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もう、怒らない

2022.08.02 公開 ポスト

「アイツと違い自分は立派な人間だ」の快感は同時に「鈍い苦しみ」も生む小池龍之介

怒りたくないのに、怒ってしまう……怒ると心は乱れ、能力は曇り、体内を有害物質がかけめぐり、それが他人にも伝染する。あらゆる不幸の元凶である「怒り」を、どうしたら手放せるのか? ブッダの教えをやさしくひもとき、怒りの毒にまみれた毎日を清々しい日々に変える仏道入門『もう、怒らない』(小池龍之介・著)から、日々を生きるヒントをお届けします。

心は叫びたがっている…(写真:iStock.com/maruko)

「怒ると力がみなぎり元気になる」という錯覚

第一章で、心は、欲望が実現しないことから生じる刺激を、快楽と錯覚するとお話ししました。

怒りについても、同様のことが起きています。

 

大量の仕事を押し付けられるのであれ、ぞんざいな態度を取られるのであれ、そのような扱いを受けるのには理由があります

人には、見ただけで何となく一緒にいたくないと感じさせたり、ケチをつけたいと感じさせたりする人もいれば、自然に優しく接したいという気持ちを起こさせる人もいます。自分が大量の仕事を押し付けられたのは、こちらの心が相手を刺激して、「こいつに押し付けてやれ」という気分にさせてしまったのだと考えられます。

しかしそのような目にあったとき、人は、自分が相手の嫌な部分を引き出してしまう性質を持っているとは認識したくありません。自分のイメージを下げることになるからです。

そこで人は、現在の自分はこのような目にあうのがふさわしいのだという現実認識から逃避するために、相手に対して「なんてひどい人だろう」と怒るのです。

生きることは、現時点の自分はどのような目にあうのがふさわしいのかを朝から晩まで思い知らされるゲームのようなものです。

思い知るきっかけをすべて見て見ないフリをして、根こそぎ「なかったこと」にしようとすることが、怒ることの本質ではないでしょうか。

相手に「この人は尊敬をもって扱わなくてもいい」と思わせてしまう、現在の自分の姿を見るかわりに、「自分に対する敬意の足りない、ダメで愚かな人間」として相手を見る。その結果、心は「こんな愚かな奴と違って自分は立派な人間だ」という幻覚にひたり、気持ちよくなってしまうのです。

問題は、その気持ちよさはあくまで脳内の錯覚にすぎず、実際には心にストレスが増え体にダメージが与えられているということです。

本当は怒りによる苦しみが増しているのに、心が「気持ちよい」と錯覚してしまうため、怒りを止められなくなります。

しかもここにはちょっとしたトリックがはたらいています。怒ってすぐの瞬間には、怒りによるダメージは感じられません。怒ることで、ドキドキして体中に力があふれ、元気になったように感じる人もいます。

怒ってカッとなり机をドンと叩くと、普段よりも強い力が出せます。瞬発的な力が生まれ、その力によって人を殴ったり物を壊したりすることすらできます。

しかし、それはあくまで、体が不快物質の刺激に反応し、興奮状態に陥るからです。不快物質のショックにより動かされているだけなので、一瞬元気になった気がした後は、ぐったりとした疲労と苦痛が残り、それがどんどん溜まっていきます。

欲望が人を元気にすることが幻想であるのと同様に、怒りもまた人を元気にするどころか、長期的には鈍い苦しみを増すのです。

関連書籍

小池龍之介『もう、怒らない』

ムカつく、妬む、悔む、悲しい、虚しい……。仏道では、これら負の感情を、すべて「怒り」と考える。怒ると心は乱れ、能力は曇り、体内を有害物質がかけめぐり、それが他人にも伝染する。あらゆる不幸の元凶である「怒り」を、どうしたら手放せるのか? ブッダの教えをやさしくひもとき、怒りの毒にまみれた毎日を清々しい日々に変える仏道入門。

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もう、怒らない

怒りたくないのに、怒ってしまう……。煩悩の仕組みを知れば、悪循環は断ち切れる。

ムカつく、妬む、悔む、悲しい、虚しい……。仏道では、これら負の感情を、すべて「怒り」と考える。怒ると心は乱れ、能力は曇り、体内を有害物質がかけめぐり、それが他人にも伝染する。あらゆる不幸の元凶である「怒り」を、どうしたら手放せるのか? ブッダの教えをやさしくひもとき、怒りの毒にまみれた毎日を清々しい日々に変える仏道入門。

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小池龍之介

1978年生まれ。山口県出身。東京大学教養学部卒業。元僧侶。ウェブサイト「家出空間」主宰。2019年に還俗し、現在は「月読お稽古場」道場主。著書に『しない生活』(幻冬舎新書)、『沈黙入門』『もう、怒らない』(ともに幻冬舎文庫)、『考えない練習』『苦しまない練習』(ともに小学館文庫)、『超訳 ブッダの言葉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『平常心のレッスン』(朝日新書)、『“ありのまま" の自分に気づく』(角川SSC新書)などがある。

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