宮崎智之さんによる話題の書籍『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)は、自分の弱さと日常に目を凝らすことがもたらす創造性を描いたエッセイ。随所に引用された文学作品は、魅力的な読書案内にもなっています。去る4月30日、『めんどくさい本屋 ―100年先まで続ける道』(本の種出版)の著者で、東京・赤坂の書店「双子のライオン堂」の店主・竹田信弥さんとのイベントがオンライン配信で開催されました。『「強い」言葉を「弱い」言葉に換えて、日常を生きる』と題し、かねてから親交の深いふたりが、今この時代における「弱さ」や「強さ」とは、文学とは、そしてその先にある「楽しさ」とは何かについて、じっくりと語り合いました。その一部を加筆・再構成し、2回に分けてお送りします(司会進行/本の種出版・秋葉貴章)
言葉のチョイスのカッコよさと切れ味
――そもそも宮崎さんと竹田さんとは、どのようにして出会ったのでしょうか。
宮崎 TBSラジオ「文化系トークラジオLife」という深夜番組がつながりだったと記憶しています。今は機会が少なくなっていますが、出会った当時は僕が番組によく出演していて、竹田さんもイベントに参加してくださったり、いろいろなかたちで応援してくださったり、「Life」の仲間みたいな感じだったかから仲間になったみたいな、そんなざっくりした感じでゆるく交流を深めていきました。
竹田 そうでしたね。僕は完全なリスナーですけど。
宮崎 僕は5年前にお酒をやめて、お酒を飲んでいた最後の2年くらいは記憶がおぼろげなんですけど、お酒をやめた直後の僕の感触では、もうマブダチみたいな感じのイメージだったので、お酒を飲んでいる間に友達になったと、僕は勝手に信じてるんですけどね(笑)。違ったらすいません。
竹田 一緒にがっつりお酒を飲んだ記憶はないですけど、打ち上げとかではご一緒していました。
宮崎 そうですね。僕が勝手にそういう認知でいたので、もしかしたら偽物の歴史かもしれない。
竹田 埋め込まれた記憶(笑)。面識があるというレベルで言うと、僕は「Life」を応援しながらお店をつくったりしていたので、だいぶ前から宮崎さんのことは知っていました。お店が赤坂に移転した頃から何度も遊びに来ていただいて、お店でイベントを開催してもらったこともありました。その後、「渋谷のラジオ」で『渋谷で読書会』という番組を僕が始めたとき、以前も「渋谷のラジオ」の別の番組で共演させてもらったことがあったので、「困ったときは宮崎さん!」と頼りにしています。
宮崎 とにかく呼べば何か喋るということは確実視されていますからね、僕は(笑)。ありがたいです。あと、僕は単純に本屋が好きだし、双子のライオン堂さんのラインアップが魅力的だから普通に通っていたって認識もありながら、一方で、仕事を通してどんどん友達になっていった感じでしょうか。
――竹田さんは、宮崎さんの『平熱のまま、この世界に熱狂したい』を読んでどう感じましたか?
竹田 宮崎さんの本を読んでまず思ったのは、「カッコいい」ということですね。なんかその……、どこから喋ればいいのかな。些細な事象も含めてじっくり考えながら、ひとつの現実について深く考えていく。そのときの言葉のチョイスのカッコよさと切れ味みたいなものを、読みながら感じていました。文芸作品や音楽の歌詞を参照して、ひとつの章に厚みを出していく手法も参考になりました。
宮崎 ありがたいご感想です。
「勝つ」ことより「負けない」こと
――宮崎さんが『めんどくさい本屋』を読んだときに、「自分の考えていることに近いものがある」と竹田さんにおっしゃったとうかがいまいた。今回のイベントにあたって再読もされて、『平熱のまま、この世界に熱狂したい』と相通じるものがあったとすれば、どのような部分だと思われますか?
