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堤未果のショック・ドクトリン

2023.06.02 公開 ポスト

マイナ保険証はここが危ない堤未果(国際ジャーナリスト)

テロや大災害など、恐怖で国民が思考停止になっている最中に、為政者や巨大資本がどさくさ紛れに過激な政策を推し進める……。その悪魔の手法を「ショック・ドクトリン」といい、日本でも3.11やコロナ禍の裏で、知らず知らず国民の情報や資産が奪われようとしています。

パンデミックで空前の利益を得る製薬企業や、マイナンバー普及に隠された政府の思惑など、強欲資本主義の正体を見抜き、私たちの生活を守るにはどうしたらいいのでしょうか?

国際ジャーナリスト 堤未果氏が警鐘を鳴らす、最新刊『堤未果のショック・ドクトリン』より、一部抜粋してお届けします。

*   *   *

マイナ保険証はここが危ない

(写真:iStock.com/y-studio)

カード作成は義務じゃないのに、選択肢を奪って強制

「これは違法!」

法律家の立場から真っ先に反対の声を上げたのは、日弁連(日本弁護士連合会)でした。

番号法17条1項には、こう書いてあるからです。

「個人番号カードは住民の申請により交付するものとする」

つまり作るか作らないかは、私たち国民の自由。

でも紙の保険証が廃止されればその選択肢は奪われて、事実上の強制になってしまう。日弁連の言う通り、れっきとした違法行為です。

でも政府はそれを認めるどころか、さらに脅(おど)しのようなことを言い出しました。

「2024年にはすべてマイナ保険証だ。紙の保険証は廃止後1年間は使えます。どうしても嫌なら健保組合などに資格確認書を発行してもらうこともできるけど、その場合自動更新はなしで、受診料はマイナ保険証より高くしますよ」

医師や病院が追い詰められる

マイナ保険証の事実上の強制は、違法なだけではありません。

実は日弁連が反対声明を出す半年も前に、医師や病院からは「勘弁してくれ!」という声が出ていたのです。

2022年6月、政府は閣議決定した「骨太の方針2022」を踏まえ、全国の医療機関に、マイナンバーカードを端末にかざすと保険証の資格確認ができる「オンライン資格確認システム」の2023年4月までの導入を原則義務化しました。

ところが、前述したように、このシステムには不具合が多く導入費用も高いため、導入に多くの医師たちが猛反対。

カードを読み取れなければ、患者は保険が使えず、最悪の場合、その場で10割の窓口負担を払うことになってしまいます。そしてまた、カードリーダーは国から支給されるものの、小さいクリニックほど、システムを使うために従業員が受けるトレーニングの時間と費用といった高額なランニングコストが負担になってしまう。

しかもやりたい放題の政府は、「期限内に導入しなければ、医療機関の資格停止もあるかも」と、またもや脅し。

「資格停止だぞ!」ではなく「かもよ……?」とちらつかせるところが、なんとも反社会的です。

「もう廃業するしかない」と泣き声を上げるクリニックも少なくありません。

埼玉県保険医協会の渡部義弘副理事長は、医療機関を追い詰める政府のやり方に怒りをにじませ、県民に必死でこう訴えました。

「このままでは、地域医療が崩壊する恐れがあると知ってほしい」

なくしたときの責任は誰にあるの?

病院内でマイナンバーカードを使うと、別の問題も出てきます。

ちょうどこのニュースが出た頃、家族が入院していたある病院で、こんなことがありました。

病院内のコンビニでコピー機を開けたところ、誰かが置き忘れた健康保険証があったのです。急いで窓口に届けると、受付の女性は驚きもせず、「よくあるんですよ」と苦笑していました。

想像してみてください。

もしこれが、銀行口座や年金や運転免許証や学校の成績や、あらゆる個人情報と紐づけられるマイナンバーカードだったら? なくした場合の被害は比になりません。

「院内でカードを紛失された場合、いったい誰の責任になるのか?」

2023年4月の保団連(全国保険医団体連合会)調査では、全国の介護施設・高齢者施設の59%が保険証廃止に反対、94%が「入居者のカードを管理できない」として懸念(けねん)を表明しています。

認知症患者の意思確認ができないことや、カード・暗証番号をなくしたときの責任が重すぎるとのこと。ATMも使えない患者や家族と疎遠な方など、どうすればよいのでしょう?

