1. Home
  2. 社会・教養
  3. 世にも美しき数学者たちの日常
  4. 凡人とあまりに違う、天才たちの日常――そ...

世にも美しき数学者たちの日常

2021.04.18 公開 ポスト

プロローグ

凡人とあまりに違う、天才たちの日常――そこは魔窟か?天国か?甘美で危険な迷宮探検!二宮敦人(小説家・ノンフィクション作家)

藝大に潜入したノンフィクション最後の秘境 東京藝大: 天才たちのカオスな日常がベストセラーとなった二宮敦人氏が、次に注目したのは数学者だった。

あまりに面白い!と話題になった世にも美しき数学者たちの日常がこの度文庫化された。

想像以上に天才的頭脳をもつ彼らの日常は、凡人と以下に違うのか?

会えば会うほど、話を聞けば聞くほど、その魅力にハマっていきます。

*   *   *

プロローグ

「私、数学科出身の方とお見合いしたことあるんですよ」

始まりは飲み会の席でぽろりと出た一言だった。

「どうだったんですか?」

僕は担当編集者の袖山さんに聞く。

「いやー……良い方、はい、良い方には間違いないんですが、話が……なんというか……盛り上がらなかったんです」

ベテラン編集者の彼女をもってしても盛り上がらないとは。

「どんな話題を振っても、話が止まっちゃうんですよ。途中からは、『そう』とか『ふうん』

くらいのやり取りしか記憶に残ってなくて……盛り上がるポイントが最後まで摑めませんでしたね」

たはあ、と袖山さんは額に手を当てて溜息をついた。

さぞかし気まずかったことだろう。おそらくは、お互いに。それにしても相手の頭の中には、どんなものが詰まっていたのだろうか。

数学者って、どんな人たちだろう。学者と言っても、昆虫学者や民俗学者とはまた違う。

彼らが探検しているのは、数字だけの世界。僕にとってはイメージすることすら難しい、抽象的な世界だ。

「数学って、美しいですよね」

月刊『小説幻冬』編集長の有馬さんは、焼酎を舐めながらふと、夢見るような瞳で言う。

「でも、どんな風に美しいのか、詳しいところがよくわからないんですよね。数式だけ見ても、ちんぷんかんぷんだし」

僕も頷く。

「数学者だけに見えている世界があるんじゃないでしょうか。ひょっとしたら、お見合いでもそれを聞き出せたら、楽しかったのかも」

僕は頭の中で数学者を思い描いてみた。最低限の家具だけが置かれた真っ白な部屋。安楽椅子を揺らしながら一人静かに思索にふける神経質そうな男。集中している。雑音は彼の耳には入らない。ふと何か空中に指で図形を描いたかと思うと、「わかった!」と叫んで立ち上がる。そして猛然と数式を紙に書きつけていく。そこには普通の人には理解さえできない、精緻で崇高ななにがしかの概念が完成している……。

もちろん勝手な想像に過ぎないわけだが、なんか、いいなあ。

今さら数学者になることはできない。だけど少しだけでいい、そのロマンに僕も触れることはできないだろうか。

そんな時袖山さんが言った。

「ちょっと、会いに行ってみましょうか」

かくして数学者のことを知る旅、袖山さんにとってはお見合いリベンジかもしれないが、

そういったものが幕を開けたのである。


*   *   *

ということで、次回から、いろんな数学者の日常を試し読みしてまいります。

関連書籍

二宮敦人『世にも美しき数学者たちの日常』

百年以上解かれていない難問に人生を捧げる。「写経」のかわりに「写数式」。エレガントな解答が好き。――それはあまりに甘美な世界! 類まれなる頭脳を持った“知の探究者”たちは、数学に対して、芸術家のごとく「美」を求め、時に哲学的、時にヘンテコな名言を繰り出す。深遠かつ未知なる領域に踏み入った、知的ロマン溢れるノンフィクション。

{ この記事をシェアする }

世にも美しき数学者たちの日常

「リーマン予想」「P≠NP予想」……。前世紀から長年解かれていない問題を解くことに、人生を賭ける人たちがいる。そして、何年も解けない問題を”作る”ことに夢中になる人たちがいる。数学者だ。
「紙とペンさえあれば、何時間でも数式を書いて過ごせる」
「楽しみは、“写経”のかわりに『写数式』」
「数学を知ることは人生を知ること」
「数学は芸術に近いかもしれない」
「数学には情緒がある」
など、類まれなる優秀な頭脳を持ちながら、時にへんてこ、時に哲学的、時に甘美な名言を次々に繰り出す数学の探究者たち――。
黒川信重先生、加藤文元先生、千葉逸人先生、津田一郎先生、渕野昌先生、阿原一志先生、高瀬正仁先生など日本を代表する数学者のほか、数学教室の先生、お笑い芸人、天才中学生まで。7人の数学者と、4人の数学マニアを通して、その未知なる世界を、愛に溢れた目線で、描き尽くす!

バックナンバー

二宮敦人 小説家・ノンフィクション作家

1985年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。2009年に『!』(アルファポリス)でデビュー。『正三角形は存在しない 霊能数学者・鳴神佐久のノート』『一番線に謎が到着します』(幻冬舎文庫)、『文藝モンスター』(河出文庫)、『裏世界旅行』(小学館)など著書多数。『最後の医者は桜を見上げて君を想う』ほか「最後の医者」シリーズが大ヒット。初めてのノンフィクション作品『最後の秘境 東京藝大―天才たちのカオスな日常―』がベストセラーになってから、『世にも美しき数学者たちの日常』『紳士と淑女のコロシアム 「競技ダンス」へようこそ』など、ノンフィクションでも話題作を続出。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP