いまも続く福島と日本各地の原発問題。急成長する再エネの現状を追いながら、原発全廃炉への道筋とその全貌をまとめた『原発事故10年目の真実 〜始動した再エネ水素社会』(菅直人著)から、試し読みをお届けします。
立地自治体の事情
原発立地自治体が、財政上の理由で原発の継続を求める事情も理解している。しかし、原発には未来がないことは明らかだ。
地方政界で中心にいる60代、70代が生きている間は原発からの固定資産税や電源三法(後述)による補助金や交付金でやっていけるかもしれないが、その先をどうするのか。
全原発の廃止を即時決定し、立地自治体に十分な手当をし、廃炉にしていくべきなのである。ゼロにすると決めれば、立地自治体としても次の振興策を考えるであろう。原発に希望があると思っている限り、自治体も前へ進めない。
原発ゼロを、自民党と経産省、電力会社が認めないことで弊害が出ている
民主党政権が作った国の革新的エネルギー・環境戦略で最長2039年まで、40年ルールの法律でも2049年までという原発ゼロの時限装置はできていた。
さらに、それぞれの原発の再稼働がしにくいよう審査基準も厳格にしたので、再稼働は困難だ。テロ対策の特重施設には数千億円が必要で、採算が合うのか疑問視されている。
各地で原発の運転停止を求める裁判が起こされ、電力会社が敗訴している。
新規着工の計画はまだ残っているが、進展はしていない。
2013年から2015年までの約2年間、現実にすべての原発が止まり、原発ゼロが実現した。その結果、電力が足りなくなり大混乱に陥ることもなく、原発ゼロが夢物語ではないことが実証された。
原発メーカーの東芝、日立は原発事業から撤退しており、残る三菱重工も海外セールスがうまくいっていない。今後、原発を建てようにもメーカーが事実上ないのだ。
立地自治体が再稼働を求めているのは財政のためで、代替の財源があればいい。
放射性廃棄物の最終処分地を決めるためにも、原発ゼロを決めたほうがいい。
このように原発ゼロの結論が出ているのに、経産省・電力会社、そして自民党が認めようとしていないだけなのだ。
政府として原発ゼロを決めないがために、日本は再生可能エネルギーの分野で技術的に他国に後おくれをとるなど、さまざまな弊害が生じているので、これをどうにかしたい。
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原発事故10年目の真実 ~始動した再エネ水素社会
原発ゼロは達成できる——その論拠、全廃炉へのすべて。3.11で総理大臣だった著者がこの10年でしてきたこと、わかったこととは。事故後、新エネルギーへの道を切り開いた重要な3つの政策から、急成長する再エネの今、脱炭素の裏にある再稼働の動き、全廃炉へ向けた問題と解決の全貌がわかる。