福島原発も全国の原発の問題も、もう先延ばししない――。急成長する再エネの今を追いながら、原発全廃炉への道筋をまとめた『原発事故10年目の真実 〜始動した再エネ水素社会』(菅直人著、2/25発売)。日本のエネルギー問題の全貌と、未来への希望が見える本書から、試し読みをお届けします。
5月末、私は二つの政治勢力から退陣を迫られていた。ひとつは東電と手を組んだ安倍晋三元総理に引っ張られた自民党。もうひとつは小沢一郎氏を中心とする民主党内の造反グループだ。小沢氏は、自民党が内閣不信任決議案を出せば小沢グループ全体で賛成に回ると自民党幹部に伝えていた。自民党が敵対するのは分かっていたが、まさか党内から、つまり背後から撃たれるとは思わなかった。
5月24日から29日まで、私はサミットに出席するためフランスに行っていた。
携帯電話で瞬時に日本につながる時代だったとはいえ、ヨーロッパという距離的に離れたところにいると、永田町の空気までは伝わらない。帰国すると、内閣は最大の危機を迎えていた。
6月1日、自民党は内閣不信任決議案を提出した。
民主党内でも小沢氏に同調して不信任決議案に賛成する勢力が多くなっていたが、前総理の鳩山由紀夫氏は民主党を分裂させたくないとの思いから、私に自主的に退陣してくれと言ってきた。採決当日の2日朝、鳩山由紀夫氏と面談し、「震災への取り組みに一定の目処がつき、私がやるべき一定の役割が果たせた段階で、若い世代に責任を引き継いでもらいたい」と述べ、不信任決議案に反対するよう協力を求めた。
何月何日までに辞めると明言しなかったことで、若干の行き違いは生じたが、不信任決議案は否決され、内閣は続くことになった。小沢一郎氏は本会議を欠席した。
脱原発宣言
いつまで総理を続けるかは具体的には考えていなかったが、原発ゼロに向けての目処を立てたいとの思いは持っていた。
7月13日の記者会見で、私は原発、エネルギー政策についてこう述べた。
「原子力事故のリスクの大きさということを考えたときに、これまで考えていた安全確保という考え方だけではもはや律することができない。そうした技術であるということを痛感をいたしました。
そういった中で、私としてはこれからの日本の原子力政策として、原発に依存しない社会を目指すべきと考えるに至りました。
つまり計画的、段階的に原発依存度を下げ、将来は原発がなくてもきちんとやっていける社会を実現していく。
これがこれから我が国が目指すべき方向だと、このように考えるに至りました」
これが「脱原発宣言」と呼ばれるものだ。
原発事故10年目の真実 ~始動した再エネ水素社会
原発ゼロは達成できる——その論拠、全廃炉へのすべて。3.11で総理大臣だった著者がこの10年でしてきたこと、わかったこととは。事故後、新エネルギーへの道を切り開いた重要な3つの政策から、急成長する再エネの今、脱炭素の裏にある再稼働の動き、全廃炉へ向けた問題と解決の全貌がわかる。