(この記事は2020.11.26に掲載されたものの再掲です。)
まさか、こんなことが起きるとは……。まさか、こんな生活が日常になるとは……。思いも寄らぬ「まさか」に次々襲われると、これからどうなるのか? もう日本はダメなのでは? と悲観論ばかりが頭を占めてしまうもの。しかしそんな時こそ、あふれる情報に振り回されず、自分の頭で考え、悔いのない選択をしたい――そのための強力な武器になる一冊、出口治明さんの『自分の頭で考える日本の論点』から、道行く杖となる基本の視点をご紹介します。
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現代人は、さまざまな問題がからみあう複雑な社会で暮らしています。よりよい社会を築くためには、次々と浮上する課題を解決していかなければなりません。しかし、多くの問題は、多数の利害関係者の間で、また専門家の間でも意見が分かれ、なかなか一致点を見出せません。
マスメディアやSNSなどで飛び交う議論を見ていると、いったい何が正しいのか、考えれば考えるほどわからなくなる人も多いことでしょう。人はどうしても、声の大きい人の意見や、挑発的な意見、面白い意見、感情に訴えるわかりやすい意見などに飛びつきがちです。
そういった意見に引きずられず、正しい判断をくだせるようになるには、どうしたらいいのでしょうか。
物事を考えるとき、僕がいつも大切にしているのは、「タテ・ヨコ・算数」の3つです。
タテ、すなわち昔の歴史を知り、ヨコ、すなわち世界がどうなっているかを知り、それを算数すなわち数字・ファクト(事実)・ロジック(論理)で裏づけていく。そうすることで、メディアやSNSを追いかけているだけではわからないことが見えてきます。日頃からそのような訓練を積み重ねることが、想定外のことが起きたときに生き残る力につながります。
たとえば1年前には、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが起きて、世界中が大混乱に陥ると想像した人は誰もいませんでした。そして起きた事態が深刻なときほど、デマや暴論も大量に発生します。今回のパンデミックでもまさに、「インフォデミック」(主にネット上で噂やデマも含めた大量の情報が氾濫し、現実社会に影響を及ぼす現象)と呼ばれる事態になりました。
そのようなときこそ冷静になり、あふれかえる議論の中で、何が真っ当なのかを見分けて判断することが必要になります。「タテ・ヨコ・算数」で考えて、コロナ禍をめぐって起きたさまざまな問題への理解が深まれば、人間はコロナ禍という不幸な経験を通じて賢くなることができます。
もちろん、正解が1つとはかぎらない問題もたくさんあります。また、時間軸を変えるだけで、短期的には正しい政策が中長期的には間違っていたりすることもよくあるのです。
そのような場合でも、腹落ちするまで自分の頭で考え、自分なりの答えを選んでいくことで、人生は悔いのない、より楽しいものになります。そして、そのようなひとりひとりの営みの集積が、社会全体をよい方向に動かしていきます。
本書では、いまの日本や世界が直面している問題のなかから、人々の間で意見が分かれている「論点」を22個選び、問題の背景やどのような意見があるかなど、基礎知識的なことを解説したうえで、僕自身はどう考えるのかというジャッジを述べています。
ジャッジのなかには、世界標準で考えてこれが正解だと思うものもあれば、僕なりの価値観や人生観に基づいた主観的なものもあります。これは、いってみれば僕の「ファクトフルネス」です。
読者の皆さんには、僕の考えに縛られるのではなく、僕がどのようにしてその答えに至ったのかという思考のプロセスをまず共有していただきたい。そのうえで、僕のジャッジに納得するかしないか、しないとすれば、自分はどう考えるのか。読みながら一緒に考え、ぜひ、皆さんなりのジャッジを導き出してほしいと思います。本書を通して、皆さんが、物事を深く多面的に捉えて、自分の頭で、自分の言葉で考えて答えを出す力を身につけるお役に立てれば、こんなに嬉しいことはありません。
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自分の頭で考える日本の論点
玉石混淆の情報があふれ、専門家の間でも意見が分かれる問題ばかりの現代社会。これらを自分で判断し、悔いのない選択ができるようになるには、どうしたらいいのか。ベンチャー企業の創業者であり大学学長、そして無類の読書家である著者が、私たちが直面する重要な22の論点を解説しながら、自分はどう判断するかの思考プロセスを開陳。先の見えない時代を生きるのに役立つ知識が身につき、本物の思考力も鍛えられる、一石二鳥の書。