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中国経済の属国ニッポン

2021.06.07 公開 ポスト

中国の膨張で進むブロック経済化!日本は究極の選択を迫られる加谷珪一(経済評論家)

2030年前後に米国と中国のGDP(国内総生産)が逆転し、中国が世界一の経済大国となる可能性が高まっています。中国が覇権国家となった先の世界とはどういうものなのか。5月26日に発売された『中国経済の属国ニッポン』で、著者の加谷珪一さんは、今後の世界経済では米欧中のブロック経済化が加速すると指摘します。そうなった場合、日本はどのような立場に立たされるのでしょうか……。内容を少しご紹介します。

わずか10年で、日中の差はここまで広がった

(写真:iStock.com/Eugeneonline)

中国という国がさらに巨大化し、米国のGDPを超える事態になった場合、国際的な秩序が激変する可能性が高いことは容易に想像できると思います。では、米国と中国、そして日本の3カ国は、経済的に見てどのような位置づけになっているのでしょうか。図は2020年における名目GDPを比較したグラフです。米国の名目GDPは20・8兆ドル(約2288兆円)となっており、現時点でも圧倒的なトップですが、中国が米国にかなり迫っていることが分かります。

 

中国と日本のGDPの順位が逆転したのは2010年のことですが、そこからわずか10年で中国は日本のはるか先を行き、米国の地位を脅かすまでに成長している現実がお分かりいただけると思います。近年、日本の国際的な地位が急激に低下したと感じている人は多いと思いますが、その最大の理由は、他国と比べてGDPの成長率が著しく低く、経済規模が小さくなってしまったからです。

日本の外交力や企業の存在感は低下の一途

日本のGDPは過去20年間ほぼゼロ成長でしたが、同じ期間で米国は2倍、ドイツとフランスは1・9倍、英国は1・6倍に成長しています。中国に至っては12倍という驚異的な成長を実現しており、2010年にはとうとう日中のGDPが逆転しました。

日本の相対的な経済規模が小さくなったことから、日本企業の存在感や政府の外交力など諸外国に対するパワーは低下の一途を辿っています

国際社会は米欧中の3極体制にシフト

ちなみに日本の次にGDPが大きいのはドイツ、英国、インド、フランス、イタリアです。このうちドイツ、フランス、イタリアはEUの加盟国であり、イギリスも離脱したとはいえ、EUと関税なしの自由貿易協定を締結しましたから、限りなくEUに近い存在です。近年、国際社会におけるEUの存在感は高まっており、事実上の国家として処遇されていると判断してよいでしょう。

(写真:iStock.com/goodpic)

EU27カ国に英国を加えた28カ国のGDPは中国を上回っていますから、EUを国家と考えた場合、国際社会はすでに米、欧、中という3極体制にシフトしていると見なすことができます。外交交渉においては、交渉の土台となるルール作りを誰が行うのかで結果に天と地ほどの差が生じます。EUについては域内でも賛否両論がありましたが、EUが国家のように振る舞うことで、国際社会におけるルール作りを主導できるようになり、欧州各国の交渉力が飛躍的に高まったのは紛れもない事実です。

米中は異なる経済圏を形成

国際社会において、経済規模の大きい3つの国家が並び立つことは、ビジネスのルールや周辺国の国内経済にも極めて大きな影響を及ぼします。

中国の台頭によって米国と中国のデカップリング(分離)が始まっており、米国と中国は異なる経済圏を形成しつつあります。経済圏の分離が始まると、使われる技術や商習慣についても分離が進むことになりますが、今後の経済成長を主導する役割が期待されているIT業界では、すでにその影響が顕著となっています。

IT分野で中国企業が国際標準を決めている

これまでのIT産業は米国企業が主導権を握っており、使われている技術の標準を決めるのは米国でした。ところが中国が急速に技術力を高めていることから、中国独自の技術仕様がたくさん登場し、一部では国際標準を中国企業が決定するという事態になっています。

しかもトランプ政権の政策転換によって米国と中国は事実上の貿易戦争状態となりましたから、両国のやり取りは急速に縮小しているのが現実です。近い将来、米国の技術体系と中国の技術体系はバラバラになり、相互に利用することが困難になる可能性も指摘されています。

(写真:iStock.com/RyanKing999)

これは技術分野にとどまる話ではなく、取引や決済といった商習慣、物流、賃金体系など社会の様々な分野に関係してきます。基本的に貿易というのは、遠い国よりも近い国と活発になる傾向が強く、日本の対中貿易額はすでに対米貿易額を上回っています。それでも、これまでの時代は米国中心の国際社会でしたから、日本はもちろんのこと中国も米国に合わせて行動する必要がありました。

米国と中国の間に位置する日本にとっては好都合であり、米国基準の技術や商習慣を獲得しておけば、米国とも中国とも取引ができたわけです。

日本が迫られる究極の選択

ところが、これからの時代は、米中欧というブロック経済が成立し、その経済圏内を中心にモノやお金が行き交うようになる可能性が高いと考えられます。先ほど説明したように経済のブロック化は、商習慣や技術のブロック化とセットになりますから、日本にとっては極めて深刻な事態といえます。

(写真:iStock.com/francescoch)

これまで通り米国を向いてビジネスをしていくのか、中国を向いてビジネスをしていくのかという重大な選択を迫られる可能性が高まっているのです。

日本の立場はますます微妙に

これは日本という国のあり方そのものに対して、根本的な価値観の転換を迫る可能性があると考えるべきでしょう。現状においては、米中欧が拮抗する形で3極体制が出来上がっているわけですが、長期的にはこの図式も大きく崩れることになります。

中国は当分の間、経済成長を続ける可能性が高く、一方で、欧州の成長は鈍化が予想されています。米国は中国に抜かれるとはいえ、高い成長を持続できます。

巨大な米中という2カ国に対して、少し規模の小さい欧州といういびつな3極体制が出現する可能性が高く、日本の立場はますます微妙になると考えられます。

関連書籍

加谷珪一『中国経済の属国ニッポン マスコミが言わない隣国の支配戦略』

2030年にも、中国はGDP(国内総生産)で米国を抜き、世界一の経済大国になる。2021年、結党100周年を迎えた中国共産党は、歴史的な政策転換を提示。それは、中国を中心にしたブロック経済を構築し、米国や日本抜きでも成長し続けるという内容だ。さらに、テクノロジーや軍事力でも、中国が米国に取って代わる日が近づく。一方で、近年の日本経済は「爆買い」など、中国に大きく依存してきた。隣国の覇権獲得は、日本が今後、中国の土俵の上で外交やビジネスの遂行を強いられることを意味する。このまま日本は中国の属国に成り下がるのか? 数多のデータから、中国の覇権国家化の現状と、我が国にもたらす影響を見通す。

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加谷珪一 経済評論家

仙台市生まれ。1993年東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。その後野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は、「ニューズウィーク」や「現代ビジネス」など多くの媒体で連載を持つほか、テレビやラジオなどで解説者やコメンテーターなどを務める。ベストセラーになった『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『ポスト新産業革命』(同)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)など著書多数。

加谷珪一オフィシャルサイト http://k-kaya.com/

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