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いのちの十字路

2025.04.23 公開 ポスト

【再掲】第五章 ヤングケアラー - シングルマザーを介護する中2女子。南杏子

吉永小百合さん主演映画『いのちの停車場』の続編小説『いのちの十字路』は、在宅での介護をテーマにした感動の連作長編です。主人公は、映画で松坂桃李さんが演じた、野呂誠二。医師国家試験に合格して金沢の「まほろば診療所」に戻ってきた彼が、さまざまな介護の現場で奮闘します。
8050問題、老老介護、認知症、ヤングケアラー……。文庫化を記念して、本作で綴られる介護の現場のリアルを、登場人物の言葉とともに、ご紹介していきます。

ヤングケアラー―シングルマザーを介護する中2女子。

「第五章 レトルトカレーの頃」
脳梗塞を発症し左半身に麻痺の残った母(40代)を介護する娘(10代)。

【あらすじ】
要介護3のシングルマザー・久仁子さんは、デイサービスや連日の訪問看護を受けている。中学2年生の娘・陽菜ちゃんは、自分と小学校4年生の弟・蓮くんの食事や身の回りのことをこなしながら、母の日常生活の手伝いもしている。そのせいで、自分のことは疎かになってしまう。野呂は、陽菜ちゃんはヤングケアラーで、今の生活は普通ではないと伝えたいが、彼女は自分がヤングケアラーであることを認めようとしない。

陽菜
「もう私、この話したくない。なんかよく分からないし、あんまり考えたくないです。この家のことを、他人が手助けできるはずない。別に困ってないし、私、ちゃんとできています。それに、私がやらなきゃお母さんの機嫌が悪くなるに決まってる。もう邪魔しないでください……」

仙川先生
「ヤングケアラーは、自覚がないことが最大の問題なんです。自分が子どもらしくない生活を強いられて、安全すら確保されていないことに、多くのヤングケアラーは気付けていないものですよ」

野呂
「ねえ陽菜ちゃん、ちょっと考えてみてよ。お母さんの介護って、本当に全部、陽菜ちゃんがやらなきゃいけないことかな?」
「子どもはね、みんなが子どもらしく暮らす権利があるんだよ。周りの友だちのように、遊んだり、テレビを見たり、勉強したりする自由がある。今の君は、そういうことをやらなきゃいけない時期なんだ。陽菜ちゃんはできてる?」

陽菜
「私がお手伝いしなければ、お母さんが怒る。家の手伝いなんて普通のことだし。それに、私はクラスのみんなに……」
「……ヤングケアラーって、バカにされたくない! 私、ヤングケアラーなんかじゃない!」

野呂
「自分を裏切っちゃいけない。自分を大切にするのは、自分しかいないのだから」
「誰かにとって『いい子』でも、自分にとって『いい子』かどうか、考えなきゃ」

関連書籍

南杏子『いのちの十字路』

医師国家試験に合格した野呂は、金沢のまほろば診療所に戻ってきた。娘の手を借りず一人で人生を全うしたい老母。母の介護と仕事 の両立に苦しむ一人息子。妻の認知症を受け入れられない夫。体が不自由な母の世話をする中二女子。……それぞれの家庭の事情に寄 り添おうと奮闘する野呂は、実は、ヤングケアラーという辛い過去を封印していた。

南杏子『いのちの停車場』

東京の救命救急センターで働いていた、六十二歳の医師・咲和子は、故郷の金沢に戻り「まほろば診療所」で訪問診療医になる。命を送る現場は戸惑う事ばかりだが、老老介護、四肢麻痺のIT社長、小児癌の少女......様々な涙や喜びを通して在宅医療を学んでいく。一方、家庭では、脳卒中後疼痛に苦しむ父親から積極的安楽死を強く望まれ......。

南杏子『いのちの波止場』

吉永小百合さん主演映画『いのちの停車場』シリーズ最終話。主人公は映画で広瀬すずさんが演じた看護師・麻世。 これで安心して死ねるよ。 ありがとう、ありがとう。 余命わずかな人たちの役に立ちたい――“熱血看護師”麻世が「緩和ケア科」で学び、最後に受け取ったものは。 震災前の能登半島の美しい風景と共に、様々な旅立ちを綴る感動長編。 患者さんの苦痛を取り、嫌だと思うだろうことをしない。 それが最後にできる最高の仕事。 まほろば診療所の看護師・麻世は、能登半島の穴水にある病院の看護実習で「ターミナルケア」について学ぶ。激しい痛みがあるのに、どうしてもモルヒネを使いたくないという老婦人。認知症と癌を患い余命少ない父に無理やり胃ろうつけさせようする息子。そして麻世が研修の最後に涙と感謝と共に送るのは、恩師・仙川先生だった――。

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いのちの十字路

吉永小百合主演映画『いのちの停車場』原作続編!

老老介護、ヤングケアラー、8050問題……。介護の現場で奮闘する若き医師とその仲間たち。

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南杏子

1961年徳島県生まれ。日本女子大学卒。出版社勤務を経て、東海大学医学部に学士編入。卒業後、都内の大学病院老年内科などで勤務したのち、スイスへ転居。スイス医療福祉互助会顧問医などを勤める。帰国後、都内の高齢者中心の病院に内科医として勤務。

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