福島原発も全国の原発の問題も、もう先延ばししない――。急成長する再エネの今を追いながら、原発全廃炉への道筋をまとめた『原発事故10年目の真実 〜始動した再エネ水素社会』(菅直人著、2/25発売)。日本のエネルギー問題の全貌と、未来への希望が見える本書から、試し読みをお届けします。
福島第一原発事故から10年が過ぎ、原発の再稼働のニュースがたびたび流れるので、再稼働する原発が次第に増えていると誤解している人が多くなっているようだが、真実はそうではない。
考えてみてほしい。もともと原発は毎年定期検査のため、年一回は停止していた。福島原発事故直前の時点で日本には54基の原発が存在し、停止と再稼働は日常的に繰り返されており、特段のニュースにもならなかった。しかし福島原発事故後、すべての原発はいったん運転停止し、その大半が停止したままだ。
そうした原発がたまに再稼働されると珍しいのでニュースになる。そのために次々と稼働する原発が増えているように錯覚をしている人が多いのだ。しかし真実はそうではない。この原稿を書いている2021年1月の時点でも日本で稼働している原発は4基にすぎない。
どうしてこうなったのか。それは私が総理在任中、原発の再稼働に対し安全性を重視する厳しい姿勢で臨み、原発の再稼働の認可条件が厳しくなったためだ。
福島原発事故の2011年3月以降、地震、津波の影響や定期検査のために原発は次々と停止していった。最後まで稼働を続けていたのは北海道の泊(とまり)原発3号機だった。それが2012年5月5日に定期検査のために停止し、その時点で日本国内には稼働している原発はなくなった。つまり原発稼働ゼロが実現したのだ。
首相官邸前で「再稼働反対」のデモが盛んになり始めたのはこの頃、つまり泊(とまり)原発が停止した頃からだった。夏に向かって関西電力は大飯(おおい)原発の再稼働が必要だと主張。それに反対する市民が毎週のように官邸前に集まり始めたのだ。
結局、野田政権は大飯原発3号機と4号機の再稼働を認め、7月に運転再開したので、最初の「原発稼働ゼロ」は2か月ほどだった。
しかし安倍政権になってからの2013年9月に、大飯原発の2基は定期検査のため止まり、その時点では他にはどこも再稼働できていなかったので、再び「原発ゼロ」となった。この二度目の「ゼロ」は、2015年8月に川内(せんだい)原発1号機が再稼働するまで約2年続いた。
こうして発電総量に占める原発の割合は、福島原発事故が起きる前の2000年には34パーセントもの比率であったが(この年が最も原発比率が高かった)、2014年には年間を通じてもゼロとなり、その後も再稼働された原発があっても、発電比率は3パーセント前後で推移している。つまりほぼゼロに近い水準に留まっているのだ。
これに対して再生可能エネルギーによる発電電力量は約20パーセントまで伸びている。
原発ゼロが進んだのは福島原発事故発生後、私が取り組んだ原発規制機関改革がかなりのスピードで進んだことによるところが大きい。
原発事故10年目の真実 ~始動した再エネ水素社会
原発ゼロは達成できる——その論拠、全廃炉へのすべて。3.11で総理大臣だった著者がこの10年でしてきたこと、わかったこととは。事故後、新エネルギーへの道を切り開いた重要な3つの政策から、急成長する再エネの今、脱炭素の裏にある再稼働の動き、全廃炉へ向けた問題と解決の全貌がわかる。