 

実はデジタルより紙のほうが便利です

「マイナンバーカードと統合してデジタル化すれば便利になります」と政府は言います。

でも本当にそうでしょうか?

みなさんは、今の紙の保険証、不便ですか?

拙著『デジタル・ファシズム』にも書きましたが、私たちの国は、自然災害大国です。しょっちゅう起きる地震に、台風、ゲリラ豪雨……。災害時に停電して通信が遮断されたら、マイナ保険証は使えません。

ある医師はこう言いました。

「マイナ保険証は患者の同意がなければ勝手に確認できない。紙の保険証をなくすというが、ご本人の意識がない状態で、病院側はどうすりゃいいんですかね?」

時代遅れだ、アナログだと批判されているけれど、飲んでいる薬や持病が把握できる「紙のお薬手帳」が活躍している現実を考えると、なんでもデジタル化すればいいわけではないようです。

災害時に限らず、マイナ保険証を使うには4桁の暗証番号が必要ですから、覚えていられない認知症患者や高齢患者、寝たきりの患者などは困ってしまいます。

そうした人々の中には、忘れないようにカードにマジックで暗証番号をメモする方もいるようですが、あっという間に犯罪に使われてしまうでしょう。

紙の保険証と違い、老人ホームや介護施設の職員にマイナンバーカードと暗証番号をセットで預けるわけにもいきません。

紙の保険証なら更新されたときに自動的に家に郵送してくれますが、マイナンバーカードは本人が市区町村窓口で再発行手続きをしなければならず、これも高齢者や要介護の方々、障害のある人たちには大きな負担になってしまうでしょう。

コロナ禍でマスクマップを作ったことで世界的に有名になった、台湾のオードリー・タンデジタル担当大臣に、デジタルの制度設計をうまく生かせる秘ひ訣けつを聞いたときのことを思い出します。

そのときの回答を、今の政府にそのまま聞かせましょう。

「なぜそんな当たり前のことを聞くのか?」というように一瞬微笑(ほほえ)んだ後、彼女はこう言ったのでした。

「簡単ですよ。社会の中で、一番システムを使いづらい人たちに合わせて作ればいいんです」

*   *   *

続きは本書『堤未果のショック・ドクトリン』をお楽しみください。

関連書籍

堤未果『堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法』

「ショック・ドクトリン」とはテロや大災害など、恐怖で国民が思考停止している最中に為政者や巨大資本が、どさくさ紛れに過激な政策を推し進める悪魔の手法のことである。日本でも大地震やコロナ禍という惨事の裏で、知らない間に個人情報や資産が奪われようとしている。パンデミックで空前の利益を得る製薬企業の手口、マイナンバーカード普及の先にある政府の思惑など……。強欲資本主義の巧妙な正体を見抜き、私たちの生命・財産を守る方法とは? 滅びゆく日本の実態を看破する覚悟の一冊。

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堤未果のショック・ドクトリン

テロや大災害など国民が恐怖で思考停止しているどさくさくに紛れ、為政者や巨大資本が過激な政策を押しとおす悪魔の手法がショック・ドクトリン。日本でもコロナ禍や震災などの惨事の裏で、知らない間に国民の情報や資産が奪われようとしている――。

パンデミックで空前の利益を得る製薬企業の手口やマイナンバーの裏にある政府の思惑など。強欲資本主義の正体を見抜き、私たちの生命・財産を守る方法とは?

滅びゆく日本の実態を看破する一冊より、読みどころを抜粋してお届けします。

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堤未果 国際ジャーナリスト

国際ジャーナリスト。東京生まれ。ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒、ニューヨーク市立大学大学院国際関係論学科修士号取得。国連、米国野村證券などを経て現職。米国と日本を中心に政治、経済、医療、教育、農政、エネルギー、公共政策など、公文書と現場取材に基づく幅広い調査報道と各種メディアでの発信を続ける。『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』で黒田清・日本ジャーナリスト会議新人賞、『ルポ 貧困大国アメリカ』で日本エッセイスト・クラブ賞、新書大賞を受賞。著書に『政府は必ず嘘をつく』『日本が売られる』『デジタル・ファシズム』『ルポ 食が壊れる』などがある。海外でも著作翻訳多数。WEB番組「月刊アンダーワールド」キャスター。

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