宮崎 再読をして、より近いものを感じ取りました。例えば、一番始めの第0章の前に「双子のライオン堂宣言」という文章がありますよね。これを読んで、僕の本の「あとがき」にそっくりだなって思って。僕の本は「まえがき」がなく「あとがき」しかないのですが、ようするに僕は「双子のライオン堂宣言」じゃなくて、「宮崎智之宣言」を最後にしたんだなということが分かりました。ふたつの本に共通しているのは、自分の考えや態度みたいなものを表明している部分ではないでしょうか。
あと今回気づいたのは、まず「100年残る」という双子のライオン堂さんのコンセプト、本の副題にも『100年先まで続ける道』とありますけど、これはつまり「平熱の熱狂」っていうことですよね(笑)。『平熱のまま、この世界に熱狂したい』ってそういうことだと思うんですよ。
再読して、ああ、そうだなって思ったのが、白山からお店を移転しなければいけないってなったときに、竹田さんは『ただ1つの指標が、ぼくの支えでした。「100年残る」という言葉。店舗をつくったときに考えたフレーズ。意地でもやめない、そのためにどう振る舞うか』と書いている。これが結構、僕の考えに近いような気がしています。「勝つ」というか「負けない」。やり続けるっていうことでもあるんですが。
ただ、なんだろう。「やり続ける」という能動的なものよりは、「やめない」を重要視しているというか。そういう物事に臨む態度というか考え方が、「弱さ」という部分とも絡んでくると思うし、今言ったみたいなちょっとした言い換えだけど、こう言い換えればこうなるんじゃないかって気づいていった言葉を僕は今回の本の端々に残していったつもりです。そういうことが同じように行われている本が竹田さんの『めんどくさい本屋』だったのかなと個人的には思っています。
さらに竹田さんの本を読んでいると、竹田さんは強いリーダーでは決してなく、双子のライオン堂を支えている方がたくさんいる。続けられているのは、サポーターに恵まれてるからなんですよね。
竹田 いや、本当にそうですよ。数年前に話題になった本でありましたけど、まさに『弱いロボット』(岡田美智男、医学書院)です。
宮崎 強くあることだけが、人と協働するために必要な要素ではないという考え方に共感しました。
それぞれが守りたい大切なもの
宮崎 竹田さんの本を読んでもうひとつ思ったのは、本当に文学が好きなんだなということです。ご著書にも「文学を絶やさない」って書いているんですよ。すごいですよね、「文学を絶やさない」。
竹田 僕が言わなくても、勝手に文学が頑張るだろうっていう(笑)
宮崎 文学に関しては、竹田さんはどちらかと言うと「逃げ道」だった、自分が苦しいときの助けになった、それこそ命が助かったくらいの大恩があるみたいなことを書いていましたけど、僕も思春期には似た体験があったし、もっと言えばその前は、父と一緒に詩を暗唱する遊びをしたりとか。僕は学校の勉強をまったくしない子どもだったので、父が「朝日小学生新聞」に詩か作文を投稿するのを勧めてくれたんですね。それで、僕はすごく面倒くさがりだったから、短い詩を投稿していた。今は詩のほうが書きやすいなんて、まったく1ミリも思っていませんが、まあ当時は子どもだったので。
でも父は「こいつ詩が好きに違いない」って、自分が好きな中原中也を読み聞かせしてくれて、そのあと音読とか暗唱とかをやるようになり、なんか原風景にとても「楽しい」雰囲気があった。「文学は父が一緒に遊んでくれる楽しいもの」みたいな。眉間に皺寄せながらやるイメージが、いまだにあんまりないんです。
もちろん、快/不快で言えば不快なものも文学の重要な側面だけど、それも含めて「楽しみ」だと思っている。そういう意味で竹田さんと根本的に近いような。なんだろう、「文学」がどういうものを指しているのかの定義は難しいですが、竹田さんは竹田さんの中の文学を残したいんだろうし、僕も僕の中の文学を残したい。それぞれ少しの違いがあるだろうし、もしかしたら世間で考えられている文学との違いもあるだろうけど、お互い同じような考え方でやってるのかなって。
竹田 今の話と絡めて話すと、宮崎さんの本を読んでもうひとつ思ったのは、生活の中に普通に文学があるのが素敵だなと思ったんですよ。今、「同じ感じだね」って言っていただきましたけど、僕の場合は結構、無理やり文学が途中から入ってきたタイプ、何かにすがるために、文学だけじゃなくて本全体を好きというか、守ろうという思いがあったりします。
もちろん文学部の文芸創作学科で学んだので、文学についていろいろ考えたりはしていました。でも、宮崎さんの場合は、詩の暗唱の話もそうですが、眉間に皺を寄せずに楽しんでいて、生活の彩(いろどり)として文学があるというのが、『平熱のまま、この世界を熱狂したい』を読んでいるとより分かるんですよね。いろんなエピソードに文学作品が自然と絡んでくるじゃないですか。これ、書けるようで書けないと思うんですよ。
宮崎 いや、実はそんな上等なものではなくてですね(笑)。僕、何かと何かをつなげるのがやたらと好きというか。例えば『幽★遊★白書』(冨樫義博、集英社)という漫画がありますよね。コミック16巻でいきなり魔界の扉が開いたんだけど、もともとは結界があってB級妖怪より強い妖怪は人間界には入って来られなかったんです。だから、A級妖怪以上が入ってきてしまうかもってなったときに、A級妖怪やS級妖怪はまだ動かない、あいつらは慎重だみたいなシーンが描かれていて。それで僕は、「一番すごいヤツは、なかなか表に出て来ない」ってことを学んだんですよ。それと、人間界に入ろうと群がる下級妖怪たちが、芥川龍之介の短編『蜘蛛の糸』に出て来るカンダタとかに似てるなって。
竹田 ははは(笑)
(後編につづく)
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平熱のまま、この世界に熱狂したい
世界を平熱のまま情熱をもって見つめることで浮かびあがる鮮やかな言葉。言葉があれば、退屈な日常は刺激的な場へといつでも変わる。
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