1. Home
  2. 読書
  3. いのちの十字路
  4. 【再掲】第四章 老老介護 - 妻の認知症...

いのちの十字路

2025.04.20 公開 ポスト

8050問題、老老介護、認知症、ヤングケアラー…。『いのちの十字路』で描かれる介護の現場。

【再掲】第四章 老老介護 - 妻の認知症を認めたくない夫。南杏子

吉永小百合さん主演映画『いのちの停車場』の続編小説『いのちの十字路』は、在宅での介護をテーマにした感動の連作長編です。主人公は、映画で松坂桃李さんが演じた、野呂誠二。医師国家試験に合格して金沢の「まほろば診療所」に戻ってきた彼が、さまざまな介護の現場で奮闘します。
8050問題、老老介護、認知症、ヤングケアラー……。文庫化を記念して、本作で綴られる介護の現場のリアルを、登場人物の言葉とともに、ご紹介していきます。

妻の認知症を認めたくない夫。

「第四章    正月の待ち人」
妻(70代)の認知症の症状を認めず他人の手も借りたくない、大腸癌の手術をしストーマをつけて生活している夫(70代)。

【あらすじ】
10年前にストーマ造設手術をした信彦さんは、最近自分でのパウチの付け替えがおぼつかなくなってきた。妻の美雪さんは野呂や麻世から見たら明らかに認知症の症状が出ている。しかし、信彦さんはそのことを認めようとしないし、仮に認知症だとしても、治療を受ければ治ると信じている。家族会のサポートを受けるよう促しても、頑なに拒まれる。ある雪の朝、美雪さんが裸足で街を徘徊してしまい……。

夫・信彦
「妻はそんなにおかしいですかね。そこまでおっしゃるなら、検査は受けましょう。で、薬を飲めば治るんですか?」

野呂
「認知症は、今の医学では治療困難な病気です。以前の状態に戻そうと考えるよりも、病気とともに安全で快適に暮らせる方法を考える方が現実的です。将来は施設への入所も検討した方がいいでしょう」

信彦
「先生、そんなに先のことよりも、まずは家でできることをやってください。いずれ私が妻の面倒を見られなくなれば、一緒に施設に入るしかないとは思ってますが」

野呂
「福田さんには、ご自分のストーマ管理という大切な仕事もあるんですよ。奥さんのことは家族会のメンバーの知恵を借りてみたり、公的な介護も検討したりできる。もっと楽に生活できる工夫をしませんか?」

信彦
「野呂先生! お言葉を返すようで申し訳ないのですが、楽に生きようなんていう考えは、私にはないんです」
「美雪はですね、私のために家を守ってくれました。だから妻のことは、私が責任を持って最後まで看ます。他人様に聞いてもらう悩みなど、ないです」

信彦
「一番つらいのは、この病気が治らない、進行が止まらない、ということなんですよ。遠い先のことなんていい。今、この時点で、私は美雪と二人だけの静かな時間を過ごしたい。わざわざ診断なんか受けて、絶望したくないんです」

信彦
「病気を恥だと思っていたんですけれど、そうじゃない。自分が癌だ、ストーマだ、などと他人に話すなんて、これまでは考えられませんでした。妻の認知症についても同じです」

白石先生
「生きていれば、誰にでもいろいろなことが起きます。病気も当たり前のことです」

関連書籍

南杏子『いのちの十字路』

医師国家試験に合格した野呂は、金沢のまほろば診療所に戻ってきた。娘の手を借りず一人で人生を全うしたい老母。母の介護と仕事 の両立に苦しむ一人息子。妻の認知症を受け入れられない夫。体が不自由な母の世話をする中二女子。……それぞれの家庭の事情に寄 り添おうと奮闘する野呂は、実は、ヤングケアラーという辛い過去を封印していた。

南杏子『いのちの停車場』

東京の救命救急センターで働いていた、六十二歳の医師・咲和子は、故郷の金沢に戻り「まほろば診療所」で訪問診療医になる。命を送る現場は戸惑う事ばかりだが、老老介護、四肢麻痺のIT社長、小児癌の少女......様々な涙や喜びを通して在宅医療を学んでいく。一方、家庭では、脳卒中後疼痛に苦しむ父親から積極的安楽死を強く望まれ......。

南杏子『いのちの波止場』

吉永小百合さん主演映画『いのちの停車場』シリーズ最終話。主人公は映画で広瀬すずさんが演じた看護師・麻世。 これで安心して死ねるよ。 ありがとう、ありがとう。 余命わずかな人たちの役に立ちたい――“熱血看護師”麻世が「緩和ケア科」で学び、最後に受け取ったものは。 震災前の能登半島の美しい風景と共に、様々な旅立ちを綴る感動長編。 患者さんの苦痛を取り、嫌だと思うだろうことをしない。 それが最後にできる最高の仕事。 まほろば診療所の看護師・麻世は、能登半島の穴水にある病院の看護実習で「ターミナルケア」について学ぶ。激しい痛みがあるのに、どうしてもモルヒネを使いたくないという老婦人。認知症と癌を患い余命少ない父に無理やり胃ろうつけさせようする息子。そして麻世が研修の最後に涙と感謝と共に送るのは、恩師・仙川先生だった――。

{ この記事をシェアする }

いのちの十字路

吉永小百合主演映画『いのちの停車場』原作続編!

老老介護、ヤングケアラー、8050問題……。介護の現場で奮闘する若き医師とその仲間たち。

バックナンバー

南杏子

1961年徳島県生まれ。日本女子大学卒。出版社勤務を経て、東海大学医学部に学士編入。卒業後、都内の大学病院老年内科などで勤務したのち、スイスへ転居。スイス医療福祉互助会顧問医などを勤める。帰国後、都内の高齢者中心の病院に内科医として勤務。

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP