古典とは時代を超越した作品であり、決して古くなることがない――。無類の読書家として知られる経済学者の野口悠紀雄さんは、次々刊行される経営書やビジネス書を乱読するより「古典」を読もう、と言います。なぜなら古典には、仕事や人生の深い洞察が凝縮されているから。そしてそれが今も役に立つから。勉強は自分の血肉にしないともったいない!大反響の『だから古典はおもしろい』(幻冬舎新書)から試し読みをお届けします。
共産主義国家は70年だが、キリスト教は2000年
聖書を読んで得られるものは、文学作品や絵画の理解だけではありません。
説得術を学ぶことができます。
イエス・キリストは、人類史上で最強の説得者です。
これほど多くの人々を、しかもこれほどの長期間にわたって説得しえた人は、他にいません。
一人の考えが社会に大きな影響を与えた例として、カール・マルクスの共産主義があります。
しかし、共産主義国家ソビエト連邦は、結局のところ、70年しかもちませんでした。
中華人民共和国も、建国から70年しか経たっていません。そして、中国共産党は、「毛沢東思想」とは言っていますが、「マルクス・レーニン主義」とは言わなくなったようです。しかも、現代中国経済の実態は、毛沢東が実現しようとしたものとは正反対です。
それに比べてキリスト教は、2000年の歴史を持っています。そして、その力が衰えているようにも見えません。
信じられないほどの強い説得力
イエスの説教は、その影響が広範で、永続しただけではありません。信じられないほどの強さを発揮しました。
キリスト教布教の初期段階において、おびただしい数の殉教者が生まれました。
ネロ治世下のローマ帝国におけるキリスト教徒への迫害は、苛烈なものでした。しかし、キリスト教はそれによって弱まったのではなく、かえって強まりました。
そして、それから300余年後にはローマ帝国の国教となり、ついにはヨーロッパ全土を支配する宗教となったのです。
キリスト教の影響力が頂点に達したのが、十字軍です。
十字軍は、宗教的義務感だけによって結成された軍隊であり、そのリーダーとなった王や諸侯に、領土獲得などの現世的目的はありませんでした(結果的には、パレスチナに十字軍国家を建設することになったのですが)。
数次にわたる十字軍遠征が終わったあとも、キリスト教の宣教活動は続きました。
ポルトガルが大航海に乗り出した一つの理由は、キリスト教の宣教です。「遠い異国にプレスター・ジョンという王が治めるキリスト教国が存在する」という伝説が、航海王子と言われたエンリケ(1394~1460年)を支えたのです。
ジェズイット教会は、宣教者を遠く日本にまで派遣しました。しかも、遠藤周作の『沈黙』に描かれたような殉教となることが、あらかじめ予測できたにもかかわらず。
(第3回へ続く)
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