いまも続く福島と日本各地の原発問題。急成長する再エネの現状を追いながら、原発全廃炉への道筋とその全貌をまとめた『原発事故10年目の真実 〜始動した再エネ水素社会』(菅直人著)から、試し読みをお届けします。
原発事故が起きるとしたら、大地震などの天災、人為的なミス、そしてもうひとつの原因がテロだ。再稼働にあたっての審査は、地震や津波に耐えられるかどうかが中心だが、それとは別に、テロ対策として「特重施設(特定重大事故等対処施設)」の設置も求めている。
この場合のテロは、アメリカ同時多発テロのように大型飛行機が原子炉に突っ込むようなことを想定している。ミサイル攻撃についてはテロというより「戦争」であり、その対策は防衛省がどう立てているのか、明らかになっていない。たしかに国防上の機密なのだろう。
原発のテロ対策も、飛行機が突っ込んでくるからと、迎撃ミサイルを設置するわけではなく、テロそのものを防ぐというよりも、テロにあい、原子炉建屋が破壊された場合などにどうするかという観点でのものだ。ミサイルは分からないが、飛行機が突っ込んだくらいでは、建屋は突き抜けても、圧力容器を破壊することはできないと考えられる。
だが、いずれにしろ、3・11のときのように、瓦礫の山となり、配線が寸断されるなどして、コントロール不能に陥る可能性が高い。さらには、中央制御室が機能しなくなる可能性もある。
そこで原子炉から100メートル以上離れた場所に、特重施設を作らなければならない。バックアップの施設である。
この施設には原子炉圧力容器や原子炉格納容器の減圧・注水機能を有する設備、これらを操作する緊急時制御室等を設置しなければならず、さらに頑健な建物でなければならない。そのため、数千億円かかる。
原子力規制委員会としては、特重施設がないと再稼働は認めない方針だったが、時間と経費がかかるので、すぐには無理だということから、5年間の猶予期間を与えることになった。
特重施設が完成したのが、九州電力川内(せんだい)原発1号機で、2020年11月に運用開始した。1号機と2号機合わせて2000億円以上かかったという。
原発事故10年目の真実 ~始動した再エネ水素社会
原発ゼロは達成できる——その論拠、全廃炉へのすべて。3.11で総理大臣だった著者がこの10年でしてきたこと、わかったこととは。事故後、新エネルギーへの道を切り開いた重要な3つの政策から、急成長する再エネの今、脱炭素の裏にある再稼働の動き、全廃炉へ向けた問題と解決の全貌がわかる。