感すること――昨日と同じ今日はなく、今日と同じ明日はない
便利は不便――便利すぎることは異常なのだ! と気づいて
一人ひとりの価値観の時代――「個」の集まりが集団。自分以外の存在を認めること
できないことも受け入れる――花は必ず枯れて、次へと命をつないでいく。その姿から学べること
人との関わりで心を乱さないこと――褒められたがる気持ちを、捨てよう
どんな「年寄り」になりますか?――「今が大切」と気づく。過去に固執すると、自分も周囲も苦しめる
毎日は新しい昨日の感性は、もういらない。一日一日を新しく

第三章 心を調える《遺教経の教え》

心が調えばすべて調う――仏教の戒律を、今の私たちの生活にあてはめると
人が人になるために――「自利利他」で、人生は非常に豊かなものとなる
お釈迦様が最期に遺した言葉――「自灯明・法灯明」修行の意味とは?
遺教経の「八大人覚」で心を調える――悟るための八つの教え
満足できる心は「少欲」がつくる――中高年の世代は、「あれもこれも欲しい」気持ちが強い
ビジネスでも求められる「知足」――形あるものでなく、自分の内なるものに目を向ける
近くにいても離れるのが「遠離」――煩悩を抱えたまま、悟りを開くことができる
頑張りすぎない「精進」のすすめ――少しずつ、目に見えないくらいの変化が、意味を持つ
年齢を重ねるほどに、「不忘念」が大事――欲が、私たちの心を乱す
変わりゆく世であなたの心を調える「禅定」――心を乱して、物事がよくなることはない
地位や学歴よりも「智慧」が勝つ――目の前のものをよく観察し、自分の頭で考える
現代人の悩みは「不戯論」で消える――無駄にしゃべりすぎない。言葉を発しすぎない
我慢は“させられる”のではなく、“する”ものです――「我慢」の語源は仏教にあり
いくつになっても真の学びを――常に考えることの大切さ.. . .

第四章 禅的生活

生活の中に「禅」を持つ――掃除など、日常の作務にこそ学びあり
決めた時間に早起きする――心と体を安定させる習慣
鏡を見る――あなたの心も体も、すべて「顔」に表れている.
窓を開ける――光、音、匂いを五感で感じる
お腹から声を出す――『般若心経』のすすめ
よく噛む――食べることは、すなわち生きること。丁寧に大切に
丁寧にお茶をいれる――禅と茶道
目の前にあるものは、半分だけ手に――現代人は、なんでも「持ちすぎ」ている
断捨離する――捨てられない人は、自分の過去にしがみついている
掃除をする――知らないうちに心の状態が出てしまう、玄関とトイレ
美しく調える場を持つ――花を飾る。香を焚く
寝る前に一日を振り返る――寝る前にスッキリしないと、翌日も引きずることに
体の声を聞いて無理なく動く――「歩くだけ」で、いいことがいっぱい
手書きの手紙を出す――下手でも丁寧に。想像以上に、心が休まる
言葉を大切に使う――お釈迦様が、“文章、文字”を残していない理由
ただ坐れ――坐禅のすすめ

平井正修『老いて、自由になる。 智慧と安らぎを生む「禅」のある生活}』

長生きも不安、死も不安――。 「散る」を知り、心は豊かになります。 残りの人生を笑顔で過ごすために、お釈迦様の“最期のお経《遺教経》"から学ぶ8つのこと。

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老いて、自由になる。

長生きも不安、死も不安――。
しかし、「散る」を知り、心は豊かになります。
残りの人生を笑顔で過ごすために、お釈迦様の“最期のお経《遺教経》"から学びましょう。

・持ちすぎない――「小欲(しょうよく)」
・満足は、モノや地位でなく、自分の「内」に持つ――「知(ち)足(そく)」
・自分の心と距離を取り、自分を客観的に眺める――「遠離(おんり)」
・頑張りすぎず、地道に続ける――「精進(しょうじん)」
・純真さ、素直さを忘れない――「不忘(ふもう)念(ねん)」
・世の中には思いもよらないことが起こると知る――「禅定(ぜんじょう)」
・目の前のものをよく観察し、自分の頭で考える――「智慧(ちえ)」
・しゃべりすぎない――「不戯論(ふけろん)」

「心を調える」学びは、一生、必要です。

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平井正修

臨済宗国泰寺派全生庵住職。学習院大学法学部政治学科卒業。一九九〇年静岡県三島市龍澤寺専門道場入山。二〇〇一年同道場下山。二〇〇二年より中曽根元首相や安倍元首相などが参禅する全生庵の第七世住職に就任。全生庵にて坐禅会、写経会を開催。二〇一六年より日本大学危機管理学部客員教授。二〇一八年より大学院大学至善館特任教授。臨済宗国泰寺派教学部長。『心がみるみる晴れる 坐禅のすすめ』『花のように、生きる。』『「見えないもの」を大切に生きる。』『老いて、自由になる。』(以上すべて幻冬舎)、『悩むことは生きること 大人のための仏教塾』(幻冬舎新書)、『山岡鉄舟修養訓』(致知出版社)、『忘れる力』(三笠書房)、『お坊さんにならう こころが調う 朝・昼・夜の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『三つの毒を捨てなさい』(KADOKAWA)など著書多数。

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