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パパ活女子

2021.12.02 公開 ポスト

パパ活は「病院の給料だと一日1食しか食べられない」から、と27歳の医療従事者中村淳彦

女性がデートの見返りにお金を援助してくれる男性を探す「パパ活」。今、コロナ禍で困窮した女性たちが一気になだれ込んできているといいます。パパ活は、セーフティネットからこぼれ落ちた女性たちの必死の自助の場だという『パパ活女子』(中村淳彦著)より、第一章「女子たちが没頭する『パパ活』とはなにか?」から、ある女性の事例を抜粋してお届けします。

(写真:iStock.com/K-Angle)

「一日2食は食べたい」。国家資格が必要な専門職でも非正規ではギリギリの生活

女性の貧困の最大の理由は、非正規雇用が認められたことだ。非正規女性の平均賃金は年収152万円(2019年、民間給与実態統計調査)と極端に安く、七海さんだけでなく、ひとり暮らしをする非正規女性の多くは相対的貧困(世帯の所得がその国の等価可処分所得の中央値の半分に満たない状態)に該当する。

手取りは10万円台後半、そこから10万円近くの家賃を支払って奨学金の返済をするので、可処分所得は生活保護の最低生活費程度しかない。ギリギリの生活を余儀なくされ、そんな状態のときにコロナにかかって破綻した。

いまは年収200万円以下です。病院は副業禁止なので収入はそれだけ。だから貧困状態で苦しくても、ダブルワークは無理。生活はカツカツ、本当に厳しい。家賃を払って残るお金は月5万円か、6万円。そこからけっこう高い光熱費や通信費を払う。社会人になってから食事は一日1食にしました。毎日、お昼ごはんしか食べてない。一日2食は食べたいです

蔓延する女性の貧困は性風俗や売春だけでなく、もちろんパパ活にも繋がってくる。長年勉強して国家資格をもって専門性のある技術を提供しても、一日1食しか食べることができない。家賃の滞納を全部キレイにして、生活もせめて一日2食は食べたいというのが、パパ活へのモチベーションになっていた。

低賃金による貧困だけでなく、さらに恋人からも足を引っ張られていた。2年前に同じJリーグチーム好きの男性と知り合って意気投合した。男性は七海さんの家にくると、たびたび財布からお金を盗っていった。

「元彼は、一つ年下のサラリーマン。DVとかお金を盗られるとか、いろいろあって別れました。別れたのは去年。でもその後も居候された。単身用アパートだから、一緒に住むのは無理っていっていたのに、深夜でもピンポンピンポンってくる。近所に迷惑じゃないですか。仕方なくいれちゃうことを繰り返してました」

暴力がもっともヒドかったのは、先月(2020年4月)。コロナ入院ののち、仕事復帰してから2週間が経っていた。

「先月、顔面があざだらけになりました。仕事のときは化粧してなんとか誤魔化して。ここは私の家だよね? ってケンカに。お金の心配もあって私が溜まりに溜まっていて、私のいい方も悪くて本当にヒドイことになりました。最終的にすごい暴力を受けた」

髪の毛を摑まれて投げ飛ばされ、馬乗りになって何度も殴られたらしい。鼻血が噴きだして、顔面と相手の拳、床は血まみれになった。

「ボコボコでした。警察に行きました。家からどうしても追いだしたかったので警察に頼った。入院中も家を使われまくって、光熱費とかもすごくて。大きなケガをしているので警察から傷害罪にするか聞かれて、二度と近づかないように注意してもらって終わらせました」

厄介者はいなくなったが、収入は途絶え、お金がまったくなくなった。非正規なので働かなければ無給、救済制度はなにもない。入院費用の請求がきた。貯金はない。病院に払ったことで家賃と光熱費が払えなくなり、何通もの請求書が送られてくる。払いたくても払えない。誰かに迷惑をかけていると思うと胸が痛くなる。

いまは家賃は滞納状態で、最低限の食費はクレジットカードからキャッシングしている。元のギリギリの生活に戻るためにはパパ活で稼ぐしかなかった。そして10日前、おそるおそるパパ活サイトに登録した。

「本当にすぐお金が必要。空いている時間にできることってパパ活とか、風俗しかなくて。何人か友だちに相談してもそれしかないって。経験ない私にカラダを売れるかわからないけど、もう覚悟を決めてやるしかないと思っています。いまは週6日勤務で、時間的な制約だらけ。だから風俗も難しい。個人的に定期で会ってくれる人が一番都合いい。だから、パパ活です

パパ活サイトのプロフィールに【急募】とある。2名の中年男性から反応があった。定期的な援助を希望していて、相手に対して肉体提供することは、もう覚悟しているという。しかし、まだ男性に会うに至っていない。

「大人(編集部注:肉体関係を持つことを意味するパパ活用語)っていうんですか、金額は3万円にしました。あと数日間、パパと会えなかったら風俗に行きます。入院中に、最悪こうなるかなと思って風俗求人を調べました。風俗がどんなところか少しわかってきました。本当に切羽詰まっているのでデリヘルでも、ソープランドでもいいかなって。一秒でも早く請求されているお金を払ってスッキリしたいです」

最低でもすぐに20万円がないと、マイナスがゼロにならない。肉体関係の報酬を3万円にしたのは、大人の相場2万円~5万円とインターネットに書いてあったから。真ん中をとって3万円にした。

この七海さんのケースで伝えたかったのは、女性の貧困や、貧困までいかずとも働いても貧しい生活しかできないことがパパ活市場に影響していることだ。ギリギリの生活も維持できなくなると、すぐにお金が必要になる。新しい仕事を探す余裕もないのだ。

関連書籍

中村淳彦『パパ活女子』

「パパ活」とは、女性がデートの見返りにお金を援助してくれる男性を探すこと。主な出会いの場は、会員男性へ女性を紹介する交際クラブか、男女双方が直接連絡をとりあうオンラインアプリ。いずれもマッチングした男女は、まず金額、会う頻度などの条件を決め、関係を築いていく。利用者は、お金が目的の若い女性と、疑似恋愛を求める社会的地位の高い中年男性だ。ここにコロナ禍で困窮した女性たちが一気になだれ込んできた。パパ活は、セーフティネットからこぼれ落ちた女性たちの必死の自助の場なのだ。拡大する格差に劣化する性愛、日本のいびつな現実を異能のルポライターが活写する。

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パパ活女子

11月25日発売の幻冬舎新書『パパ活女子」について

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中村淳彦

1972年生まれ。ノンフィクションライター。AV女優や風俗、介護などの現場をフィールドワークとして取材・執筆を続ける。貧困化する日本の現実を可視化するために、さまざまな過酷な現場の話にひたすら耳を傾け続けている。『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)はニュース本屋大賞ノンフィクション本大賞ノミネートされた。著書に『新型コロナと貧困女子』(宝島新書)、『日本の貧困女子』(SB新書)、『職業としてのAV女優』『ルポ中年童貞』(幻冬舎新書)など多数がある。また『名前のない女たち』シリーズは劇場映画化もされている。

 

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