乃木坂46イチの才女、山崎怜奈さんのはじめての本『歴史のじかん』。
専門家の先生方と山崎さんの座談形式で、全14個の歴史テーマを語り尽くした書籍です。
今作は、歴史のテーマをお題に、山崎さんの心のうちを綴ったコラムも、大変話題! 14個のテーマから3つのコラムを厳選し、試し読みをお届けいたします。
1つ目のテーマは、「千利休×センス」です。
(千利休について学んだ、先生方との授業パートはこちら)
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千利休×センス
「センス」ほど、曖昧な評価はないと思います。数値化する方法がないし、極めて抽象的なのに、確実に存在しますよね。
世の中には、たしかに「センスがいい」と称えられる天才がたくさんいます。葛飾北斎の浮世絵、宮崎駿さんのスタジオジブリ作品、小室哲哉さんのTKサウンドなどが放つ「いくら頑張っても勝てない」と人々を圧倒させる魅力は、平凡な若者である私にも分かります。その卓越したセンスに憧憬するあまり、絶望する人がたくさんいることにも、薄々気付いています。千利休も、まごうことなく「センスの持ち主」側の人間。でも、センスの良し悪しは何によって決まるのでしょうか。
……ということで、センスの構成要素を自分なりに分析してみました。千利休を「センスがいい人」代表として例に挙げつつ、ご報告させていただきます。
【センス 材料一覧(山崎調べ)】
一. 自分の理念や哲学を伝えることができる
二. 時代性を纏っている
三. 語らせる「余白」を残している
まず、自分の理念や哲学を持っている人は、思想や言動も一貫すると思いました。利休の場合は、人の心や命を金で操るのではなく、お茶でもてなす中で、礼を尽くし、相手の懐に入る。彼が究めた茶道は、禅の精神を落とし込んだ総合芸術でありながら、ビジネスツールであり、商人としての生き方そのものだったようにも感じます。
その真骨頂は、自分が商人兼茶人として生きやすいシステムをプロデュースしたことにあって、二つの顔を併せ持った真の芸術家と言えるでしょう。
とはいえ、センスが他者評価である以上、他人に伝えることを怠っているのに「センスがいい」とはならないはず。その人からにじみ出る理念を第三者が感じ取ったき、その称号を得られるのだと思います。
ただ、早いうちから自分で「こういうスタイルでいくぞ」と頑なに決めつけるのは、危なっかしいような気がします。自分が良いと思うことや、それまで培ってきた情報や知識は、必ずしもみんなが共有しているものではなく、自分にとっての「当たり前」も、他人からしてみれば「当たり前」ではありません。私たちは、思っていたよりも独りよがりになりやすいと思います。
自分だけの文脈を押しつけるより、なるべく相手目線で届けようとしたほうが、のちに訂正や補足が少なくてすみます。何事も、他者への配慮なくして損するのは自分です。
だからこそ、時代性を纏っていないものが大衆的な熱狂を生むのは難しいと思います。特に現代は生活が多様化していて、みんなが同じことを同時にしている瞬間がほとんどありません。人々の嗜好や価値観もバラバラの「マスが存在しない時代」に、全員に刺さるコンテンツを狙って作るのは難しい。
さらに、これだけコンテンツが溢れていると、何を選んだらいいのか分からない人もいます。そこで参考にされるのは、身近にいる“ちょっと詳しい人”のオススメ。「あれ良かったよ」なんて言われたら、ちょっと気になってしまいませんか? もしくは、世間でヒットしているものも道標になりますよね。ツイッターのトレンドが目に留まって、「これ何だろう?」と追ってしまう感覚と言えば、伝わりやすいでしょうか。
どんなヒット作も、その源となるのは“少数のファンによる熱狂的なエネルギー”です。ありったけの愛を持った少数精鋭のサポーターが大衆を先導した結果、ヒット作が生まれる。この現象は作品だけではなく、人物や食べものなどにも起こっている気がします。
いつの時代も、きっと、一人に刺されば百人に刺さります。どんなにおかしな意見でも、同じようなことを思っている人は絶対にいます。その繰り返しによって、次第に熱狂が起こる規模が大きくなる。「人の共感」を中心に動いていくこれからの時代に、求められる価値観だと思います。
利休も、武将たちの生きる環境や対立構造を機敏に察知していたはずで、実際にそう推測できる行動もとっています。そもそも、常に誰かに見張られていた彼らに「密談の場」あるいは「心を鎮める場」として茶室を提供したことにも、勘の鋭さが表れていますよね。そこで彼らのハートを鷲掴みにしてしまえば、利休が必死に広めようとしなくてもさまざまな形で彼の名前と「茶の湯」が伝播していくという魂胆もあったはず。
さらに、狭いところに投下された熱い火種を延焼させるためには、「人々に語らせる余白」が欠かせないでしょう。良くも悪くも、何か言いたくなる余白は人々の想像を掻き立てます。利休も、人々に余白を残したまま死んでいったからこそ、当時は「呪い」だなんてひどい言われようをされたり、逆に彼を信じて疑わない人からは擁護する声も上がったのでしょう。
彼自身の核となる理念や哲学を火種に、ターゲットを決めて点火し、延焼させる余白をあえて設定した。それらは全て一本の筋が通っていなかったら成し得ないブランディングで、後天的に身につけたものであると推測します。要は、天才というより秀才です。
私は、利休が切腹で終わるような器の人間ではないことを、彼自身が悟っていたように感じました。死後に茶室から武器が発見されたように、生きているうちにいろいろな伏線を張っていたはず。もしかしたらまだ見つかっていない仕掛けもあるかもしれないし、全てを暴くことは誰にもできないのかもしれません。
彼を知れば知るほど、確固たる理念や哲学がはっきりと浮かび上がってくる……と思わせておきながら、実は雲のように捉えようがなく、掴めない人、という印象を受けました。得体の知れない不気味な存在感が、人としての圧倒的な魅力に深みを増して、「センス」として黒光りしている。その残像を、私たちは追いかけたくなってしまう。彼が遺のこした「語らせる余白」が人々を惑わせて、結局いつまでも彼の手のひらで転がされたまま、私たちはまんまと術中にはまっていくのかもしれません。
歴史のじかん
2021年2月10日発売、乃木坂46山崎怜奈さんの初めての書籍『歴史のじかん』に関する情報をご紹介します。
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