いまも続く福島と日本各地の原発問題。急成長する再エネの現状を追いながら、原発全廃炉への道筋とその全貌をまとめた『原発事故10年目の真実 〜始動した再エネ水素社会』(菅直人著)から、試し読みをお届けします。
原発再稼働を認める気はなかったが、独裁国家ではないので、総理が「認めない」と言って、それで決まるわけではない。原発が存在するのも紛れもない現実だった。玄海原発は「やらせメール」事件という九州電力の致命的な失策で当面の再稼働は不可能となったが、いずれはその動きが再開するはずだった。
原発がある以上、原発再稼働の新たなルールが必要だった。それは厳格でなければならない。
7月11日、政府としての方針を発表した。「EUで実施されているストレステストを参考にして新たな手続きとルールに基づく安全評価を実施し、それは保安院だけでなく原子力安全委員会も確認すること」である。さらに稼働中のものを含めたすべての原発に対し、総合的な安全評価の実施も決めた。
保安院は法律上はまだ残っていたが、廃止される方向が決まっていたので、なくなると分かっている組織の認可だけで原発を動かすのは、法律上は可能だとしても、国民の理解は得られまい。そこで、再稼働にあたっては、保安院と原子力安全委員会による確認の後、内閣として、総理、官房長官、経産大臣、原発担当大臣の4大臣で協議して決めることにした。
これは法律には基づいていない。暫定的なルールとして政治的に決めたものだ。従来の法律でも、保安院が再稼働を認めたとしても、形式的には経産大臣が認可することになっているので、経産大臣がストップをかけることはできた。だが、玄海原発での海江田大臣の動きを見ていると、危ないなと思ったので、経産大臣だけでなく、官房長官、原発担当大臣、そして総理である私の4人で決めることにしたのだ。
原発事故10年目の真実 ~始動した再エネ水素社会
原発ゼロは達成できる——その論拠、全廃炉へのすべて。3.11で総理大臣だった著者がこの10年でしてきたこと、わかったこととは。事故後、新エネルギーへの道を切り開いた重要な3つの政策から、急成長する再エネの今、脱炭素の裏にある再稼働の動き、全廃炉へ向けた問題と解決の全貌がわかる。