「感情の動物」と呼ばれる私たち。喜びや楽しみがあるからこそ、人生は豊かになります。ところが怒りや不安といったネガティブな感情や、自分でも気づかない服従、同調、損失回避といった感情のせいで、どんなに知的な人でも「バカな判断」をすることがあります。そんな「感情バカ」のメカニズムを解き明かし、バカにならないコツを教えてくれるのが、精神科医・和田秀樹さんの『感情バカ』です。その中でも、私たちがとくに陥りやすい感情をご紹介しましょう。
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素敵なパートナーと出会うには
劣等感情は、恋愛関係にも良くない影響を及ぼします。男女を問わず、厭世的になって人生をあきらめてしまっている人は、本当は彼氏や彼女が欲しいと思っていても、そもそも厭世的であるために、出会いが生じません。そのため、たとえ容姿が人並み以上でも、さらにモテなくなるという悪循環に陥ります。
イケメンの芸能人並みにハンサムだったり、美貌の女優ほどに美女だったりすれば、スカウトマンは声をかけてくるかもしれません。ですが、いきなり「私と付き合ってください」と近づいてくる一般の人は、おそらくいないでしょう。
もっとも軟派なタイプはどこにでもいますから、軽々しくアプローチをしてくる人もいるかもしれません。
ですが、そもそも論として、「どうせ私なんか」「オレなんて」といった否定的な感情を持っている人は、たとえ声をかけられたとしても、「いや、どうせ自分をだまそうとしているんだ」などと受け止めて、「話ぐらいは聞いてみようか」という気にすら、ならないでしょう。
要するに、世の中に否定的な感情を持っている人は、異性と付き合いたいという欲求を持ったとしても、異性と付き合うチャンスを失っています。それは、たぐいまれな美貌や高い能力を持っていても同じです。
逆に、劣等感情やあきらめの感情が少ない人は、ルックスに問題があったり、いろいろな面でマイナス要素が多かったりしても、私の知るかぎり、ほとんどの人がそれなりにパートナーを見つけています。自分で自分にブレーキをかけず、積極的に出会いの場を求めるからです。
劣等感情の強い「中年童貞」
この問題に関連して、読んだときには特定の人たちをバカにしている気がしてあまりいい気持ちがしなかったものの、ある意味、当たっているなと思った本があります。
中村淳彦氏の『ルポ 中年童貞』という本です。その中で著者は、異性体験のない中年男性の、過剰に高いプライドを持ちながら、「自分はモテない人間だ」という自己規定があるために、ハナから異性と付き合うチャンスをつくらず、話しかけたりもしない姿を、リアルに描いています。
このような男性は、「どうせオレはモテないんだから、嫌われてもいい」「オレをバカにしているんだろう」などと思うのか、同じ職場にいる、男性からチヤホヤされるような若くてきれいな女性を、男をバカにしている存在と見て、いじめてしまうこともあると書かれています。
さらには、女性(特に処女でない女性)を汚らわしいものと見たり、自分の正義感に過剰な自信を持つためにネトウヨのようになったりする人も多いとのことです。
この本で著者は、そのような中年男性は、ある特定の職種に就いていることが多いという偏見めいたことを書いています。
そのため私は、あまりいい気分にならなかったわけですが、「どうせオレは」という劣等感情が、その人間のチャンスを奪ってしまうことは確かにあるし、いじめやネトウヨ、ヘイトスピーチといった攻撃的な方向に向かう点についても、通り魔事件の加藤智大死刑囚に通じるように思い、納得しました。
もちろん、劣等感情が、必ずしも攻撃的な方向に向かうとはかぎりません。ですが、劣等感情のために顔つきがすねたりふてくされたりした感じになることで、周囲から距離を置かれたり、疎まれたりすることは往々にしてあるでしょう。その点で、このタイプの人も、やはり感情的で、適応的ではないと言えるでしょう。
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この続きは幻冬舎新書『感情バカ』でお楽しみください。
感情バカ
「感情の動物」と呼ばれる私たち。喜びや楽しみがあるからこそ、人生は豊かになります。ところが怒りや不安といったネガティブな感情や、自分でも気づかない服従、同調、損失回避といった感情のせいで、どんなに知的な人でも「バカな判断」をすることがあります。そんな「感情バカ」のメカニズムを解き明かし、バカにならないコツを教えてくれるのが、精神科医・和田秀樹さんの『感情バカ』です。その中でも、私たちがとくに陥りやすい感情をご紹介しましょう。