発売後から大反響!のベストセラー『80歳の壁』(和田秀樹著)。体力も気力も70代とは全然違う「80歳」の壁をラクして超えて、寿命をのばす――その秘訣がつまった本書から、試し読みをお届けします。
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「人生百年時代」という言葉が、80歳の壁を高くしている
80歳と言えば、かつては「人生のゴール」という印象でした。ところが昨今では「人生百年」と言われ、ゴールがいきなり20年も先になってしまいました。
長寿になったことは喜ばしいのですが、じつは少し心配もしています。それは、幸齢者が「長生きしなければならない」という呪縛にかかっていることです。
たとえば、みなさんご自身は、次のことに思い当たらないでしょうか。
- 本当は食べたいのに、健康に悪いからと、我慢してしまう。
- 動くのがつらいのに、健康のためと、無理して運動をする。
- 好きなタバコやお酒を、健康に悪いからと、控えてしまう。
- やりたいことがあるのに「もう年だから」と我慢する。
- 効いている実感がないのに「長生きのため」と薬を飲み続ける。
いずれも80歳を超えた幸齢者なら、しなくてもいい我慢や無理です。
もっと言えば、本当はしてはいけない我慢や無理なのです。
たしかに、60代くらいまでなら、それは効果のあることでした。しかし幸齢者になってまで、我慢をする必要はありません。
節制、運動、心配、気づかい……。快くできるのなら別ですが、我慢や無理をしながらでは、間違いなく心と体には負担となります。一つ一つは小さなダメージでも、それが積み重なれば、確実に寿命を縮めることになります。「人生百年」という言葉が、逆に80歳の壁を高くしているように、私には思えるのです。
ここまで頑張ってきたのですから、幸齢者はもっと自分を喜ばせるための行動をするべきです。
そもそも私が精神科を選んだのは、人間という存在に深い関心があったからです。体よりも心に興味がありました。そして28歳のときに、縁あって高齢者専門の病院に勤務することになったのです。
でも正直に告白すると、最初は少し不満足な思いもありました。なぜなら、患者さんはお年寄りだけ。うつ症状、認知症、アルコール依存症など、心の問題を抱える人ばかりです。自ら精神科を選んだはずなのに、「もっと医師らしく病気に向き合いたい」などと考えていたのです。
しかし、そんな迷いも消えていきます。そしてむしろ、この仕事に巡り合えたのはラッキーだったと思うようになったのです。
精神科医は、患者さんの話に耳を傾けるのが仕事です。それは患者さんの人生に触れることでもあります。想像もできない世界があるのだと知りました。
臨床の現場では、医学書や論文の知識だけでは通用しません。患者さんご自身が生きた教科書でした。どんな人にも、それぞれのドラマがあり、一人一人がその主人公なのです。心に病を抱える原因となった不運や不遇は、誰にも起こり得るのです。
人間は誰もが「オンリーワン」の存在であると同時に、人生には優劣がないのだと気づかされました。心のプロとして患者さんを導く立場の私が、逆に、患者さんから深い教えを受けていたわけです。
仏教が説く「生老病死」とはまた違う視座から、私はそれを考えることになりました。この本には、そうした臨床現場で学んだ知恵が詰まっています。私を育ててくださった患者さんに感謝し、ご恩返しのつもりでお伝えしようと思います。
※続きは本書をお手にとってお楽しみください。
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