テクノロジーの発展や、「人生100年時代」の到来によって激変している私たちの働く環境。ロバート・フェルドマンさん、加藤晃さんの共著『盾と矛 2030年大失業時代に備える「学び直し」の新常識』は、DX、AI、SDGs、MOTなど、理解しているようでしていない新しい概念をはじめ、ビジネスパーソンが身につけておくべきテーマをまとめた一冊。激動の時代をサバイブするために、ぜひ目を通しておきたい本書から、内容の一部をご紹介します。
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大失業時代を生き残るために
第2のスキルは、徹底してわかりやすい文章を書くコミュニケーション力です。犬と猫の例を挙げましょう。猫に「取って来い」と命じても意味はありません。猫にはその概念がないからです。犬なら、すぐわかります。
人間も同じです。例えば、「野球の大谷のようだ」と言えば、アメリカ人や日本人であれば、みんなわかるでしょう。しかし、相手が欧州人であれば、大谷のことがわかるどころか、野球さえわからない人が多いので通じません。欧州人と話す時は、「大谷のよう」と言わずに、「メッシのよう」と言うべきです。
つまり、相手がわかる比喩を使わなければ言いたいことは伝わりません。この点を理解し、的確な比喩を使えることが、コミュニケーション力・意思疎通力なのです。
さらに、修辞技法も効果的です。その一つは、同じ言葉を繰り返すこと。あるいは同じ言葉を、間をあけて繰り返す技法です。
例えば、ジェームズ・ボンドが自己紹介する時は、「ボンドです……ジェームズ・ボンド」と言います。この際、ゆっくり話した方がよいでしょう。普通に話すより3分の1くらいのスピードでよいかと思います。
並列構造も役に立ちます。修辞技法の名人はキング牧師です。
「Our scientific ability has outpaced our moral ability. We have guided missiles but misguided men.」。訳すと、「人類の科学力は道徳力を超えた。ミサイルは誘導できるが、道を誤っている人が多い」。比喩、並列構造、押韻も入っている、見本のようなキング牧師の文章です。
この、キング牧師の「I have a dream.」という有名なスピーチは、日本語の字幕も入り、インターネットで簡単に見ることができます。
わかりやすい文章のコツ
もう一つの良い例は、イギリスのサッチャー首相です。
彼女の有名なスピーチの中に、「In politics, if you want anything said, ask a man. If you want anything done, ask a woman.」という文章があります。訳すと、「政治の世界では、何か言ってほしいことがあれば男性に頼みなさい。やってほしいことがあれば女性に頼みなさい」。
中身はデタラメですが、修辞技法としては並列構造が極めて印象的ですね。
話し方だけではありません。わかりやすい文章を書くことももちろん意思疎通力の一つです。文章の書き方についての本は、英語でも日本語でもたくさんありますが、推薦できる一冊は、『ザ・エレメンツ・オブ・スタイル(The Elements of Style)』(Strunk, William & E. B. White、1959年)という本で、邦訳もされています。
非常に役に立つ簡単な、命令形のルールが書かれています。一番好きなルールは、「不要語彙を省け!」です。他には、「修正して書き直せ!」「読者を知れ!」「具体的な語彙を利用しろ!」「修飾語句は避けろ!」などです。これらのルールを忠実に守れば、わかりやすい文章になります。
例えば、「読者を知れ!」のルールです。数学者がビジネスマンに話す時、数式で表現しても通じません。しかし、数学者が難しい数式を左にして、右に「=5000億ドル」と書けば、ビジネスマンはすぐわかります。
このようにできる数学者は、本当に頭がいいと思います。すなわち、「相手が大事にしていること」に概念を合わせるのです。簡潔な文章の名人であるアーネスト・ヘミングウェイの『老人と海』を真似すれば良いのです。
盾と矛
テクノロジーの発展や、「人生100年時代」の到来によって激変している私たちの働く環境。ロバート・フェルドマンさん、加藤晃さんの共著『盾と矛 2030年大失業時代に備える「学び直し」の新常識』は、DX、AI、SDGs、MOTなど、理解しているようでしていない新しい概念をはじめ、ビジネスパーソンが身につけておくべきテーマをまとめた一冊。激動の時代をサバイブするために、ぜひ目を通しておきたい本書から、内容の一部をご紹介します。