欧米や他のアジア諸国と比較して、日本のデジタル分野での遅れは深刻です。さらにコロナ禍でその差は広がり、もはや日本は技術後進国だという声まで聞こえるようになりました。『シリコンバレーの一流投資家が教える 世界標準のテクノロジー教養』(山本康正著、幻冬舎)ではこの現状に警鐘を鳴らしつつも、そんな未曽有の危機が日本企業にとってチャンスにも転じることを説いています。このデジタル時代を生き抜く人材になるための方策を収録した、本作の一部を紹介します。
* * *
感染症対策としての自動化
今回はアメリカなどでもまだまだ先端分野といえる領域について紹介したいと思います。
ロボティクスは、日本語に訳すと「ロボット工学」です。辞書では「制御工学を中心に、センサー技術・機械機構学などを総合して、ロボットの設計・製作および運転に関する研究を行う」(デジタル大辞泉)とまとめられています。そして、こうした学問をビジネスに応用することを指す言葉としても我々は認知しています。
Q・モティワラ氏は、これらの技術にもビジネスにも精通する私のビジネスパートナーです。彼はロボティクス関連の企業への投資に強みを持つだけでなく、クアルコムで日韓の3G技術の導入に携わるなど、世界最先端の工学の一端を担ってきました。
コロナの影響でアメリカは大きく変化しました。そして他国と比べても被害が甚大なため、人から人への感染を防ぎたいというニーズは日本よりも深刻でしょう。
そこで登場するのがロボティクスです。人が集まらないようにしたり、人が触らないようにしたりするための技術的解決策が強く求められた結果だといえます。自宅や病院に留まらず、空港やショッピングモールといった場所も変化が求められました。これらの場所に共通することは、すべて生活において必要な空間だということです。
「元々、病院で医師や看護師が不足している問題もあり、何らかの自動化が必要だというニーズはありました。この点は製造業や流通業なども同様です。そのため、人員だけに頼るのは得策ではなく、人の手による作業は削減が必要だと考えられてきました。そこへコロナがやってきた結果、あらゆるものにできるだけ人が触れないようにすることまで求められます。少しでも人手に頼ることは抑えたい。コロナ対策と、人員不足の二重攻撃です。その両方が引き金となって、ロボティクスの活用事例が急速に増えています」(モティワラ氏)
人手を介さず、自動化を進めるということは、あたりまえですが生産性向上につながります。しかし、コロナ前は、投資対効果を立証するのが困難だったと同氏はいいます。
たとえばヘルスケアの場合では、人件費よりもロボットのコストのほうが高いと考えられていたので、わざわざ費用をかけようという発想は生まれません。しかしコロナ禍によりヘルスケア従事者の命が危険にさらされることになると、危険と隣り合わせの環境に身を置いているのに安い報酬で働きたくないと考える人が急増しました。結果として人の代わりに、使えるところではロボットを使おうということになり、ヘルスケアにおけるロボティクスが一気に進展することになったのです。
労働人口の減少を救うロボット
ロボティクスの専門家であるモティワラ氏によれば、実際に何かのロボット自動化作業を実用させたいと考えた場合、六カ月間のデータを取得して効果測定をすることが一般的なのだといいます。いわゆるパイロットプロジェクトです。その効果測定の中には、人間とそのロボットがどのタスクで協力すべきか、そしてロボットが行うどのタスクに人間の管理が必要となるかを評価することも含まれます。
先ほどモティワラ氏が挙げた、病院・ショッピングモール・空港・製造業といった場所や業界においては、コロナ以降でロボティクス関連のパイロットプロジェクトの実施が容易になりました。効果測定に必要な六カ月間に及ぶデータ取得の機会が広くなったのです。したがって二〇二一年には、こうした効果測定を終えた技術が続々と実社会に登場することになるでしょう、と同氏は予見します。この傾向はアメリカだけでなく、日本やドイツなどでも同様です。
ここまではコロナによる影響ですが、前述したようにロボティクスのニーズは以前からありました。少子高齢化、そして労働力人口上における熟練度の減少という深刻な問題があるためです。
熟練労働人口が今後も減少していくことが予想される、ということは日本に限らず欧米諸国でも共通の課題なのです。そのため、今後十年から二十年といった長い目で見ても、ロボティクスの浸透は不可避です。
「私たちロボティクス関係者も、さらなる自動化を進めるつもりです」とモティワラ氏が話す所以です。
シリコンバレーの一流投資家が教える 世界標準のテクノロジー教養
2021年を逃せば、日本企業は百年に一度のチャンスを失う。ハーバード大学院理学修士、元米グーグル、元米金融機関勤務、現ベンチャー投資家の著者が、世界で活躍する8人の知見を紹介し、日本の執るべきビジネス戦略を探る。