いまも続く福島と日本各地の原発問題。急成長する再エネの現状を追いながら、原発全廃炉への道筋とその全貌をまとめた『原発事故10年目の真実 〜始動した再エネ水素社会』(菅直人著)から、試し読みをお届けします。
2011年の夏が近づくと、この夏は原発なしでは乗り越えられないという議論が出された。たしかに夏はエアコンを使うので家庭やオフィス、工場などでの電力需要が高まる。定期検査で運転停止している原発も、安全が確認できれば再稼働すべきだとの声が出ていた。
経産省が再稼働を狙っているのは明白だった。具体的には、九州電力の玄海(げんかい)原発を再稼働しようとしていた。私は海江田大臣に「玄海原発の再稼働は認めない」と伝えた。海江田大臣は、玄海原発は事故を起こしたわけではないので、法律上は原子力安全・保安院が定期検査で安全だと認めれば再稼働できるという趣旨のことを言った。
いまさら何を言うんだ、という話である。福島第一原発の事故で保安院は何も機能しなかった。その保安院が再稼働を決めるなど、国民が納得しない。私は「保安院の言うことなんか、誰も信用しない」と海江田大臣に伝えた。
翌日だったか、改めて「再稼働にあたっては原子力安全委員会の意見も聞きたいし、ストレステストが必要だと思う」と述べた。ストレステストとは、EUで行なわれていたもので、原発の耐性を調べるものだ。海江田大臣は、「ストレステストは動かしながら行なうものだ」と反対していたが、その場では結論は出なかった。
原発再稼働について海江田大臣、細野豪志原発担当大臣、枝野幸男官房長官と協議し、「原子力安全委員会が関与することと、ストレステストを行なうことにする」と決め、7月6日の衆議院予算委員会では「再稼働は、ストレステストを含め、国民が納得できる検討の場が必要だ。その検討の場のルール作りを海江田経産大臣に指示している」と述べた。
海江田大臣は従来、「国が責任を持って原発の安全性が確保されたら再稼働する」と答弁していたので、「閣内不一致」だと批判する報道もあったが、矛盾はしていない。私は「国が責任を持って原発の安全性を確認」するための新しいルールを作ろうと言ったのだ。いままでの保安院の検査だけで安全性が確認できるとは、内閣の長として、とても言えない。
同日の衆議院予算委員会では、玄海原発再稼働にあたっての佐賀県民向けの説明会に際し、九州電力が関連会社の社員に再稼働を支持する内容のメールを送るよう指示していたことが、共産党の笠井亮議員によって明らかにされた。「やらせメール」事件である。
ストレステスト以前の問題だ。福島の事故から4か月弱しか経っていないのに、原子力ムラが何の反省もしていないことは明白だった。さらに報道によれば、過去の説明会・公聴会でも同様の「やらせ」があり、それは保安院も知っていた、いや関係していたともいう。
玄海原発再稼働は、いったん潰(つい)えた。
原発事故10年目の真実 ~始動した再エネ水素社会
原発ゼロは達成できる——その論拠、全廃炉へのすべて。3.11で総理大臣だった著者がこの10年でしてきたこと、わかったこととは。事故後、新エネルギーへの道を切り開いた重要な3つの政策から、急成長する再エネの今、脱炭素の裏にある再稼働の動き、全廃炉へ向けた問題と解決の全貌がわかる。