昨今、国民的議題となっている皇位継承問題。「女性天皇」と「女系天皇」の違いなど、わかっているようでわかっていない部分も多いでしょう。ジャーナリスト、椎谷哲夫さんの新書『皇室入門』は、皇室の歴史から制度、宮内庁の役割、祭祀、元号、皇位継承問題の論点まで、皇室について幅広く網羅した入門書。日本人なら知っておきたい知識と教養が身につく本書から、一部をご紹介します。
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皇位が「女系」に移ったことはない
皇室典範の改正案に絡んで「女性天皇(女帝)」や「女系天皇」という言葉が出てくるが、両者は全く異なる概念であり、これを混同している人が少なくない。
歴代の天皇のうち女性天皇は8人10代(2人の天皇が重祚)で、最も古い女性天皇は第33代の推古天皇(在位592年~628年)。第29代欽明天皇の皇女であり、第30代敏達天皇の皇后だった方で、当時の皇位継承をめぐる争いや混乱の中で39歳で即位した。
最後の女性天皇は江戸時代の第117代の後桜町天皇(同1762年~1770年)。異母弟で先帝の桃園天皇が22歳の若さで崩御し、その皇子たちが5歳と3歳で幼かったため中継ぎとして23歳で即位した。
大切なことは、いずれの女性天皇も、皇統を中断させないための中継ぎとして登場し、後の皇位を例外なく男系の男性天皇に引き継いでいることだ。
一方、女系(天皇)とは、男系と違って「母方から皇室の血統を受け継ぐ」という血筋を区別した言葉であって、女性天皇とは概念自体が異なっている。世論調査などで「女性天皇に賛成か反対か」と問われた際に、どれだけの国民が女性天皇と女系天皇の違いを区別して答えているかは甚だ疑問である。
このように女性天皇は存在したが、皇位が女系の天皇に移ったことは一度もなかったのだが、識者の中には、古代には女系による皇位継承が法的に認められていたとする説を主張する者がいる。
根拠としているのは、第46代孝謙天皇(女性天皇)時代の西暦757年に施行された「養老律令」の中にある「継嗣令」の条文で、「天皇の兄弟、皇子は、みな親王となす」との規定の注記に「女帝の子もまた同じ」とあるからだと言う。
しかし、継嗣令では女性皇族は男性皇族と結婚する義務があり、女性天皇も例外ではなかった。だから、女帝に子が生まれても男系の血を引いているため、仮にその子が即位しても女系とはならない仕組みになっていた。
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