いまも続く福島と日本各地の原発問題。急成長する再エネの現状を追いながら、原発全廃炉への道筋とその全貌をまとめた『原発事故10年目の真実 〜始動した再エネ水素社会』(菅直人著)から、試し読みをお届けします。
原子力規制委員会が作った新基準をクリアするには高い堤防の建設など膨大なコストがかかるので、廃炉を決めた原発も多い。
これまでに、福島第一原発の1号機から6号機のほか、福島第二原発の1号機から4号機、東北電力の女川(おながわ)の1号機、日本原子力発電の東海(とうかい)と敦賀(つるが)の1号機、中部電力の浜岡(はまおか)の1号機と2号機、関西電力の美浜(みはま)の1号機と2号機、大飯(おおい)の1号機と2号機、中国電力の島根(しまね)の1号機、四国電力の伊方(いかた)の1号機と2号機、九州電力の玄海(げんかい)の1号機と2号機、合計24の原発の廃炉が決まっている。
これら老朽原発は福島の事故がなかったら、運転を続けていたのである。
私としては、民主党が政権にある間に、後戻りできないところまで法整備をしておきたかったが、中途半端な状態で、政権を自民党に渡してしまったのは残念だ。
しかし、「原発ゼロ」を柱とするエネルギー基本計画は策定されなかったが、現実は、ゼロへ向かっている。
原発を1基造るには立地自治体を決めて説得して、莫大な建設費用と年月をかけなければならないが、原発ゼロは、決めればいいだけだ。
実は、最も消極的な方法ではあるが、自民党も賛成して、「原発は運転開始から40年が過ぎたら運転を停止し廃炉にする」法律が制定されている。野田政権時代の2012年6月に改正された「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」で、原発の運転期間は40年と定められた。しかし例外として20年を超えない期間の延長も認められた。
そのため、運転開始から40年を過ぎた「老朽原発」の再稼働の動きが本格化しており、2020年11月には福井県にある関西電力の高浜(たかはま)原発1号機(運転開始から46年)、2号機(同45年)の再稼働の手続きに入り、原子力規制委員会は、新規制基準を満たしていると了承している。
今後も老朽原発を運転させよという動きは出てくると予想されるが、これは裏を返せば、新設・増設が事実上不可能になっていることを示している。だからこそ、老朽原発が危険と分かっていて、動かそうとしているのだ。
老朽原発の再稼働は安全の面からも認めるべきではないが、原子力ムラが、そこまで追い込まれているとも言える。
たとえば、高浜の1号機の営業運転開始は1974年11月なので、20年の延長が認められたとしても、2034年には停止しなければならない。
最も新しい原発は、北海道電力の泊原発3号機で、2009年に運転開始しているから、2049年までの寿命だ。
遅すぎるが、この法律が改正されない限り、最長でも2049年までに、何もしなくても原発はゼロになるのだ。
それが分かっているので、自民党の中には「40年ルール」について、「運転している期間だけを数えるべき」とか「40年には科学的根拠がない」と言って、見直しを求める声もある。だが、これは法律として決めたルールなので、変えるには法改正をしなければならず、自民党が国会で過半数を得ているとはいえ、困難だろう。
原発事故10年目の真実 ~始動した再エネ水素社会
原発ゼロは達成できる——その論拠、全廃炉へのすべて。3.11で総理大臣だった著者がこの10年でしてきたこと、わかったこととは。事故後、新エネルギーへの道を切り開いた重要な3つの政策から、急成長する再エネの今、脱炭素の裏にある再稼働の動き、全廃炉へ向けた問題と解決の全貌がわかる。