怒りたくないのに、怒ってしまう……怒ると心は乱れ、能力は曇り、体内を有害物質がかけめぐり、それが他人にも伝染する。あらゆる不幸の元凶である「怒り」を、どうしたら手放せるのか? ブッダの教えをやさしくひもとき、怒りの毒にまみれた毎日を清々しい日々に変える仏道入門『もう、怒らない』(小池龍之介・著)から、日々を生きるヒントをお届けします。
脳内ストーリーを書き換えれば怒りを減らせる
そうなる(編集部注:時間が経って怒りが収まっても、エネルギーは脳に残っているので、何かきっかけがあれば再び火がつく)のを防ぐには、脳内ストーリーが完成する前に、ストーリーをストップしたり書き換えたりすることが大変重要です。
先の彼女は、彼のケチさをぼんやりと感じとり、自分は大切にされていないというストーリーをつくって悲劇を演じてしまいました。
しかしそこで、彼を動かしているケチな煩悩の背後にある怒りのエネルギーを観察してあげることができれば、脳内ストーリーは書き換わります。
彼の不安そうな表情を見てみましょう。彼は、「こんな高い服を買わされたら嫌だ」とドキドキし、ケチな煩悩によるダメージを受けています。
また「あっちの服のほうが似合うと思うよ」と嘘を言うことでも、心の情報処理に負荷がかかっています。事実に反することを口にするには、自分の考えを無理矢理につくり替えなければならないので、心にとても大きな負荷がかかるのです。
このように彼の表情をよくよく観察すると、彼が一から百までストレスに苛まれる可哀想な人であることが自ずと洞察されます。
それさえ分かれば、自分が悲しんだり拗ねたりして、相手のストレスをさらに増やすようなことをしたら可哀想だ、という気持ちにストーリーを書き換えることができるでしょう。
そうすれば、相手に対する気持ちの余裕が生まれ、穏やかな心をつくることができるので、体も心も共にリラックスしてきます。高価な服を買ってもらえなくても悲しんで怒りのエネルギーを増やす不幸に嵌まらず、逆に、相手がくれるものを素直に喜んで幸福感を味わうことができます。それを見れば、相手も幸せな心持ちにならないはずがありません。
鍵を握っているのは、最初に慈悲の心をつくって自らの怒りのエネルギーを消す彼女のほうです。相手のケチケチした怒りのエネルギーを受け取っても、それに影響されず、慈悲の心で受け流すことができれば、自分も相手も幸福にする主導権が得られるのです。
このような慈悲の心で悪感情を受け流す精神的スキルについては、本書の最終章で改めて詳説することにいたしましょう。
もう、怒らない
怒りたくないのに、怒ってしまう……。煩悩の仕組みを知れば、悪循環は断ち切れる。
ムカつく、妬む、悔む、悲しい、虚しい……。仏道では、これら負の感情を、すべて「怒り」と考える。怒ると心は乱れ、能力は曇り、体内を有害物質がかけめぐり、それが他人にも伝染する。あらゆる不幸の元凶である「怒り」を、どうしたら手放せるのか? ブッダの教えをやさしくひもとき、怒りの毒にまみれた毎日を清々しい日々に変える仏道入門。