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人はなぜ眠れないのか

2021.06.13 公開 ポスト

ナポレオンは不眠症だった?!ショート・スリーパーたちの真相岡田尊司

厚生労働省の2018年の調査では「睡眠で休養が十分にとれていない」人の割合は21.7%。日本人の5人に1人が睡眠に悩みを抱えています。自身も不眠症に長く悩まされた経験を持つ精神科医の岡田尊司さんが、睡眠のメカニズムや不眠症克服の極意を解説する幻冬舎新書『人はなぜ眠れないのか』より、睡眠の質を上げるための基礎知識やTipsをご紹介します。

睡眠3時間のナポレオン伝説

18世紀の啓蒙主義は、やがてフランス革命に代表される市民革命を引き起こし、近代合理主義にふさわしい政治体制が模索され始める。その中で新たな政治や文化の担い手として台頭したのが市民であり、その人気を権力基盤として活躍した新たな英雄が登場する。市民の熱烈な尊敬と支持を勝ち得るためには、政治的指導者は伝説的な英雄として振る舞うことを求められた。そして、英雄の1つの条件が、不眠に耐えるという能力である。

(写真:iStock.com/vale_t)

それは、ギルガメッシュの時代から受け継がれた特性でもあったが、特別な血筋をもたない者が統治者となる時代において、その正当性を裏づける証として、再び重要な要件となったのである。

その典型は、言うまでもなく、コルシカ島出身の一砲兵士官から、皇帝にまでのぼりつめたナポレオンである。

 

ナポレオンは、数学をもっとも得意としたことにも表れているように、極めて合理的な精神をもった、勤勉な人物だった。士官学校時代、貴族出身の学友たちが多い中で、交友や遊びには目もくれず、勉学に励んだ。士官学校では、多くの科目を学ばなければならなかったが、ナポレオンは1日の時間を細かく区切り、時間枠ごとに勉強する科目を決めて取り組むことで、その問題に対処した。

ナポレオンは、この士官学校の時代から、3、4時間の睡眠しかとらなかったという。そこから、ナポレオンは3時間しか眠らないという伝説が生まれた。別の説によると、ナポレオンは不眠症だったため、3、4時間しか眠れなかったのだとも言われている。ショート・スリーパーか不眠症かという区別は、眠らないことを、どう捉えるかにもよるだろう。

しかし、ナポレオンも決してスーパーマンではなかった。側近の証言によれば、寝不足と疲労のため、ナポレオンは重要な会談や、ワーテルローの戦場においてさえも、あまり頭が回っていなかったという。

ショート・スリーパーたちの真相

毎日5時間以下しか眠らなくても、日中の活動に何ら支障のない人をショート・スリーパーと呼び、医学的にも、そうした一群の幸運な人々がいることが知られている。

このタイプの人は、活動的で、高揚気質の人に多い。自分の睡眠についてあまり考えたこともなく、短い質のいい睡眠をとるので、自分の睡眠に満足しており、眠れないと感じることもめったにない。

ナポレオン以降、政治やビジネスのリーダーたちに求められるようになった資質の1つが、このショート・スリーパーであることだと言えるかもしれない。

 

第二次世界大戦のとき、イギリスを率いてヒトラーのナチスドイツと戦い、勝利に導いたウィンストン・チャーチルも、夜は2、3時間しか眠らないという伝説があったが、その実、たっぷりベッドで昼寝をしていた。チャーチル曰く、「それが唯一私の責任を全うする方法であったからだ」。彼も、寝不足では、重大な判断をすることができなかったのである。

(写真:iStock.com/Vera_Petrunina)

同じくイギリスの首相で「鉄の女」と言われたマーガレット・サッチャーも、一晩に4時間しか睡眠をとらないことで有名で、「睡眠なんて弱虫のためのもの」と豪語してみせた。しかし、実のところは、サッチャーは不眠症に悩んでいたので、それを逆手にとって、自分をナポレオンに擬したのだとも言われている。

真相はおそらくショート・スリーパーの人も、不眠になることがあるということだ。普段、4、5時間の睡眠で大丈夫なスーパーマンやスーパーウーマンも、2、3時間しか眠れなければ、きついと感じるだろう。同じ人間なのだから、ストレスが激しければ、睡眠が障害される日もあって当然だ。

 

アメリカ大統領を務めたビル・クリントンも、5、6時間しか眠らないと言われた。しかし、受験生でも、それくらいの睡眠時間で頑張っているだろう。多くの病院勤務医の睡眠時間は、もっと短い。大統領なら、6時間も眠れば上等ということになるだろう。

クリントンに劣らず、公務だけでなく、プライベートにおいてもタフだったことで知られるJ・F・ケネディは、アンフェタミノン(覚醒剤)に依存していたとされる。

人並み以上に元気な彼らでさえ、その権力を維持するために、かなり無理と苦労を重ねていたというのが真相のようだ。

実業家、科学者にも、短時間睡眠型の人が多い。短時間睡眠に耐えられる体力と疲れを知らない脳の持ち主でなければ、成功はおぼつかないということだろうが、彼らにとっても、睡眠を削ることは決して楽なことではないのだ。

 

こうみてくると、7時間以上眠らないと体調が維持できない凡人には、偉大な成功は望めないかのような気がしてくるが、決してそんなことはない。9時間以上眠るロング・スリーパーの中にも、偉大な人物を見出すことができる。もっとも、数の上では、ショート・スリーパーほど多くないことは認めざるを得ないが。

その1人は、イギリスで最初の辞書を編纂したことで知られる18世紀のサミュエル・ジョンソン博士で、昼の12時まで寝る習慣があった。そのくせ、若者には、自分を手本にしないように忠告している。20世紀の知の巨人の1人で、もっとも有名な科学者と言っていいアルバート・アインシュタインは、毎晩11時間も眠っていたことで知られている。

関連書籍

岡田尊司『人はなぜ眠れないのか』

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岡田尊司

1960年、香川県生まれ。精神科医、医学博士。東京大学哲学科中退。京都大学医学部卒。同大学院高次脳科学講座神経生物学教室、脳病態生理学講座精神医 学教室にて研究に従事。現在、京都医療少年院勤務、山形大学客員教授。パーソナリティ障害治療の最前線に立ち、臨床医として若者の心の危機に向かい合う。 

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